大学の数は全国で700を超え、少子化が進む中で「選ばれる大学」になるための競争は年々激しさを増しています。
そんな中で注目されているのが大学ブランディングです。単に広告を出すだけでなく、「どんな大学なのか」「社会にどんな価値を提供するのか」を明確に発信することが、志願者数や認知度を左右します。
この記事では、近畿大学などの成功事例を交えながら、大学ブランド力を高める方法、広報戦略、SNS活用のコツまでをわかりやすく解説します。読むことで、大学ブランディングの仕組みを理解し、自分の組織や教育機関で応用できる具体的なヒントが得られます。
大学ブランディングとは何かをわかりやすく解説する
大学ブランディングとは、大学が自らの個性や強みを社会に伝え、学生・企業・地域から「選ばれる存在」になるための戦略的な活動を指します。
つまり「この大学といえば○○」という印象をつくること。これができるかどうかが、志願者数・就職実績・寄付金など、大学経営全体に大きく関わってくるのです。
大学ブランド力とは
「大学ブランド力」とは、社会や受験生がその大学に抱く信頼・価値・好感度の総合評価を意味します。
ブランド力が高い大学は、偏差値以上に「印象」や「共感」で選ばれます。
たとえば、東京大学は「知の象徴」、近畿大学は「革新的で勢いのある大学」、立命館大学は「グローバルで柔軟」といったイメージを確立しています。
このようにブランドとは単なるロゴや広告ではなく、「大学の存在意義」を社会に可視化したものなのです。
ブランディングと広報活動の違い
多くの大学が「広報活動=ブランディング」と誤解しています。
広報は「情報を伝える」こと、ブランディングは「印象をつくる」こと。
つまり、広報が戦術なら、ブランディングは戦略です。
発信内容や媒体を選ぶ前に、「私たちは何者で、誰にどう見られたいのか」を定義することが、大学ブランディングの第一歩となります。
大学ブランドイメージ調査から見える成功の共通点
大学ブランディングの効果を測るうえで欠かせないのが、大学ブランドイメージ調査です。
株式会社日経BPコンサルティングやリクルート進学総研が毎年実施している調査では、「行動力」「独自性」「学生の印象」「社会貢献度」などの項目で大学が評価されています。
そこから見えてくるのは、ブランド力の高い大学には共通点があるということです。
ブランドイメージの高い大学に共通する3つの要素
- 明確なコンセプトを持っている
「自分たちはどんな教育を通じて社会に貢献するのか」が言語化されている。 - コミュニケーションが一貫している
広告、SNS、広報誌、オープンキャンパスなど、発信内容に統一感がある。 - 学生・教職員がブランドの担い手になっている
トップだけでなく、現場全員がブランドを理解し、体現している。
たとえば、東京工業大学は「理工系の最高峰として世界水準の研究をリードする」という明確な軸を持ち、どの広報活動もその理念に基づいて発信しています。
一方で、近畿大学は「常識を壊す」スタイルで若者の共感を集めています。このようにブランドの「軸」が明確な大学ほど、印象がぶれず強く残るのです。
広報がうまい大学に共通する戦略
「広報がうまい大学」とは、単に宣伝が上手な大学ではありません。
自校の個性を的確に捉え、時代に合わせた伝え方を実践している大学のことです。
ここでは、広報が成功している大学の特徴を見ていきましょう。
近畿大学:SNSで若者に寄り添う戦略
近畿大学は大学ブランディングの成功例としてしばしば取り上げられます。
公式TwitterやInstagramでは、学生目線のユーモラスな投稿が多く、堅い印象を持たれがちな大学広報を刷新しました。
たとえば、入試シーズンには「受験生を笑顔にする投稿」を積極的に発信し、共感を呼びました。
結果として、志願者数は10年連続で全国トップクラスを維持。
「SNSを通じて大学の雰囲気を伝える」という新しいブランディングモデルを確立しました。
武蔵野大学:社会課題への意識でブランドを形成
武蔵野大学は「世界の幸せをカタチにする」という理念を掲げ、SDGsや環境への取り組みを前面に出しています。
そのブランディングはSNSだけでなく、広告・イベント・カリキュラムまで統一されており、学生・社会・企業の三者にとってわかりやすいメッセージとなっています。
このように、「社会課題×大学の役割」を一貫して発信することで、大学ブランドに深みが生まれます。
広報戦略の本質は「誰に、何を、どう伝えるか」
大学の広報は、多くのステークホルダーに向けて発信する必要があります。
受験生・在学生・保護者・企業・地域住民など、それぞれに響くメッセージが異なります。
したがって、大学ブランディングでは発信先を明確に分けた戦略的広報設計が欠かせません。
「全員に好かれる大学」よりも、「この層に強く刺さる大学」を目指すほうが結果的にブランド価値は高まります。
大学の知名度を上げるにはブランディングとPRを融合させる
大学が抱える共通の課題のひとつに、「知名度を上げたいが、どうすればよいかわからない」というものがあります。
実は、知名度を上げるために必要なのは「広告量」ではなく「印象の統一」です。
大学の知名度を上げる3つの具体的なステップ
- ターゲットを明確にする
誰に知ってもらいたいのかを明確にします。高校生、保護者、企業、地域社会など層を分けて考えます。 - ブランドメッセージを統一する
「私たちの大学は何を目指しているのか」を、すべての媒体で一貫して伝える。 - 発信を継続し、コミュニティを形成する
SNS、YouTube、noteなどを活用し、双方向の関係を築きます。
この3つを組み合わせることで、単なる「名前を知ってもらう」段階から、「共感されるブランド」へと発展していきます。
近年ではTikTokやInstagramを活用して、学生や教職員が自ら情報発信を行う大学も増えています。これは広報の民主化とも言える流れです。
大学ブランディングにSNSを活用する成功のコツ
SNSは今や大学ブランディングに欠かせないツールです。
しかし、単に情報を流すだけでは効果がありません。ここでは、SNSを使った大学ブランディングの成功ポイントを整理します。
SNSでブランドを築く大学の特徴
- 一方的な発信ではなく、対話を意識している
- 学生の声や日常をリアルに届けている
- ハッシュタグやキャンペーンで参加型を促している
たとえば、京都精華大学は学生主体のSNS運用で、「アート×自由」の空気を巧みに表現しています。
一方、近畿大学のTikTok公式アカウントでは、入試情報よりも「学生生活の楽しさ」を中心に発信し、ブランドイメージの浸透に成功しました。
SNS活用の注意点
SNSブランディングで気をつけたいのは、「バズを狙いすぎないこと」です。
一時的な話題よりも、長期的に一貫したトーンで発信することが信頼形成につながります。
また、投稿内容は「学生募集用」「社会向け」「企業連携用」など、目的別に運用するのが効果的です。
大学広告の成功例に学ぶブランドの見せ方
大学広告にもブランディングの考え方が反映されています。
ここでは、実際に広告展開で注目された大学の成功例を紹介します。
早稲田大学:「挑戦する人を支える」というメッセージ
早稲田大学のテレビCMは、学生の挑戦や成長をテーマに構成されています。
シンボル的なキャッチコピー「その一歩が、未来を変える」は、大学のブランドメッセージを短く強く伝えています。
単に大学名をアピールするのではなく、「学生の主体性を支える場」としてのブランド像を確立しました。
明治大学:社会に開かれた姿勢を広告で表現
明治大学は新聞広告で「この国を動かすのは、誰だ。」というキャッチコピーを使用。
社会問題に向き合う大学の姿勢を前面に出し、保護者や社会人層の共感を集めました。
このように、広告はブランドの価値観を短時間で伝える「印象形成ツール」として重要です。
大学広告の企画で意識すべきポイント
- キャッチコピーは「大学の理念+行動の方向性」を示す
- 写真・映像は“リアルな学生”を使うことで親近感を演出
- 広告媒体はターゲットの情報行動に合わせて選定する
これらを意識するだけで、広告が単なる宣伝ではなく、「大学の物語」を伝えるものに変わります。
大学ブランディングの成功事例から学ぶ戦略設計
最後に、実際にブランディングで成功した大学の事例をもとに、戦略の設計手順を整理します。
近畿大学:SNS×ユーモアで若者の共感を獲得
近畿大学は、堅い大学イメージを払拭し「面白くて勢いのある大学」としてブランディングを確立しました。
TwitterやTikTokでは“中の人”のキャラクターが立っており、受験生との距離を縮めています。
この一貫性のある発信が「親しみやすさ」というブランド価値を形成しています。
東京大学:伝統と知性を守りつつ未来志向へ
東大は長い歴史と格式を持ちながらも、近年は「社会と共創する大学」として発信を進化させています。
研究成果のSNS公開や、社会課題解決型プロジェクトの発信など、従来の硬さを柔らかく見せる広報に転換しています。
武蔵野大学:SDGs時代の理念重視型ブランド
武蔵野大学の「世界の幸せをカタチにする」というコンセプトは、単なるキャッチコピーではなく大学経営そのものに組み込まれています。
授業内容、大学祭、採用活動までその理念に基づいており、「共感型ブランド」の見本と言えるでしょう。
まとめ:大学ブランディングは「理念×一貫性×共感」で強くなる
大学ブランディングとは、派手な広告やSNS運用のことではなく、大学の存在意義を言葉と行動で一貫して伝えることです。
そのために重要なのは次の3点です。
- 理念を明確にし、全学的に共有すること
- 発信するトーンや内容を一貫させること
- 社会と学生から“共感”を得られる物語を発信すること
広報がうまい大学とは、発信が上手な大学ではなく、「大学自身を正しく理解してもらえる大学」です。
ブランディングを通じて大学が自分の個性を見つけ、学生・社会との距離を縮めることで、真のブランド力が育まれていきます。
少子化時代を生き抜く鍵は、“見せ方”ではなく“在り方”なのです。