日本では「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が国家政策として推進されている一方で、実際には多くの業界でIT化が進まず、現場の生産性や人材確保に影響を与えています。なぜここまで「IT化が遅れている業界」が存在するのでしょうか。本記事では、2025年の崖問題を背景に、IT化が進まない業界の特徴と共通点、デジタル化が進む企業との違い、そして“今からでも遅くない”DX化の第一歩までを、わかりやすく解説します。
IT化が遅れている業界ランキング2025|今も紙とFAXが残る現場とは
「IT化が遅れている業界」は、実は中小企業に限らず大手企業にも存在します。
総務省の「情報通信白書2024」によると、日本企業の約4割が「業務のデジタル化が十分に進んでいない」と回答しています。ここでは、特にIT化が遅れている代表的な業界をランキング形式で見ていきましょう。
第1位:建設業界|紙の図面とFAXが今も主流
建設業界は、長年“現場主義”が根づいており、アナログ文化が色濃く残っています。設計書や工程表は紙ベースで管理され、FAXや電話での連絡が日常的に行われています。
IT化が進まない主な理由は以下の3つです。
- 高齢化した職人層が多く、ITツールに不慣れな人材が多い
- 工事現場ごとに関係者が入れ替わるため、統一的なシステム導入が難しい
- 現場での通信環境が整っていない地域が多い
しかし近年では、クラウド型の施工管理ツール「ANDPAD」や「現場クラウド」などが登場し、少しずつデジタル化が進行中です。それでも業界全体での導入率は30%未満に留まっており、依然として「IT化が最も遅れている業界」とされています。
第2位:医療業界|紙カルテと電話予約が根強い
医療業界では電子カルテやオンライン診療が進みつつありますが、実際には紙カルテ・電話予約中心の病院が数多く存在します。
その背景には次のような要因があります。
- 病院ごとに異なる電子カルテシステムでデータ共有が難しい
- セキュリティ要件が厳しく、クラウド利用に慎重
- スタッフ間でのITリテラシー格差が大きい
結果として、システム導入がかえって現場の負担を増やすケースもあり、進行スピードは鈍化しています。
第3位:教育業界|ICT導入が“使われない”問題
教育現場ではGIGAスクール構想によりタブレット導入が進みましたが、「活用されていない」学校も多いです。
理由は次の通りです。
- 教員の業務過多でICT活用の研修時間が取れない
- 学校ごと・自治体ごとにシステムがバラバラ
- アナログ教材からの移行に抵抗がある
つまり、「設備はあるのにデジタル化されていない」という、典型的な“形式的IT化”の状態です。
第4位:製造業|レガシー設備と属人文化の壁
製造業ではIoTやAIを導入する大手企業もありますが、中小企業ではIT化の波が届いていません。
- 古い生産設備がIoT対応していない
- 現場社員が紙の作業報告書を使用
- 社内データが共有されず、“勘と経験”で判断
このような状況では、いくらDX化を掲げても実質的な変化は起こりにくいです。特に下請け構造が強い業界では、発注元がアナログだとサプライチェーン全体がIT化できない構造的問題を抱えています。
第5位:自治体・行政機関|日本的アナログ文化の象徴
行政の世界では、押印・紙申請・FAXが未だに残っています。
理由は単純で、「セキュリティと法令整備の遅れ」です。
また、システムが部署ごとに独立しており、庁内データの連携ができていません。
政府の「デジタル庁」設立でようやく改善が進みつつありますが、地方自治体では依然として“人海戦術”が中心です。
なぜ日本企業のIT化は進まないのか?構造的な3つの要因
IT化やDX(デジタルトランスフォーメーション)が進まない背景には、単なる技術不足ではなく「文化的・構造的な問題」があります。ここではその根本要因を3つに整理します。
1. 経営層の理解不足と短期的な投資判断
多くの企業では、IT投資が“コスト”とみなされ、経営層が長期視点での投資判断を下せていません。
「現場が困っていないから後回しでいい」「システム導入は高いだけ」という発想が根強く、結果として競争力を削いでいます。
実際、経済産業省のレポートでは、老朽システムを放置した場合、2025年に年間12兆円の経済損失が生じると指摘されています。
つまり、IT化を怠ることは“コスト削減”ではなく“機会損失”そのものなのです。
2. IT人材不足と社内リテラシーの格差
「ITを使いこなせる人がいない」というのは、多くの中小企業で共通の悩みです。
- 社内に専任の情報システム担当がいない
- 現場スタッフがシステム操作を苦手としている
- 経営層がITツールの意義を理解していない
このような状況では、ツールを導入しても定着せず、結果として「使われないシステム」になります。教育投資や外部サポートの活用が重要です。
3. レガシーシステムと紙文化の呪縛
多くの企業では、古いシステムを「壊す勇気」がありません。
カスタマイズされすぎたシステムは他社ツールと連携できず、更新するたびに膨大なコストが発生します。
さらに日本では、「紙で残す」ことが信頼の証とされる文化も強く、電子化が進みにくいのです。
稟議書・契約書・発注書などの押印文化が残り、IT化を遅らせる要因となっています。
IT化とデジタル化の違いを正しく理解する
「IT化」と「デジタル化」は同じ意味のようで、実は明確な違いがあります。
| 項目 | IT化 | デジタル化 |
|---|---|---|
| 意味 | 手作業をシステム化すること | データを活用して価値を生み出すこと |
| 目的 | 効率化・省人化 | 戦略的な意思決定や新規事業創出 |
| 例 | 勤怠管理をクラウドに移行 | 勤怠データをAIで分析し離職率を予測 |
つまり、IT化は「効率化」、デジタル化は「変革」です。
たとえば、紙の請求書をクラウド管理にするのはIT化。
一方、そのデータをAIで分析し経営改善につなげるのがデジタル化です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、そのさらに上位概念で、「デジタルを活用して事業構造そのものを変える」ことを意味します。
多くの企業は、IT化の段階で止まっており、DXまで到達していないのが現状です。
デジタル化されていない業務の代表例と改善ステップ
企業の中には、気づかぬうちにアナログ作業が残っているケースが多いです。ここでは、デジタル化が進んでいない典型的な業務を挙げ、その改善ステップを紹介します。
アナログ業務の代表例
- 手書きの勤怠表・紙の交通費精算書
- FAXでの発注・紙の見積書
- 手入力の売上管理
- 紙の議事録や社内回覧
こうした業務は、単に非効率なだけでなく、情報の重複・紛失・セキュリティリスクの原因にもなります。
改善ステップ
- 業務棚卸しを行う
まず、自社内のどの業務が手作業に依存しているかを洗い出します。 - クラウドツールを導入する
勤怠・経費・顧客管理など、領域別にクラウド化を進めます。 - データ連携を強化する
APIを活用し、入力作業を減らすことで二重管理を防ぎます。 - 教育と習慣化
新システムを定着させるには、社内研修やマニュアル整備が不可欠です。
特に中小企業では、最初から大規模なDXに取り組むよりも、「できるところから一歩ずつ」が成功のコツです。
DXが進んでいる企業の共通点と成功事例
一方で、IT化・DX化を推進し、競争優位を築いている企業も増えています。
彼らに共通するのは、「デジタルを目的ではなく手段として使う姿勢」です。
共通点1:経営層がデジタル戦略を理解している
経営層が率先してDXを語り、社内文化として浸透させている企業は強いです。
例えば、トヨタ自動車は「モビリティカンパニー」への転換を掲げ、製造業からデータ活用企業へと進化しました。
共通点2:部門横断のデータ連携がある
DXが進む企業は、情報を“共有資産”として扱っています。
営業、製造、サポートなどの部門が共通データを活用し、意思決定を迅速化しています。
共通点3:現場主導の小さな成功を重ねている
いきなり全社DXを狙うのではなく、まず1部門で成功例を作り、それを横展開するアプローチです。
失敗を恐れず改善を繰り返す文化が、DX推進の鍵です。
成功事例:大塚商会のIT支援モデル
「大塚商会」は中小企業のIT支援を行い、全国の企業にDXを広げています。
自社でも業務をデジタル化し、AIによる営業支援・顧客データ分析を導入。
これにより営業効率を大幅に向上させました。
業界別に見る今後のDX化の見通し
建設・製造業
政府の「スマート施工」「スマートファクトリー」推進により、現場のIoT化が加速。AI監視や自動進捗管理の導入が進む見通しです。
医療・福祉
電子カルテの統合化、オンライン診療、医療データ連携基盤(MyHER-Sysなど)の普及が進行中。地方病院にもクラウド活用の流れが広がっています。
教育業界
生成AIを活用した教材作成や、生徒ごとの学習データ分析など、EdTech(教育×テクノロジー)が拡大。
行政・自治体
マイナンバーカードの利用拡大により、電子申請の義務化や住民サービスのデジタル化が進みつつあります。
ただし、地方では人材不足が課題です。
まとめ|IT化の遅れは業界ではなく「文化の問題」
日本でIT化が遅れている理由は、業界構造よりも「文化」と「意識」にあります。
FAXや紙を使うこと自体が悪ではありませんが、それに固執することで、未来の選択肢を狭めてしまうのです。
DX化とは、単にツールを導入することではなく、「デジタルを使って仕事の価値を高めること」。
どの業界であっても、小さな改善から始めれば変化は起こせます。
2025年の崖を超えるために――
IT化を“義務”ではなく、“成長のチャンス”と捉えることが、これからの企業に求められる最も重要なマインドです。





























