Salesforceの運用で「項目レベルセキュリティって、どこまで設定すればいいの?」と悩む担当者は少なくありません。設定を誤ると、営業部門が見てはいけないデータを閲覧できてしまったり、逆に必要な項目が非表示になって業務が止まるリスクもあります。本記事では、Salesforceの「項目レベルセキュリティ」を、安全性と業務効率の両面から徹底的に解説します。基本の仕組みから、一括設定・データローダ・メタデータ・変更セットまで、実務担当者が「今日から使える」具体的な方法を紹介します。
Salesforceにおける項目レベルセキュリティの基本構造を理解する
Salesforceのセキュリティは、階層的な構造で成り立っています。その中でも「項目レベルセキュリティ(Field-Level Security)」は、最も細かい粒度でユーザーのデータアクセスをコントロールできる重要な仕組みです。
項目レベルセキュリティとは何か
項目レベルセキュリティとは、オブジェクトの中にある“各項目ごと”にアクセス権を設定する機能のことです。
たとえば「商談」オブジェクトの中で、金額や確度などの項目は営業担当者に見せても問題ないが、「利益率」や「原価」は非表示にしたい──そんな細かな制御ができます。
この仕組みを活用すれば、同じ画面を見ていても、ユーザーの職務に応じて見える情報を変えることができます。結果として、情報漏えいリスクを下げながら、業務効率も損なわない運用が可能になります。
Salesforceセキュリティ階層における位置づけ
Salesforceのセキュリティは、以下の4階層で成り立っています。
- 組織レベルのアクセス制御(ログインやIP制限など)
- オブジェクトレベルのアクセス制御(オブジェクト単位の参照・作成・編集・削除権限)
- 項目レベルのアクセス制御(各フィールドの参照・編集可否)
- レコードレベルのアクセス制御(個別レコード単位の共有設定)
この中で項目レベルセキュリティは「3」にあたり、レコードの中身をさらに分解して細かく制御できる層です。
「参照のみ」と「編集可」の違い
Salesforceでは、各項目に対して「参照のみ」と「編集可」を設定できます。
たとえば、「顧客名」は参照も編集もOK、「売上金額」は参照のみ、「利益率」は非表示といった形です。
これにより、現場担当者には必要な情報だけを見せ、経営層にはすべてのデータを開示する、といった柔軟な管理が実現できます。
ただし、設定を誤ると「現場が必要な項目を編集できない」「逆に不要な機密項目を修正できてしまう」といったトラブルが起きるため、慎重な運用が求められます。
権限セットと項目レベルセキュリティの関係を正しく整理する
Salesforceのアクセス管理で混乱しやすいのが、「プロファイル」「権限セット」「項目レベルセキュリティ」の関係です。
それぞれの役割を明確に理解しておくと、設定のミスや重複を防げます。
プロファイルと権限セットの役割
プロファイルは、ユーザーがどのオブジェクトにどのようにアクセスできるかを決める“基本権限”です。
一方、権限セットは「特定ユーザーだけ追加権限を与えるための補助ツール」です。
たとえば営業担当全員のプロファイルでは「契約金額」は参照のみとし、管理職だけが「編集可」としたい場合、管理職向けの権限セットを作成して追加します。
このように、プロファイルは“標準設定”、権限セットは“拡張設定”として使い分けるのが基本です。
権限セットで項目レベルセキュリティを上書きできる
項目レベルセキュリティはプロファイルと権限セットの両方で管理できます。
たとえばプロファイルで「参照のみ」と設定されていても、権限セットで「編集可」にすると、最終的には編集が可能になります。Salesforceは常に「最も強い(許可する)設定」を優先します。
ただし、複数の権限セットを重ねると可視性が複雑化し、「誰が何を見られるのか」が分かりにくくなります。
運用ルールとしては「権限セットはできる限り少なく」「名前規則を明確に」「定期的な棚卸しを実施」が理想です。
管理設計で失敗しないコツ
- プロファイルは“共通設定”、権限セットは“例外対応”に限定する
- 権限セットは部門単位ではなく“機能単位”で設計する(例:見積編集権限セット)
- 「Field Accessibility」ビューで定期的に項目アクセスを一覧化
- 新規項目追加時は、既存プロファイル・権限セット両方の反映を忘れずに行う
これらを徹底しておけば、「誰かが見えてはいけないデータを見てしまった」という事故を防ぎながら、業務変更時の対応もスムーズに行えます。
項目レベルセキュリティを一括で設定・管理する効率的な方法
手作業で1項目ずつ設定を変更するのは非常に手間がかかります。ここでは、Salesforce管理者が実務で使う「項目レベルセキュリティ 一括設定」の代表的な手法を紹介します。
データローダを使って一括変更する方法
Salesforceの「データローダ(Data Loader)」は、大量データのインポート・エクスポートを行う公式ツールです。
項目レベルセキュリティを直接設定する機能はありませんが、「メタデータを一括編集して反映する」仕組みを組み合わせることで、効率的に設定を管理できます。
手順の一例は以下の通りです。
- 権限セットまたはプロファイルのメタデータをエクスポートする
- 対象項目の「FieldPermissions」情報をCSVで修正する
- データローダで修正済みデータをSalesforceにインポートする
この流れで、複数項目の参照・編集権限をまとめて変更できます。
ただし、直接的なGUI操作に比べて設定ミスが致命的になりやすいため、Sandbox環境でテストしてから本番反映することを忘れないようにしましょう。
メタデータAPIで自動化する方法
Salesforceの「メタデータAPI」を使うと、項目レベルセキュリティ設定をXML形式でエクスポート・インポートできます。
特に開発チームや情報システム部門では、設定ファイルをGitなどでバージョン管理し、変更履歴を追えるようにする運用が主流です。
メタデータAPIを使うメリットは以下の3点です。
- 設定の差分を正確に把握できる
- 複数環境(Sandbox・本番)の同期が容易
- CI/CD(継続的デプロイ)に組み込み可能
この方法は「項目レベルセキュリティ メタデータ」で検索する層が多く、Salesforce運用の“高度化・自動化”を目指す企業に特に支持されています。
項目レベルセキュリティの一覧を可視化する方法
Salesforceの設定画面には「Field Accessibility(項目アクセス権)」という便利な一覧表示ツールがあります。
オブジェクトごとにどのプロファイル・権限セットが参照・編集できるのかを一覧で確認できるため、棚卸し作業や監査対応に最適です。
運用担当者は、以下のタイミングで定期的にこの一覧を確認しましょう。
- 新しい項目を追加したとき
- 新しいプロファイルや権限セットを作成したとき
- 組織変更や異動があったとき
- 年次監査や情報セキュリティチェックの前
CSV出力してExcelやスプレッドシートで整理すれば、社内共有にも便利です。
変更セットで項目レベルセキュリティを安全に反映する手順
Salesforceでは、Sandbox環境で設定をテストしたあと、本番環境に「変更セット(Change Set)」を使って反映します。
これは、Salesforce標準の“設定デプロイツール”であり、管理者にとって最も安全な移行方法です。
変更セットで反映できる内容
変更セットには、以下のような構成要素を含めることができます。
- プロファイルや権限セットの設定情報
- 各オブジェクトの項目構成
- ページレイアウト、レコードタイプ
- 項目レベルセキュリティの設定内容
つまり、Sandboxで調整した項目アクセス権を、本番環境へ安全に同期できます。
実務での変更セット利用の流れ
- Sandboxで項目レベルセキュリティを設定・テストする
- 変更セットを作成し、関連オブジェクト・権限セットを追加する
- 本番環境にアップロードして検証する
- 承認後にデプロイを実行する
この流れであれば、直接本番環境を触る必要がなく、リスクを最小限にできます。
変更セット運用の注意点
- 変更セットには“依存関係”があるため、関連オブジェクトを漏れなく追加する
- メタデータAPIやSFDX CLIによるバックアップを事前に取得する
- 反映後に「項目レベルセキュリティ 一覧」を確認して整合性を検証する
変更セットを用いたデプロイは、Salesforce管理者にとって最も現実的で安全な方法です。特に複数人での運用や外部開発ベンダーとの連携時には欠かせません。
「参照のみ」設定の落とし穴と安全な使い分け方
「参照のみ」は安全な設定のように見えて、実は業務の妨げになることもあります。
たとえば営業担当が進捗を更新できない項目が増えると、Excelでの二重管理が発生し、結果的にミスや重複入力を招くケースもあります。
「参照のみ」を使うべき場面
- 財務情報や利益率などの機密データ
- 外部システムから自動取得されるデータ(手動更新禁止)
- 契約内容や監査記録など、改ざんリスクを避けたい情報
これらは「参照のみ」で管理するのが適切です。逆に、進行中の商談ステータスや次回アクションなど、日々更新される項目まで「参照のみ」にすると、現場の生産性が落ちてしまいます。
業務に応じたバランス設計
安全性と効率性を両立するためには、「誰が・どの業務で・どの項目を操作する必要があるのか」を整理し、
部門単位ではなく業務プロセス単位で設定を考えることが大切です。
たとえば、「見積作成権限」「契約確定権限」「顧客情報編集権限」など、業務フローに合わせて細分化しておくと混乱しにくくなります。
項目レベルセキュリティ運用で失敗しないためのルールと自動化の工夫
項目レベルセキュリティの設定は、一度整えても時間とともに崩れていきます。異動・人員追加・新機能導入などで新しい項目が増えるたびに、権限の整合性を取り直す必要があるからです。
定期棚卸しと自動チェックの仕組みを導入する
項目レベルセキュリティの棚卸しを“人手”で行うのは限界があります。
そこで活躍するのが「メタデータAPI」や「データローダ」を用いた自動チェックです。
スクリプトで定期的にメタデータを取得し、項目アクセス設定の差分を検出することで、変更漏れや設定ミスを早期に発見できます。
チーム内での運用ルールを文書化する
権限変更の責任者を明確にし、「誰が承認して反映するのか」を定義しておくことも大切です。
Salesforce管理チームと現場リーダーの間で“暗黙の了解”になっていると、緊急対応時に誤った設定が入り込むリスクがあります。
まとめ|項目レベルセキュリティは「守るため」だけでなく「効率化の鍵」
項目レベルセキュリティは、Salesforceのセキュリティ設定の中でも特に誤解されやすい領域です。
単に「データを守るための壁」ではなく、**必要な人に必要な情報だけを見せる“業務効率の仕組み”**として設計することが重要です。
本記事で紹介したように、
- プロファイルと権限セットの役割を整理する
- メタデータAPIやデータローダで一括管理する
- 一覧化・棚卸しを定期的に行う
- 変更セットで安全にデプロイする
これらを実践すれば、Salesforceの運用負担を減らしつつ、情報セキュリティも確実に強化できます。
項目レベルセキュリティを“形だけの設定”で終わらせず、業務の仕組みそのものを支える戦略的ツールとして活用していきましょう。





























