会社の経営を支えるはずの役員が「ほとんど何もしていない」「報酬だけ受け取っている」と感じたことはありませんか?
特に中小企業では、家族経営や形式的な役職制度の影響で、実際の業務に関与しない「名ばかり役員」が存在するケースが少なくありません。
この記事では、「仕事をしないのに役員報酬をもらう」構造がなぜ生まれるのか、そして放置することで会社にどんなリスクがあるのかを、経営・税務・組織心理の観点から掘り下げて解説します。
役員が動かない会社は、じわじわと信頼と利益を失っていくもの。この記事を読むことで、現状の危険サインを見抜き、改善に向けた具体的な対処法を理解できるはずです。
役員が仕事をしない理由とは?中小企業に多い構造的な問題
中小企業の中には「役員なのに仕事をしていない」人が一定数存在します。
こうした状況の背景には、家族経営構造や税務上の形だけの役職付け、さらに経営体制の曖昧さといった問題があります。
家族経営で生まれる“名ばかり役員”構造
家族経営では、社長の配偶者や子どもを役員に据えるケースが一般的です。
しかし、「経営判断に関わらない」「日常業務をしていない」状態で報酬だけが支払われていると、それは勤務実態のない役員に該当します。
典型的な例としては、「経営者の妻(いわゆる“役員ママ”)」が役員として名前だけ登録されているパターンです。
もし実際の業務内容がないのに報酬を受け取っていると、税務上の損金算入が否認される可能性があります。
この場合、税務調査で「架空人件費」として追徴課税を受けるリスクもあり、会社にとって大きなダメージとなります。
非常勤役員・名義貸し役員のリスク
非常勤役員とは、常勤せずに経営に助言を行う立場を指します。
本来の目的は専門知識や外部ネットワークを活かすことですが、実態として何もしていない“肩書きだけの人”もいます。
とくに「創業時の恩義で名を残している古参取締役」や「経営に関わらない親族役員」は、税務署・金融機関からの信頼を下げる要因になります。
さらに、勤務実態がないのに役員報酬を受け取ると、「損金不算入」として税務処理上問題になるだけでなく、脱税の疑いをもたれることすらあるのです。
“PTA役員が仕事をしない”現象にも通じる構造
実はこの問題は、企業だけではなく学校や地域組織でも起きています。
「PTA役員が仕事をしない」「委員会に顔だけ出して何もしない」など、責任だけ負わず立場だけ維持する人。
企業組織でも同じことが起きており、「取締役なのに発言しない」「会議に出るだけ」「報告を受けるだけ」という“無責任構造”が蔓延しています。
この状態が続くと、現場で働く社員の不満が爆発するのは時間の問題です。
「なぜあの人が報酬をもらっているのか」「自分たちだけが働いている」と感じると、優秀な人材ほど離職していきます。
仕事をしないのに役員報酬をもらうのは違法なのか?
「実際に働いていないのに役員報酬を受け取るのは違法なの?」
この疑問を抱く社員は少なくありません。結論から言えば、法律上の“違法”とは限らないものの、税務・労務・ガバナンスの観点で極めて危険です。
税務上の扱い:損金不算入と追徴リスク
法人税法上、役員報酬を経費として認めるためには次の3条件を満たす必要があります。
- 支払いが定期同額であること
- 支払い額が事前に決定されていること
- 実際に経営に関与していること
このうち、3つ目の条件が最も重要です。
実際に経営に携わっていない人への支払いは、損金不算入(経費として認められない)となります。
つまり、「実働なし・報酬あり」の状態は、節税どころか会社の税負担を増やす要因になります。
労務・社保の観点:勤務実態がなければ被保険者資格なし
勤務実態のない役員は、社会保険・雇用保険の被保険者には該当しません。
そのため、会社が誤って健康保険料や厚生年金を支払っていると、後から保険事務所から返還命令が出る可能性もあります。
逆に、「役員として登記されているが実際には社員として働いている」というケースでは、労働基準法の適用対象となり、残業代請求や不当解雇訴訟のリスクも生じます。
コンプライアンス上の問題:信用失墜と企業価値の低下
金融機関やM&A仲介会社は、役員構成を見て企業の内部統制レベルを判断します。
名ばかり役員が多い会社は、「ガバナンスが機能していない」と見なされ、融資条件が厳しくなったり、企業価値が下がることもあります。
特に中小企業の事業承継・買収の場面では、**“動かない役員が多い=ブラックボックス経営”**と判断されることもあります。
家族経営で“働かない役員”が生まれる心理と構造
「身内だから」「とりあえず名前だけ入れておこう」という善意が、のちの経営崩壊につながることもあります。
ここでは家族経営によく見られる3つの典型パターンを紹介します。
経営者の妻(役員ママ)が名義上だけの役員になっている
経営者の配偶者が役員に就くケースは珍しくありません。
しかし、日々の業務に関与せず、意思決定にも参加していない状態で報酬だけを受け取ると、経営的にも家庭的にも歪みが生じます。
本人も「何のために自分が役員なのか分からない」と感じ、社内では「仕事しないのに報酬をもらっている」と陰口を叩かれます。
このような状況は、経営者自身が“身内に甘い”ことで起こりがちです。
家庭内の安心感がそのまま企業ガバナンスの緩みとなり、経営判断の質を下げることにもつながります。
子どもを形式的に役員に入れる「後継者ポジション」
後継者育成を目的に子どもを役員に据えるのは自然な流れです。
ただし、本人に経営意欲がなく、「ただの肩書き」で終わっていると、事業承継のタイミングで大問題になります。
社内でも「社長の息子だから役員」「でも何もできない」と見なされ、信頼を失うことになります。
“恩義役員”として残る古参社員・顧問
創業時の功労者を非常勤役員として残すケースもあります。
ただし、この立場が“名誉職”化すると、会議では発言しないのに veto(拒否権)だけ持っているような構造が生まれます。
結果として、意思決定スピードが極端に遅くなり、若手経営陣が動けない組織になります。
仕事しない役員が会社に与える悪影響
動かない役員を放置することは、組織全体に悪影響を与えます。
経営面・心理面・財務面の3つに分けて整理しましょう。
経営面:意思決定が遅れ、組織のスピードが止まる
役員会議が形式化し、「誰も責任を取らない」状態になると、会社の判断は遅くなります。
特に中小企業では、意思決定のスピードが競争力に直結します。
会議に出席するだけの人が増えると、現場の改善や新規事業の進行が止まるのです。
心理面:社員の不信感とモチベーション低下
「働かないのに偉そう」「何もしていないのに高報酬」――こうした構造が見えると、現場の士気は一気に下がります。
結果、優秀な社員ほど辞めるという逆選別が起きます。
この現象は、いわば“静かな組織崩壊”です。
財務面:不要な役員報酬が利益を圧迫する
実働のない役員報酬は、コストでしかありません。
しかも税務上は損金として認められない場合もあり、法人税負担が増加するリスクがあります。
つまり、“動かない役員”がいるだけで、会社の財務効率は悪化するのです。
非常勤役員・名義貸しを放置した場合の法的リスク
経営者が「まあ形だけだし問題ない」と放置していると、意外なところで法的トラブルが起こることがあります。
- 税務署による損金否認・追徴課税
- 社会保険料の返還命令
- 金融機関からの信用低下
- M&A時の企業価値減額
- 万が一の事故時の“経営責任の所在不明”問題
特に最後の点が深刻です。
たとえば会社でトラブルが起きた際、「経営責任を誰が負うのか」が曖昧になると、名ばかり役員でも法的責任を問われる可能性があります。
つまり、本人も「名前だけのつもり」でいても、リスクからは逃れられないのです。
役員が多い中小企業が抱える構造問題
中小企業では、「取締役が多すぎる」問題も頻繁に見られます。
なぜ人が増えるのかというと、「誰も降格させられない」「過去のしがらみが残っている」からです。
しかし役員の数が多いほど、責任の所在がぼやけます。
「みんなで決めたこと」が「誰も責任を取らないこと」になるのです。
“働かない役員”を改善するための実践的ステップ
では、こうした停滞をどう正していけばよいのでしょうか。ポイントは3つです。
- 役員の役割とKPI(成果基準)を明確にする
- 定期的に役員評価を実施する
- 報酬体系を見直す
たとえば「非常勤役員は年4回の会議出席と経営助言が主業務」「その対価は年額報酬制」など、契約内容を数値で可視化することが大切です。
また、経営者が“家族だから言いづらい”場合でも、外部の税理士や顧問弁護士を交えて中立的に再設計するとスムーズです。
PTA・委員会・地域組織にも通じる“責任なき肩書き”の構造
興味深いことに、「仕事をしない役員」の構造は、企業だけでなくPTAや町内会などでも同じように見られます。
人は立場を与えられると安心しますが、実際に動かないと「自分は何もしていないのに存在している」という自己矛盾を抱えます。
これが集団心理的に“無責任の伝染”を引き起こすのです。
職場でも、「上が動かないなら自分もやらない」という空気が蔓延し、やがて組織全体の停滞につながります。
まとめ:動かない役員を放置する会社は成長を止める
「仕事しない役員」は、単なる人の問題ではなく、経営体制と組織文化の問題です。
名ばかり役員を放置すれば、税務・財務リスクだけでなく、社員の信頼も失われます。
経営を再生するには、まず“役職=責任”の原則を取り戻すこと。
すべての役員が「自分の役割と成果を語れる会社」こそ、信頼され、強く成長できる企業です。
もし今、「仕事をしない役員がいる」と感じているなら、それは変革のサインかもしれません。
小さな一歩でも、組織の空気を変える行動から始めましょう。





























