社員が長く働き続ける会社には、理由があります。「定着率が高い会社」とは、単に離職者が少ないだけでなく、社員の満足度や組織文化の健全性が反映された企業といえます。本記事では、定着率の基本的な意味や計算方法、平均値の目安、離職率との違いを押さえながら、実際に定着率を高めている会社の特徴や具体的な社内施策も紹介していきます。採用力や組織改善に悩む経営者・人事担当者の方にとって、有益なヒントが見つかるはずです。
定着率とは?意味と離職率との違いを明確に理解する
定着率とは、一定期間内に採用した社員がどれだけ在籍し続けているかを示す指標です。一方で離職率は、既存社員の中でその期間内に退職した人の割合を指します。どちらも人材マネジメントにおいて重要な数値ですが、視点が異なります。
離職率が高い=問題があると直感的に判断しがちですが、業種や成長フェーズによって自然な変動もあるため、単体での判断には注意が必要です。定着率を見ることで、「採用した人材が組織に馴染み、継続的に働いているか」を可視化できます。
定着率の計算方法と理解しておくべきポイント
定着率の代表的な計算式は以下の通りです。
定着率(%)= 一定期間後に在籍している人数 ÷ 採用時の人数 × 100
たとえば、2023年4月に新卒10名を採用し、2024年4月時点で7名が在籍している場合の定着率は、70%となります。これは企業としては平均的な数値とされます。
注意すべきは、「どの期間で測定するか」を統一することです。一般的には1年後・3年後の定着率を用いますが、中途採用の場合は半年〜1年の短期間で把握するケースもあります。
定着率の平均と業界別の目安
厚生労働省のデータによれば、近年の新卒3年以内の定着率(=3年以内離職率の逆数に近い数値)は以下のとおりです。
- 全業種平均:約70%前後
- 医療・福祉:約60%
- 飲食・小売:約50%前後
- 製造・IT:約75〜80%
このことから、定着率70パーセントという水準は「平均的なライン」として捉えることができます。企業が掲げる目標としては、80%以上をひとつの基準とするのが理想的です。
定着率が高い会社の特徴とは?
実際に定着率が高い会社には、共通する要素が存在します。単に福利厚生が手厚いというよりも、「人が定着しやすい文化とマネジメント体制」が構築されています。
組織風土がオープンで心理的安全性が高い
上下関係の風通しがよく、意見が言いやすい職場では、新人や若手も早期離職しにくくなります。上司との1on1や定期的なフィードバック面談など、コミュニケーション設計がしっかりしています。
キャリア支援やスキルアップ制度が充実
定着率の高い会社は、社員の成長を中長期で支える体制があります。研修制度だけでなく、資格取得支援、キャリアパスの明示がなされており、目指すべき未来像が見えやすくなっています。
社内評価が透明で納得感がある
評価制度が不透明だと不信感が生まれ、離職の原因になります。定着率の高い企業は、目標設定やフィードバックが明文化され、評価基準に対する説明責任を果たしています。
ライフステージに応じた柔軟な働き方
育児や介護、転勤、健康上の理由などでキャリア継続が難しくなる局面をサポートできる体制がある企業は、長期的に人が定着しやすくなります。テレワーク、時短勤務、副業許可などが一例です。
定着率を高める社内施策の実例紹介
定着率の改善は一朝一夕ではありませんが、実際に成果を出している企業では次のような取り組みが行われています。
オンボーディングプログラムの整備
入社直後の3か月〜6か月をフォローする施策は、離職リスクを大幅に下げる効果があります。メンター制度や教育プログラム、社内FAQ、ウェルカムランチなどが該当します。
定期的な従業員満足度アンケートの活用
社員の声を拾い、職場環境改善に活かす仕組みを持っている企業は定着率が高い傾向にあります。アンケートだけで終わらせず、課題を発見しPDCAを回すことが重要です。
内定者フォロー・入社前の不安解消
新卒採用の場合は、内定から入社までの数か月の間に不安が蓄積し、辞退や早期退職のリスクになります。入社前研修、座談会、LINEグループなど、コミュニケーションの継続がカギとなります。
部署間連携を強化した異動制度や公募制度
キャリアが停滞したと感じた社員に、挑戦の機会を与える仕組みとして「社内FA制度」「社内公募制度」などを導入している企業は、自己決定感を与えることで定着率向上につなげています。
定着率向上を目指すうえで避けたい落とし穴
定着率を追うあまりに、問題の本質を見誤るケースも少なくありません。
- 離職者を責める風土ができてしまい、逆に職場が硬直する
- 数値だけを管理し、現場の声や満足度を軽視する
- 表面上の制度導入で実態が伴わない「やってる感」だけが残る
定着率は「結果」であり、「社員が安心して働ける環境づくり」の“副産物”と捉えるべきです。制度と文化の両輪で取り組む必要があります。
まとめ:定着率の高い会社を目指すには
定着率の高さは、採用力や人材ブランドの強さを示す重要な指標です。ただしその裏には、透明な評価制度、丁寧な人間関係づくり、個々のキャリアに寄り添う柔軟な体制など、日々の積み重ねが存在しています。
まずは現状の定着率を正しく計測し、目安となる業界平均と照らし合わせて課題を抽出しましょう。そのうえで、社員が「ここで働き続けたい」と思えるような取り組みを一つずつ積み重ねていくことが、結果的に企業の競争力強化にもつながっていきます。