「判断が遅い」「仕事の優先順位がつけられない」「会議で意見をまとめられない」——そんな悩みを抱えるビジネスパーソンに注目されているのがインバスケット思考です。もともとは企業研修やマネージャー登用試験などで使われてきた手法ですが、今では一般社員やリーダー層、さらにはフリーランスの自己管理にも応用されています。この記事では、インバスケット思考の基本から、トレーニング方法、よくある失敗例、著者・鳥原隆志氏の理論、そして「できない人」が克服すべき思考のクセまでを徹底解説します。
この記事を読み終える頃には、あなた自身の仕事判断にも“軸”が生まれるはずです。
インバスケット思考とは何か
インバスケット思考とは、「限られた時間と情報の中で最適な判断を下す力を鍛える思考法」です。
英語で“In Basket”とは「未処理の書類が入ったトレー」という意味で、文字通り「机の上にある仕事の山をどうさばくか」を模擬体験するものです。
企業研修などでは、上司になったつもりで**多数の案件(報告書・依頼・クレーム・指示メモなど)**を読み、優先順位を決めて対処方法を考えます。時間制限があるため、すべてを完璧にこなすことは不可能。その中で「何を後回しにし、何を最優先するか」「誰に任せるか」「どんなリスクがあるか」を瞬時に判断する訓練です。
インバスケット思考の目的と効果
この手法の本質は、「すべてをやるのではなく、最も価値ある判断を選ぶ」ことにあります。
つまり、タスク処理ではなく意思決定の質を高める訓練です。インバスケット思考を実践すると、以下のような力が身につきます。
- 優先順位力:多忙な状況でも、どのタスクを先に処理すべきか判断できる
- 問題把握力:一見関係なさそうな情報の中から本質を見抜く
- リスク管理力:選択の影響を多角的に予測できる
- 意思決定スピード:完璧ではなく“最善”を選べるようになる
たとえば、あなたが営業マネージャーで、取引先からのクレーム、部下の休暇申請、社内会議の準備が同時に発生したとします。どれから手をつけるべきでしょうか。すべてを完璧に処理しようとするとパンクします。しかし「取引先対応が最優先」「会議は部下に任せる」といった判断ができれば、チーム全体が機能的に動けるのです。
インバスケット思考トレーニングで身につく判断力の鍛え方
インバスケット思考は、ただ“問題を解く”トレーニングではありません。
本当の目的は「状況を整理し、決断するプロセス」を習慣化することにあります。
ステップ1:情報を整理する
まずは与えられた資料を読み込むのではなく、分類することから始めます。
たとえば、「期限がある仕事」「人間関係が絡む仕事」「判断を上司に仰ぐ仕事」など、性質ごとに仕分けていきます。
この段階で重要なのは、「すぐ決めないこと」です。多くの人が最初に失敗するのは、“読む=すぐ判断する”という早とちり思考。インバスケット思考では、整理が8割、判断が2割と言われるほど、冷静な構造化が肝心です。
ステップ2:優先順位を決める
次に、「重要度」と「緊急度」の2軸で判断します。
これは有名なアイゼンハワーマトリクス(重要・緊急の4象限)にも通じる考え方です。
- 緊急かつ重要:すぐに自分が対処する(例:顧客トラブル)
- 重要だが緊急でない:期限を決めて計画的に進める(例:部下育成)
- 緊急だが重要でない:他者に任せる(例:会議資料の印刷)
- どちらでもない:削除・保留する
優先順位の決め方に迷ったら、「放置したら何が一番悪化するか?」を基準に考えると効果的です。
ステップ3:実行計画を立てる
優先順位を決めたら、それぞれに「誰が・いつまでに・何をするか」を具体化します。
ここで大切なのが、“完璧な答え”を出そうとしないこと。
たとえば、インバスケット問題の模擬試験でも、「全問対応」はむしろ減点対象です。なぜなら、リソースの限界を理解せずに無理をする上司は、現場では“判断できない人”だからです。
ステップ4:判断の根拠を言語化する
最終段階は、なぜその判断をしたのかを説明できるようにすることです。
インバスケット思考では「結果」よりも「プロセスの明確化」が重視されます。
上司や面接官が見ているのは、「この人はどんな価値観・基準で動くのか」。
つまり、ビジネスの世界では“論理的に説明できる思考”こそが、信頼される力になるのです。
インバスケット思考ができない人の特徴とその克服法
インバスケット思考の目的や流れを理解しても、いざ実践すると「全然できない」「時間内に判断できない」と感じる人も多いです。
では、なぜ“インバスケットができない人”が生まれるのでしょうか。その背景には、いくつかの共通した思考パターンがあります。
判断を先延ばしにするタイプ
最も多いのが「考えすぎて決められない」タイプです。完璧主義やミスへの恐怖が強く、「もっと情報が揃ってから判断しよう」と保留し続けます。
このタイプは、「80点で動く」感覚を身につけることが大切です。ビジネスでは、情報の100%が揃う瞬間はほとんどありません。むしろ“限られた条件で決断する”ことが仕事の本質です。
全部自分で抱え込むタイプ
「自分がやらないと気が済まない」「他人に任せるのが不安」という人も、インバスケットでつまずきやすい傾向があります。
判断の本質は「やる・やらない」ではなく、「誰がやるのが最も効果的か」です。部下に任せる判断をできることが、マネジメント能力の証です。
問題の本質を見抜けないタイプ
目の前のメールやタスクにばかり反応してしまい、重要な根本課題を見逃す人もいます。
たとえば「A社からのクレームに対応する」ことに集中しすぎて、「そもそも社内連携の仕組みが原因だった」と気づかないケースです。
このような人は、「なぜこれが起きているのか?」を3回繰り返し問いかける“Why思考”を取り入れると、根本原因が見えるようになります。
時間感覚が甘いタイプ
「あとでやろう」と思っていたタスクが雪だるま式に増え、最終的に処理できなくなる人も多いです。
インバスケット思考は、限られた時間での判断訓練。そのため、時間配分の甘さは致命的です。
トレーニングでは「30分で10件処理する」など、制限を設けることで“時間に追われる感覚”を再現し、判断スピードを体に覚えさせます。
インバスケット思考トレーニングの効果的な進め方
1. 本や教材で基礎を学ぶ
まずは、インバスケット思考の理論を体系的に学ぶことが第一歩です。
代表的なのが、鳥原隆志氏の著書『究極の判断力を身につけるインバスケット思考』。
この本では、ビジネス現場でよくある問題(会議の進行、部下のトラブル、取引先交渉など)をもとに、具体的な判断プロセスを解説しています。
2. 模擬問題に取り組む
書籍や研修教材には「インバスケット問題」と呼ばれるケーススタディが用意されています。
たとえば「あなたは営業部長。出張前に10件の案件が届きました。2時間以内に指示を出してください」といった設定。
このような模擬体験を通じて、自分の思考のクセが明確になります。
3. 自分の回答を振り返る
重要なのは、問題を解いた後の“自己分析”です。
「なぜその判断をしたのか」「どんな根拠で優先順位をつけたのか」を紙に書き出すことで、思考の癖や弱点が浮き彫りになります。
自分の回答を**他の人の回答例(インバスケット回答例)**と比較すると、客観的な差が見えてきます。
4. チームでディスカッションする
実践効果を高めるには、複数人で議論するのが有効です。
同じ資料を見ても人によって判断が異なるため、「なぜその選択をしたのか」を話し合うことで、視野が広がります。
これはまさに現場のマネジメント会議と同じ構造であり、「多様な判断を受け入れる柔軟性」も養えるのです。
鳥原隆志が提唱する“インバスケット思考”の真髄
インバスケット思考の第一人者として知られるのが、鳥原隆志氏です。
彼は企業研修や書籍を通じて「答えのない時代に必要な判断力」を体系化しました。
鳥原氏が強調するのは、次の3つの要素です。
- 目的思考:行動の前に「何のために?」を問う
- 仮説思考:完璧な情報を待たず、暫定的に決めて修正する
- 整理思考:情報を“構造化”してから判断する
たとえば、部下がミスをしたとき、感情的に叱るのではなく「この状況の目的は何か?」「再発防止に何が必要か?」を整理して対応する。これがインバスケット的な思考法です。
彼の理論は、単なる問題解決を超え、“人を動かすリーダーの思考習慣”として多くの企業で導入されています。
まとめ:インバスケット思考は“考える力”を鍛える最強の筋トレ
インバスケット思考は、情報処理でもタスク管理でもなく、「考える筋力」を鍛えるトレーニングです。
ビジネスにおいて最も価値のあるのは、正確さではなく限られた中で最善を選ぶ力。
迷ってもいい、失敗してもいい。大事なのは「判断の理由を説明できる人になること」です。
もし今、判断に迷う場面が多いなら、まずはインバスケット思考を一度体験してみてください。
毎日のメール処理やタスク整理に、この思考を取り入れるだけで、仕事の優先順位のつけ方が変わり、意思決定のスピードも格段に上がります。
判断力は生まれつきではなく、訓練で磨けるスキルです。
“究極の判断力”は、あなたのデスクの上から始まります。




























