ビジネスの現場では、企画やプロジェクトが思うように進まず中断したり、日の目を見ないまま終わることがあります。そんなとき、「中止」や「失敗」という直接的な言葉を使うと、相手に強い印象を与えてしまうことも。
そこで便利なのが「お蔵入り」という表現です。この言葉を使えば、角を立てずに「一時的な保留」「再考の余地がある」といった柔らかなニュアンスを伝えられます。
この記事では、「お蔵入り」の意味・使い方・例文をビジネスシーンに即して解説し、さらに「筆舌に尽くしがたい」「胸算用」「耳目を集める」など、関連する上級表現もあわせて紹介します。
「お蔵入り」の意味と読み方を正しく理解する
まずは、「お蔵入り」という言葉の意味と由来を確認しておきましょう。何気なく使っている言葉でも、背景を知っておくことでより正確に使えるようになります。
「お蔵入り」の読み方と語源
「お蔵入り」は「おくらいり」と読みます。もともとは映画業界や出版業界で使われた言葉で、完成した作品が上映や出版されずに倉庫(お蔵)にしまわれることを意味しました。
たとえば「撮影は終わったが、諸事情でお蔵入りになった映画」といった使われ方です。
転じてビジネスシーンでは、「企画や提案が実現されずに見送られる」ことを表す言葉として使われています。
「中止」よりも柔らかく、「また再開する可能性がある」といった含みを持たせられるのが特徴です。
「お蔵入り」はビジネスで使っても問題ない?
はい、問題ありません。
ただし使い方には注意が必要です。「お蔵入り」はややカジュアル寄りの婉曲表現のため、ビジネスメールや正式文書では「見送り」「保留」「再検討」といった言い換えのほうが適切な場合もあります。
一方で、上司や同僚との会話、プレゼン後の振り返り、社内報告などでは、「お蔵入りになりました」と言っても違和感はありません。
つまり、「お蔵入り」は話し言葉寄りの柔らかな報告表現として使うのが自然です。
「お蔵入り」の使い方と文の形を押さえる
お蔵入りは便利な表現ですが、前後の文脈によっては「責任を逃れている印象」を与えることもあります。ここでは、正しく伝わる文の形と使い方を確認しましょう。
基本的な使い方のパターン
「お蔵入り」は動詞「〜になる」「〜にする」と組み合わせて使うのが一般的です。
- 企画がお蔵入りになる(=自然に中止・延期となる)
- 計画をお蔵入りにする(=意図的に見送る)
どちらも使えますが、「誰の判断か」「どんな事情か」によって使い分けます。
たとえば、
社内の方針変更により、当初のプロジェクトはお蔵入りになりました。
経費削減の観点から、今回の提案は一旦お蔵入りにします。
このように「原因」や「理由」を添えると、ビジネス上の説明として自然に聞こえます。
「お蔵入り」と「ボツ」「中止」「保留」の違い
似た意味でも、言葉の印象は微妙に異なります。
| 言葉 | ニュアンス | 使用場面 |
|---|---|---|
| お蔵入り | 一時的・事情があって見送り | 社内会話・柔らかく伝えるとき |
| ボツ | 否定的・却下・採用されない | カジュアルな会話・内部共有 |
| 中止 | 公式に終了を宣言 | 正式文書・会議記録 |
| 保留 | 継続検討中・一時停止 | 公的文書・報告メール |
つまり、「お蔵入り」は感情を抑えて伝える“間”のある言葉。
「失敗した」「やめた」と直接言いたくないときに重宝します。
「お蔵入り」を使った例文集(短い例・会話・メール)
ここでは実際に使える例文を目的別に紹介します。社内報告・対外メール・雑談それぞれで少しずつ言い回しが変わります。
短いお蔵入りの例文(会話・報告向け)
- 新商品の企画は、今回はお蔵入りになりました。
- ご提案いただいたプランは、お蔵入りという形になりました。
- 一旦お蔵入りにして、来期以降に再検討する予定です。
- 事情によりプロジェクトが内部的にお蔵入りとなりました。
どれもシンプルですが、ネガティブな印象を抑えています。「一旦」「内部的に」といった副詞を添えると、柔らかさが増します。
ビジネスメールでの「お蔵入り」例文
先日ご提案いただいた件につきまして、社内で協議を重ねた結果、今回はお蔵入りという形になりました。
ただし、今後の市場動向次第では再度検討させていただく可能性もございます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
→ このように「再検討の余地を示す」一文を入れることで、印象がぐっと良くなります。
雑談・会議での使用例
- せっかくの新サービス案だったけど、今回はお蔵入りになっちゃったね。
- あのキャンペーン企画、上層部の判断でお蔵入りしたらしいよ。
- 予算が通らず、お蔵入りしそうです。
このように、話し言葉では少しくだけた印象で使えます。
「お蔵入り」を柔らかく言い換えるビジネス表現
状況によっては、「お蔵入り」という表現を避けたほうが無難な場合もあります。
特に顧客・上司・役員宛ての正式文書では、次のような言い換えが効果的です。
使いやすい言い換え一覧
| 言い換え表現 | ニュアンス | 使用例 |
|---|---|---|
| 見送り | 今回は採用しないが、将来に可能性あり | 今回のご提案は見送りとさせていただきます。 |
| 保留 | 判断を先延ばしにしている | 現在の方針では、一旦保留といたします。 |
| 再検討 | 別のタイミングで再度検討する意図 | 今後の方向性を踏まえ、再検討いたします。 |
| 棚上げ | 現状維持で動かさない | 当件は棚上げとし、来期以降に判断します。 |
「お蔵入り」はやや比喩的なので、上司に報告する際には「見送り」が最も無難です。
ただし、同僚やプロジェクト内のやりとりでは「お蔵入り」でも自然です。
「お蔵入り」になった企画を前向きに伝える方法
失敗や中止の報告は、伝え方ひとつで印象が大きく変わります。
「お蔵入り」も否定的に聞こえないようにするには、“次の可能性”を示す一言を添えるのがポイントです。
伝え方のコツ
- 「今回は見送るが、次の段階で活かせる」と伝える
- 「成果や学びがあった」とポジティブに締める
- 「再開の余地」を感じさせる
例文:
残念ながら今回はお蔵入りとなりましたが、この経験を次の企画に活かしていきたいと考えています。
今回の提案内容は、将来的な検討テーマとして引き続き社内で共有いたします。
→ 「失敗報告」ではなく「知見共有」として捉え直すのがポイントです。
「筆舌に尽くしがたい」の意味と例文で表現力を高める
「お蔵入り」のように遠回しに伝える表現がある一方で、強い感情を上品に伝えるのが「筆舌に尽くしがたい」です。
意味を正しく理解して使うことで、メールや挨拶文が一気に格調高くなります。
意味と使い方
「筆舌に尽くしがたい」とは、「筆にも舌にも尽くせない」=言葉では言い表せないほど強く感じるという意味です。
感謝・感動・悲しみなど、どんな言葉を使っても表しきれないときに使います。
例文(短文・ビジネス向け)
- ご尽力に感謝の念は筆舌に尽くしがたいものがあります。
- 今回のご支援は筆舌に尽くしがたいほどありがたく存じます。
- ご厚情に対し、筆舌に尽くしがたい感謝を申し上げます。
この表現は、謝辞や感謝状、式典のスピーチなどでよく使われます。
「耳目を集める」「胸算用」などの関連表現で言葉の幅を広げる
「お蔵入り」と同様に、日常ではあまり使わないけれど知的に響く言葉があります。
ここでは、あわせて覚えておくと文章力が上がる表現を紹介します。
「耳目を集める」
「耳目(じもく)」とは、人々の関心や注目を意味します。
つまり「耳目を集める」とは、多くの人の注目を引くという意味になります。
- 新サービスの発表は多くの耳目を集めました。
- 彼の提案は業界内で耳目を集めています。
「注目を浴びる」よりも格調高い印象を与えます。
「胸算用(むなざんよう)」
「胸算用」とは、実際の結果を待たずに心の中で損得や結果を計算することを意味します。
ビジネスでは「まだ結果も出ていないのに成功を見込んで動く」という戒めとして使われることが多いです。
- 契約成立を胸算用して、まだ確定していない利益を見込むのは危険です。
- 胸算用をせず、現実的な見積もりを意識しましょう。
まとめ|「お蔵入り」はやわらかく、前向きに伝えるのがビジネスの基本
「お蔵入り」は、直接的な否定を避けて「一時的な見送り」を伝えられる便利な表現です。
ただし使いどころを誤ると、責任を曖昧にする印象を与えることもあるため、状況に合わせた言い換えや一言を添える工夫が大切です。
今回の記事の要点をまとめると次の通りです。
- 「お蔵入り」は“実現せず保留になった”という意味で、会話でよく使う
- 正式文書では「見送り」「保留」「再検討」に言い換えるのが無難
- ネガティブにせず、「次につながる姿勢」で締めると印象が良い
- 関連表現の「筆舌に尽くしがたい」「胸算用」「耳目を集める」も覚えると文章力が上がる
言葉の選び方ひとつで、同じ報告でも受け取る印象は変わります。
「お蔵入り」という表現をうまく使いこなせれば、失敗すら前向きなメッセージに変えられますよ。




























