ある日突然、「〇〇は本日をもって退職します。今後のやり取りは退職代行業者を通してください。」という通知が届いた——そんな経験をした経営者も少なくありません。本人とは一切の連絡が取れず、辞める理由も曖昧なまま。急な退職は業務だけでなく、組織全体のモラルにも影響を及ぼします。本記事では、退職代行を使って辞める人の特徴や心理的背景、事前に察知できる兆候、そして組織としてどう防止できるのかを解説します。
退職代行を使う人の特徴とは?
1. 職場で孤立している/人間関係に問題を抱えている
退職代行を使う人に共通するのは、「直接話すのが怖い/面倒/無理」という心理背景。その多くは、職場内での孤立や人間関係の悪化が原因です。
- 同僚との関係が薄く、相談できる相手がいない
- 上司とのコミュニケーションが常に一方通行
- ミスや評価に対する過度なプレッシャー
2. 入社から退職までのスパンが短い(半年未満)
入社から半年未満で退職代行を使うケースも目立ちます。これは、「心理的信頼が構築される前に不安や不満が蓄積する」ためです。
- 試用期間中のフォロー不足
- 入社前後のギャップ(労働時間・文化・人間関係)
3. 対面での交渉・説明が極端に苦手なタイプ
- 内向的/HSP傾向のある若年層(特にZ世代)
- 注意されることに極度の恐怖を感じる
- 謝る・反論する・感情を表に出すことが苦手
こういった層は、「一言でも直接話すことが苦痛」であるため、退職という重大な選択であっても“第三者に丸投げ”するほうが気が楽と感じてしまいます。
退職代行を選ぶ心理とは?
「逃げたい」よりも「もう話したくない」が本音
一見すると「逃げの姿勢」にも見えますが、当事者心理としては**“これ以上ダメージを受けたくない”という自己防衛反応**が強く働いています。
- 「上司に責められるのが怖い」
- 「辞めたいと言ったのに引き止められて、逃げられなかった」
- 「正直、感情的に無理だった」
このような声はSNSや退職代行の利用者インタビューにも多く見られます。
信頼関係を築けなかった“組織側の問題”も
退職代行は「個人の問題」と片づけられがちですが、本当はその社員が“辞め方”まで悩むほど組織に対して心を閉ざしていたという事実に向き合うことが必要です。
経営者・マネジメントが見落としがちな兆候とは?
急な休みや体調不良が続く
- 突然の欠勤が増える
- 「体調不良」が理由の有給申請が繰り返される
これは**“心のエネルギーが切れてきている”サイン**であり、実質的な「退職準備期間」に入っている可能性もあります。
業務中の反応が希薄になる/メモを取らなくなる
- 報連相が明らかに減る
- 指示へのリアクションがなくなる
- 教育やフィードバックに対する反応が鈍い
心理的に「もうどうでもいい」と感じている状態。退職を視野に入れ、心が離れている兆候です。
急に業務の引き継ぎ・整理を始める
本人は何も言っていないが、「いつ辞めてもいいように」ファイルの整理や作業マニュアルの作成を進めているケースは危険信号。
退職代行を使われた職場のリスク
1. チームのモラルが下がる
- 「何があったのかわからないまま人がいなくなる」
- 「あの人も“代行で辞めた”ってことは…」
社員の間に「会社に相談してもダメなんだ」という空気が生まれ、不信感が拡大します。
2. 採用ブランディングへの悪影響
退職代行が利用される背景には、職場環境の問題があると思われるリスクが高く、口コミ・SNSによるネガティブな評判に直結します。
- 「あの会社、代行で辞める人多いらしいよ」
- 「ブラック企業っぽい」
3. 突発的な欠員による業務混乱
- シフトやプロジェクト進行に穴が空く
- 顧客対応が属人化していた場合、引き継ぎ不能
- 「残された人」に過度な負担がかかる
退職代行を未然に防ぐ組織づくりのポイント
1. 上司の“接触頻度”と“傾聴態度”を見直す
- 定例の1on1ではなく、雑談・悩み相談の場をつくる
- 「指導」より「傾聴」を意識する
社員の小さな不安や違和感が**“話せる空気”をつくることが最大の予防策**です。
2. 退職希望を“言いやすく”する仕組みを整える
- フォームやチャットで相談できる「半匿名型窓口」
- 辞める選択肢も含めた「キャリア相談」
「辞めたい」と思っても**“言い出せる場所”があることが、代行利用の抑止力**になります。
3. 急な退職者が出た際の社内対応マニュアルを整備
- 残ったメンバーに配慮した声かけとフォロー
- 顧客・取引先への対応テンプレート
- 退職理由や背景を人事で把握・分析し、次に活かす
まとめ:退職代行を“他人事”にしない、経営者としての備え
退職代行で辞める人が増えている背景には、個人の心理だけでなく、組織側の「関係構築ミス」「制度的な壁」も存在します。
退職を「裏切り」ではなく、「組織との対話不足の結果」と捉えることで、次に同じことを起こさない環境づくりが可能です。
- 辞め方に表れる“組織との距離感に気づくこと
- マネジメントの感情ではなく、仕組みとしての改善を進めること
- 「相談できる組織文化」こそが最大の離職対策
経営者が退職代行に対して正しく向き合い、信頼される職場をつくることこそが、これからの組織づくりにおいて最も重要な視点となるでしょう。