ビジネスの現場で、「創業者」「設立者」「創設者」といった言葉を使う機会は多いですよね。しかし、これらの言葉の違いを明確に説明できる人は意外と少ないものです。どれも「会社をつくった人」というイメージがありますが、使い方や意味の範囲は微妙に異なります。この記事では、ビジネス文書・プレゼン・社内報・経営資料などで混同されやすい「設立者・創業者・創設者」の違いをわかりやすく整理し、間違えずに使い分けるためのコツを解説します。読後には、自信を持って正しい言葉を選べるようになりますよ。
設立者・創業者・創設者の意味を整理する
まずは、3つの言葉の基本的な意味と使われ方を明確にしておきましょう。どれも「何かを立ち上げた人」という点では共通していますが、焦点の置き方や文脈が異なります。
設立者とは
「設立者」とは、法的な手続きを経て組織や会社をつくった人を指します。つまり、登記や届出といった形式的な設立に関わった人物のことです。
たとえば株式会社の場合、「定款を作成し、資本金を払い込み、登記を完了させた人たち」が設立者です。英語では「Founder」や「Incorporator(インコーポレーター)」と表現されることもあります。
実務的には、会社の代表取締役や創業者と同一人物であることが多いですが、必ずしもそうとは限りません。投資家や顧問弁護士が設立時に関わるケースもあり、その場合は「設立者」には名を連ねても「経営者」ではないこともあります。
創業者とは
「創業者」は、事業を自ら立ち上げた人、またはその理念を築いた人を指します。法律的な設立手続きに限定されず、むしろ“想い”や“起点となる行動”に重きがある表現です。
つまり、「この会社のビジネスを最初に始めた人」が創業者。英語では「Founder」「Entrepreneur(アントレプレナー)」などが使われます。
特に日本では、「創業者精神」や「創業理念」という言葉に象徴されるように、経営哲学や志といった精神的な側面で語られることが多いです。
たとえばトヨタの豊田喜一郎氏やソニーの井深大氏・盛田昭夫氏のように、組織の文化を形づくった人物を指すことが多いですね。
創設者とは
「創設者」は、企業や団体・学校・組織などを“創り設けた”人を意味します。
「設立者」と似ていますが、「創設」は組織的・社会的な広がりを持つ場合に使われる傾向があります。
たとえば「大学の創設者」「NPOの創設者」「財団法人の創設者」などです。
英語では「Founder」や「Founder of an institution」などと訳されます。
つまり、「創設者」は営利企業だけでなく、学校・病院・研究機関など幅広い分野に使える言葉です。「創業者」よりも少しフォーマルで公共的な響きがあると言えるでしょう。
創業者と社長の違いを明確に理解する
ビジネスの現場では、「創業者」と「社長」が混同されやすいですが、この2つは明確に異なります。両者の違いを理解しておくと、社内報やプレスリリースなどで誤用を防げます。
創業者と社長の役割の違い
創業者は、事業をゼロから立ち上げた人物です。対して社長は、その組織を経営する立場の人物です。
つまり、創業者=最初の始まりをつくった人、社長=経営責任を担う人、という構造です。
例を挙げましょう。
創業者が起業し、事業を成長させた後に、後継者へ経営を引き継ぐことがあります。このとき、創業者はもはや「社長」ではないが、「創業者」であることは変わりません。
一方、創業者ではない社長も多数存在します。たとえば、創業から数十年後に招聘されたプロ経営者(例:日産のカルロス・ゴーン氏など)は、創業者ではなく社長です。
「創業者=社長」と思い込みがちな場面
特にスタートアップ企業では、創業者が社長を兼任していることが多いため、「創業者=社長」と誤解されやすいです。
しかし、事業が拡大するにつれて、組織構造は変化します。
創業者が代表権を持たなくなっても、理念やビジョンを受け継ぐ形で組織が続く場合も多いのです。
この点を正しく理解していないと、報道資料や社史制作の際に表記ミスをしてしまうことがあります。
創業者と創始者の違いを整理する
次に、似た言葉としてよく混同される「創始者」と「創業者」の違いを見ていきましょう。両者は意味が近いですが、文脈によって使い分けが必要です。
創始者とは
「創始者」は、ある思想・学問・運動・宗教などを最初に始めた人を指します。
つまり、ビジネスよりも思想的・文化的なニュアンスを持つ言葉です。
「学問の創始者」「宗教の創始者」「企業文化の創始者」など、組織よりも“考え方”や“体系”を築いた人物に使われます。
たとえば、「ソニーの創業者」と言うと井深大氏を指しますが、「ウォークマン文化の創始者」と言うと、製品やライフスタイルの価値を創り出した人、という少し広い意味になります。
創業者と創始者の違い
両者の違いを簡潔にまとめると次の通りです。
- 創業者:ビジネス・事業・会社を立ち上げた人
- 創始者:理念・思想・文化・活動の“起点”を築いた人
したがって、会社の紹介文では「創業者」、学問・思想・運動では「創始者」が適切です。
ビジネスの場で「創始者」と書くとやや堅く宗教的な響きが出るため、注意が必要です。
実務での使い分け例
- 「A社の創業者」=会社を立ち上げた人
- 「A社のマーケティング思想の創始者」=その考え方を打ち立てた人
- 「〇〇学派の創始者」=学問や運動を始めた人
このように、創業者は“実行の人”、創始者は“思想の人”という整理で覚えておくと、使い分けに迷いません。
創立と創業の違いを理解する
「創立」と「創業」も似ていますが、使う対象が異なります。この違いを理解しておくと、社史や周年記念の資料作成などで表現を間違えずに済みます。
創立とは
「創立」は、主に学校・団体・組織などの設立に使われます。
例えば「○○大学創立50周年」「○○協会創立記念式典」などです。
法人登記を伴う場合もありますが、どちらかといえば“組織体”としての成立を意味します。
創業とは
「創業」は、営利目的で事業を始めることを指します。
企業活動のスタートに焦点を当てる表現で、「創業100年企業」などのように、ビジネスの歴史を語る際によく用いられます。
違いのまとめ
- 創立:学校・団体・協会などの「組織」に関する表現
- 創業:会社・事業・商店などの「経済活動」に関する表現
つまり、「創立者」と言えば学校の創設者、「創業者」と言えば企業の立ち上げ人を指すことが多いのです。
創設とは何かを正確に理解する
「創設」は、「設立」や「創立」と似ていますが、より広い意味を持つ言葉です。
「創設」とは、新しく組織・制度・団体を設けることです。営利・非営利を問わず、幅広く使えるのが特徴です。
使われる場面
- 新しい制度をつくる:「補助金制度の創設」
- 組織を立ち上げる:「財団の創設」
- 学校・団体を始める:「学園の創設」
つまり、「創設者」とは「制度や組織を立ち上げた人」であり、営利企業に限定されない表現です。
「創設」は公共性や制度設計のニュアンスを含むため、官公庁や教育機関などの文書でよく使われます。
創業者・設立者・創設者を使い分ける実践ポイント
実務では、文章の目的や文脈に合わせて言葉を選ぶことが重要です。
ここでは、社内報・プレスリリース・会社案内・ビジネスメールなどでの使い分けポイントを紹介します。
1. 法的な手続きを強調したいときは「設立者」
登記、契約、法人格など、法律上の成立に関わる文脈では「設立者」が適しています。
例:「当社は2020年に田中太郎を設立者として登記されました。」
2. 企業理念や起業精神を伝えたいときは「創業者」
ブランドの原点や、創業時の想いを語るときは「創業者」が最も自然です。
例:「創業者の想いを今に受け継ぎ、挑戦を続けています。」
3. 組織・制度・団体を指すときは「創設者」
公共性や教育的な文脈では、「創設者」という表現が適します。
例:「学園の創設者である山田氏の理念を基に、教育活動を展開しています。」
このように、ビジネス上のフォーマル度・文脈・目的に応じて言葉を使い分けることが、信頼性のある文章づくりの基本です。
創業者や設立者の英語表現と使い方
グローバルビジネスでは、英語で肩書きを記載する場面も多いでしょう。ここでは代表的な英語表現を紹介します。
- 創業者:Founder/Co-founder
- 設立者:Founder/Incorporator
- 創設者:Founder/Founder of the institution
実務的な使い分け例
- Founder:ビジネスの立ち上げ人(創業者・設立者どちらにも対応)
- Co-founder:共同創業者
- Incorporator:会社法上の設立者
- Founder of the institution:大学や組織などの創設者
英語では「Founder」が最も汎用的ですが、法務文書などで厳密に区別する場合は「Incorporator」や「Founder of ~」などを選びます。
まとめ:言葉の使い分けが企業の信頼を高める
「創業者」「設立者」「創設者」は、似ているようでいて、指す範囲や使う場面が異なります。
創業者はビジネスを始めた人、設立者は法的手続きを行った人、創設者は組織や制度を設けた人です。
これらを正しく使い分けることで、社内外へのメッセージが明確になり、企業としての信頼性も高まります。
会社紹介文や周年記念資料、採用ページなどでどの言葉を使うか迷ったときは、「誰が」「どんな目的で」「どのような形で」立ち上げたのかを整理してみてください。
そのうえで、創業者・設立者・創設者のいずれがふさわしいかを選ぶと、伝わる言葉になります。
ビジネスでは、言葉の選び方ひとつで印象が変わります。正確な使い分けを身につけ、自社のストーリーをより魅力的に伝えていきましょう。




























