「組織は戦略に従う」をわかりやすく解説|経営戦略と組織構造の関係をビジネス事例で学ぶ

企業がどんなに素晴らしい戦略を立てても、その戦略を実行できる“組織の形”が整っていなければ成果は出ません。「組織は戦略に従う」という言葉は、まさにその本質を突いた経営理論です。この記事では、チャンドラーの提唱した理論をわかりやすく解説し、トヨタやP&Gなど実際の企業事例も交えながら、戦略と組織をどう結びつけるべきかを具体的に紹介します。経営層だけでなく、マネージャーや現場リーダーにも役立つ“組織設計の考え方”が身につきますよ。


目次

「組織は戦略に従う」とは何かをわかりやすく理解する

「組織は戦略に従う(Structure follows Strategy)」という言葉は、経営学者アルフレッド・D・チャンドラー(Alfred D. Chandler Jr.)が著書『経営戦略と組織(Strategy and Structure)』で提唱した理論です。
この考え方は、「企業がどんな戦略を取るかによって、最適な組織構造も変わる」という意味を持ちます。

たとえば、ある企業が「国内市場でのシェア拡大」を目指す戦略を掲げている場合、国内営業部門を中心にした組織が必要になります。
一方で「海外市場への進出」を進めるなら、現地法人の設立やグローバル管理体制など、まったく異なる組織構造を取らなければ戦略が機能しません。

チャンドラーはこの研究の中で、アメリカの大手企業(デュポン、GM、スタンダード・オイルなど)の事例を分析し、次のような結論を導き出しました。

  • 経営戦略が変化すると、既存の組織構造では対応できなくなる
  • 戦略に合わせて組織構造を変えた企業は成長を続けた
  • 組織変更を怠った企業は、戦略実行力を失い業績が停滞した

つまり「組織は戦略に従う」とは、経営戦略が先にあり、その戦略を実行するための“器”として組織が存在するという考え方なのです。

この理論が今のビジネスで注目される理由

現代の企業では、デジタル化・グローバル化・リモートワークなど、環境変化が極めて速く進んでいます。
その中で「戦略を変えたのに組織が昔のまま」という状態が多くの企業で起こっています。
たとえば、DX(デジタルトランスフォーメーション)を掲げていても、部門間の情報共有ができない縦割り組織のままでは成果が出ません。

「戦略の変更」だけに注目しても意味がなく、「それを実行できる組織構造をどう変えるか」を考える必要がある。
まさにチャンドラーの理論が、現代の企業改革にも通じているのです。


チャンドラーが提唱した「組織は戦略に従う」の背景と理論の核心

チャンドラーはハーバード大学の経営史学者として、20世紀初頭のアメリカ企業の発展を詳細に分析しました。
彼が注目したのは、急成長した大企業たちがどのようにして複雑な経営を行っていたのかという点です。

経営戦略と組織構造の因果関係

チャンドラーの分析によると、経営の発展段階に応じて企業の組織構造は次のように変化していきます。

  1. 単一事業段階(Single Line Business)
     → 製造から販売まで一貫管理する単純な機能別組織。
  2. 多角化段階(Diversification)
     → 製品や市場を増やすと、機能別では限界が生じる。
  3. 分権型段階(Divisional Form)
     → 事業部制を採用し、各部門が自律的に経営する体制へ。

この変化を体系的に示したのが「組織は戦略に従う」というフレーズです。
つまり、戦略が単一製品中心から多角化戦略に変われば、それに合わせて組織も事業部制に再編する必要がある。
企業の成長段階を通じて、戦略と組織は“車の両輪”のように進化していくということです。

チャンドラー理論の4つの要点

チャンドラーの理論をわかりやすく整理すると、次の4つのポイントに集約されます。

  • 戦略は先に立つ。組織は後から作られる。
  • 組織は戦略を実行するための「手段」である。
  • 戦略が変わると、組織構造の変更が必要になる。
  • 組織変革を怠ると、戦略は形骸化する。

この考え方は、のちに「経営戦略学」の基礎理論として多くの経営学者に影響を与えました。
特に、アンゾフの「製品・市場マトリクス」やポーターの「競争戦略論」と並び、現代経営の礎といえる理論です。


「組織は戦略に従う」を実践した企業の事例と成功パターン

理論だけではなく、実際の企業がどのように「組織は戦略に従う」を体現してきたのかを見てみましょう。
ここでは、トヨタ・P&G・ソニーの3社を取り上げ、それぞれの戦略転換と組織再編の流れを具体的に紹介します。

トヨタ自動車:グローバル戦略と地域分権型組織

トヨタは2000年代以降、世界各地で生産・販売を展開するグローバル企業へと進化しました。
その際、戦略の中心は「現地市場のニーズに応じた製品開発」となり、本社主導から地域分権型の体制へと変わります。

たとえば、北米・欧州・アジアごとに独自の開発部門と生産拠点を設け、意思決定を分散化。
この仕組みにより、各地域の嗜好や規制に迅速に対応できるようになりました。
つまり、グローバル展開という戦略に合わせて、組織構造を“地域分権型”に再設計したのです。

この変化によって、トヨタは市場変化への柔軟性を高めることに成功しました。
戦略と組織の一致が、安定的なグローバル競争力の土台になっています。

P&G:ブランドマネジメント戦略と事業部制の確立

チャンドラーの理論を最も忠実に実践した企業の一つが、アメリカのP&G(プロクター&ギャンブル)です。
P&Gは1940年代、急速に多角化を進める中で、従来の機能別組織では管理が追いつかなくなりました。

そこで採用されたのが「ブランドマネジメント制(Brand Management System)」です。
これは製品ごとに独立した事業部(ブランドマネージャー)を設け、企画・開発・販売までを一気通貫で管理する仕組み。
この構造は、まさに「組織は戦略に従う」の典型例です。

多角化戦略を支える事業部制への転換によって、P&Gは消費財業界で圧倒的なブランド力とスピード経営を実現しました。
現在でも多くのグローバル企業が、このP&Gモデルをベンチマークにしています。

ソニー:商品軸から顧客体験軸への組織変革

ソニーは2010年代後半、事業部ごとに独立した製品主導の体制から、「顧客体験」を中心とした戦略にシフトしました。
具体的には、エンタメ・ゲーム・音楽・デバイスといった分野を横断的に連携させ、体験価値を統合する体制に変更。
これは、戦略の変化に合わせて組織構造を“横断型”に再構築した例です。

かつてのソニーは事業部間の競合が激しく、シナジーが生まれにくい構造でした。
しかし戦略転換をきっかけに、組織を「連携しやすい形」に作り直したことで、再び企業価値を高めることに成功したのです。


「組織は戦略に従う」を無視したときに起こる失敗とその教訓

どんなに優れた戦略を描いても、組織がそれに追いついていなければ失敗します。
実際に「組織が戦略に従っていない」ことで成果を出せなかった企業事例も多く存在します。

戦略変更に組織が追いつかない典型例

  1. デジタル戦略を掲げても、IT部門が孤立している
     → 全社横断のデータ活用が進まず、成果が出ない。
  2. 新規事業部を作っても、既存部門との調整ができない
     → 経営層が意図したシナジーが生まれない。
  3. 意思決定のスピードを上げたいのに、階層が多すぎる
     → 戦略が現場に届くまでに時間がかかる。

これらの失敗に共通するのは、「戦略が変わったのに組織が変わっていない」こと。
戦略を機能させるには、意思決定の流れ・情報共有・責任範囲を見直す必要があります。

組織構造を変えないリスク

チャンドラーが指摘した通り、組織が戦略に従わない状態を放置すると、次のような問題が起こります。

  • 意思決定が遅れ、チャンスを逃す
  • 社員のモチベーションが下がる
  • 経営層と現場の間で方向性がズレる
  • 投資が分散し、経営効率が低下する

戦略と組織の整合性を保つことは、単なる理論ではなく「経営の生命線」だといえます。

戦略と組織を一致させるための実践プロセス

戦略と組織の関係は理論だけではなく、実務の中でどう整えるかが重要です。ここでは、実際に企業が戦略と組織を一致させるために踏むべきプロセスを、段階的に整理して紹介します。

戦略を明確に言語化することが出発点

まず必要なのは、「戦略を誰もが理解できる言葉にすること」です。
戦略とは「どの市場で、どんな価値を、どのように提供するか」という方向性のこと。経営層の頭の中にだけある状態では、組織がそれに従うことは不可能です。

たとえば、「新しい市場に参入する」「既存顧客へのアップセルを強化する」「海外展開を加速する」といった戦略を明確に言語化し、それぞれの戦略目標がどんな行動につながるのかを共有することが欠かせません。
この「戦略の翻訳力」が、組織を動かす第一歩です。

組織構造を戦略に合わせて再設計する

次に行うのは、戦略を実現するための最適な組織構造の設計です。
組織構造にはいくつかの代表的な形があります。

  • 機能別組織:営業・製造・開発など職能ごとに構成される。安定的な環境に強い。
  • 事業部制組織:製品や市場単位で部門を分ける。多角化や海外展開に有効。
  • マトリクス型組織:機能と事業の両方の視点を持つ。柔軟だが、権限の線引きが難しい。
  • プロジェクト型組織:短期間で成果を出すために横断的に編成。スピード重視型の戦略に合う。

戦略によって適した構造は異なります。
例えば、デジタル化を進める企業なら、情報共有とスピードが重視されるため、従来の縦割り構造から横断的なマトリクス型へ移行するのが効果的です。
逆に、品質や安全性を重視する製造業では、職能ごとに責任を明確にする機能別組織の方が安定した成果を出せます。

権限と責任の再配置で「戦略の現場化」を進める

戦略が現場で実行されない最大の理由は、「意思決定の遅さ」と「責任の不明確さ」です。
そのため、戦略に合わせて権限と責任を再配置することが欠かせません。

たとえば、新規事業を推進する戦略を取る場合、現場リーダーにある程度の裁量権を与え、スピーディに意思決定できる環境を整える必要があります。
逆に、コスト削減や品質管理を重視する戦略では、中央集権的に統制を効かせる方が適しています。

重要なのは、「どの戦略に、どんな意思決定構造が最も適しているか」を見極めることです。


アンゾフとの比較で理解する「組織は戦略に従う」の応用範囲

チャンドラーの理論とよく比較されるのが、経営学者イゴール・アンゾフの理論です。両者は同じ“戦略論の祖”と呼ばれますが、アプローチが異なります。

アンゾフの理論:成長方向を定める「製品・市場マトリクス」

アンゾフは「企業がどの方向に成長するか」を軸にした「製品・市場マトリクス」を提唱しました。
4つの方向性に整理されます。

  1. 市場浸透:既存製品×既存市場(例:販促強化でシェア拡大)
  2. 市場開拓:既存製品×新市場(例:海外展開)
  3. 製品開発:新製品×既存市場(例:既存顧客向け新サービス)
  4. 多角化:新製品×新市場(例:異業種参入)

アンゾフの理論は「どんな方向で成長するか」という“戦略の選択”を重視するのに対し、チャンドラーは「その戦略を支える組織をどう設計するか」という“実行の仕組み”に焦点を当てています。

両者を組み合わせることで見える全体像

経営実務では、この2つの理論を組み合わせると強力です。
まずアンゾフのマトリクスで「戦略の方向性」を決め、次にチャンドラーの理論で「それを実現するための組織設計」を行う。
これにより、戦略と構造の整合性が取れた経営基盤をつくることができます。

たとえば、新市場開拓(アンゾフの第2象限)を進める場合、現地法人の設立や海外担当事業部の設置(チャンドラーの戦略に従う組織設計)が欠かせません。
理論の連携こそが、現代経営における実践的アプローチなのです。


「組織は戦略に従う」を英語と原典から学ぶ

チャンドラーの名言「Structure follows strategy」は、経営戦略の基本文献として世界中で引用されています。
この英語表現には単なる直訳以上の意味があり、「構造は戦略によって形づくられる」というニュアンスが込められています。

原典『Strategy and Structure(経営戦略と組織)』の意義

1962年に出版されたチャンドラーの『Strategy and Structure』は、経営学における転換点となりました。
彼はアメリカの大企業4社(デュポン、GM、スタンダード・オイル、シアーズ)を徹底的に調査し、次のように結論づけています。

“Structure follows strategy, and the most complex strategy requires the most sophisticated structure.”

訳すと「組織構造は戦略に従い、複雑な戦略には高度な組織構造が必要になる」。
つまり、企業が成長し多角化すればするほど、単純な組織では戦略を支えきれなくなるということです。

この研究が、のちに“戦略論”という独立した学問分野を生み出す基礎になりました。

現代に通じる「Structure follows strategy」の使われ方

今日でもこのフレーズは、グローバル企業の経営理念やMBA教材の中で頻繁に引用されます。
日本語で「組織は戦略に従う」というとやや堅い印象ですが、英語のニュアンスでは「戦略が先導し、組織がそれを形づくる」という、ダイナミックな変化を伴う表現です。

実際に海外の経営現場では、戦略変更に合わせて組織を柔軟に再構築することが当たり前の文化になっています。
その背景には、チャンドラー理論が根付いていることが大きいのです。


戦略と組織を一致させるためのマネジメント実践法

戦略に従った組織設計を成功させるには、単に図上の再編だけでなく、マネージャー層の動き方が重要です。
ここでは、現場レベルで実践できる3つのポイントを紹介します。

1. 戦略を「現場の言葉」で語れるようにする

戦略がトップダウンで降りてきても、現場で理解されなければ実行できません。
たとえば「顧客中心戦略」という言葉も、現場では「顧客データをどう使うのか」「接客で何を変えるのか」に落とし込む必要があります。
経営層が“戦略の翻訳者”として機能することが大切です。

2. 組織間の連携を促す仕組みをつくる

戦略が変わると、部門間の協働が増えるケースが多くなります。
マトリクス型やプロジェクト型の体制では、異なる部署の人が一緒に働くため、情報共有や目標設定のルール作りが欠かせません。
共通KPIや週次ミーティングなど、小さな習慣が戦略実行の基盤になります。

3. 組織文化を“戦略に合う方向”へ育てる

最後に見落とされがちなのが、組織文化です。
たとえば、リスクを避ける文化のままでは、挑戦的なイノベーション戦略は実現できません。
文化は一朝一夕に変えられませんが、リーダーの言葉や制度設計、評価基準を少しずつ変えていくことで、戦略と文化の方向性を揃えることが可能です。


現代企業が直面する課題と「組織は戦略に従う」の再定義

チャンドラーの時代と比べ、現代のビジネスはより複雑で変化が速くなりました。
このため、単に「組織が戦略に従う」だけでなく、「戦略もまた組織から学ぶ」という双方向の関係が求められています。

組織が戦略を形づくる時代へ

スタートアップやテック企業では、トップが全てを決めるよりも、現場の試行錯誤から新しい戦略が生まれるケースが増えています。
たとえば、Googleの「20%ルール(勤務時間の20%を自由なプロジェクトに使う)」からGmailやAdSenseが生まれたのは象徴的です。
これは「戦略が組織に従う」側面を示しており、チャンドラー理論の現代的発展形と言えます。

戦略と組織を同時に進化させるための考え方

  • 戦略は一度決めたら終わりではなく、組織の経験を通じて進化する。
  • 組織は固定的な図ではなく、戦略と共に動的に変化する“システム”である。
  • 戦略と組織を結びつけるのは「人」であり、経営者やマネージャーのリーダーシップが鍵になる。

このように、チャンドラーの理論を現代風に再定義すると、「戦略と組織は相互に影響し合う関係」として捉えるのが適切です。


「組織は戦略に従う」を深く理解するための本と学び方

このテーマをより体系的に学ぶには、チャンドラーの原典だけでなく、関連書籍や現代経営に応用した資料も役立ちます。

学ぶべき代表的な書籍

  • 『経営戦略と組織(Strategy and Structure)』/アルフレッド・D・チャンドラー著
     → 原理を学ぶための最重要文献。翻訳版も出版されています。
  • 『企業戦略論』/伊丹敬之・加護野忠男
     → 日本企業の文脈でチャンドラー理論を解説。
  • 『競争の戦略』/マイケル・E・ポーター
     → 戦略面の理論を補完し、組織構造との関係を考えるのに最適。
  • 『マネジメント』/ピーター・ドラッカー
     → 組織運営や人材管理の観点から“戦略を支える組織”を学べる。

学びを実務に落とし込む方法

  • 自社の戦略目標を書き出し、それに対応する組織体制を図にしてみる。
  • 戦略が変化したタイミングで、組織変更が必要かを必ず検討する。
  • 部署横断のプロジェクトで、実際に「戦略に従う組織」を体験する。

理論を読むだけではなく、身近な企業事例や自社分析と結びつけると理解が格段に深まります。


まとめ:「組織は戦略に従う」は経営の原則であり未来への指針

「組織は戦略に従う」という言葉は、60年以上前に生まれた理論ですが、今なお現場で生き続けています。
それは、どんな時代でも“戦略と組織の整合性”が成果の鍵を握るからです。

この記事で紹介したように、戦略が変われば組織も変える。
そして、組織を変えることで戦略をより実行しやすくする。
このサイクルを意識的に回せる企業こそが、変化の激しい時代に強く生き残るのです。

トヨタ、P&G、ソニーなどの成功例が示すように、戦略と組織を一体で考えることが経営効率を高め、社員の力を最大限に引き出します。
そしてその根底には、「構造は目的に従う」という普遍の原理があります。

今のあなたの組織は、戦略に従っていますか?
もし少しでもズレを感じるなら、今日から見直すチャンスです。
戦略を動かすのは組織であり、組織を動かすのは人。
この原理を理解すれば、どんなビジネスもより強く、よりしなやかに成長していくでしょう。

今週のベストバイ

おすすめ一覧

資料ダウンロード

弊社のサービスについて詳しく知りたい方はこちらより
サービスご紹介資料をダウンロードしてください