ライリーの法則とは?店舗間競争を予測する計算式とビジネス現場での活用法

店舗を新しく出すとき、競合との距離や規模によって集客にどれほど差が生まれるのか、感覚だけで判断するのはリスクが大きすぎます。こうした商圏分析の精度を高めるために使われるのが「ライリーの法則」です。アメリカの地理学者ウィリアム・ライリーが提唱したこの法則は、都市の規模と距離から商圏の境界線を定量的に割り出すもので、現在でも中小企業診断士の試験や出店計画、マーケティング戦略で活用されています。本記事では、ライリーの法則の基本概念から計算式、具体的なビジネスへの応用法、さらにハフモデルとの違いや覚え方、例題までを初心者にもわかりやすく解説していきます。

目次

ライリーの法則とは何か

ライリーの法則は、アメリカの地理学者ウィリアム・ライリーが1930年代に提唱した商圏理論です。消費者がどちらの都市で買い物をするかを、都市間の距離と規模(主に人口)から予測する数理モデルで、現在のマーケティングや都市計画、出店戦略における基本概念として知られています。

この法則の根底にあるのは、「人は近い方に行きたがるが、都市の規模が大きければ遠くても惹かれる」という購買行動の傾向です。例えば、小さな街の住民が、より大きな都市まで時間をかけてショッピングに行くケースを思い浮かべるとイメージしやすいでしょう。

ライリーの法則では、2都市間に存在する「商圏の境界線(引力が等しくなる地点)」を定量的に算出します。これにより、企業はどこに出店すれば効率よく顧客を取り込めるかを予測できるのです。

計算式とその考え方:ライリーコンバースの法則を使いこなす

ライリーの法則は別名「ライリー=コンバースの法則」とも呼ばれ、次の計算式によって商圏の境界地点を求めることができます。

商圏境界地点までの距離(D) = [AB間の距離 × √(都市Bの人口)] ÷ [√(都市Aの人口)+√(都市Bの人口)]

この式では、都市Aからの距離を求めるため、消費者がどちらの都市に引き寄せられるかを示しています。人口の多い都市は引力が強くなり、境界線はその都市に近づく傾向があります。

たとえば、都市Aの人口が5万人、都市Bが20万人、AB間の距離が30kmである場合、 √5万 ≒ 223.6、√20万 ≒ 447.2、

30 × 447.2 ÷(223.6+447.2)≒ 20km(都市Aからの距離)

つまり、商圏の境界線は都市Aから20km、都市Bから10kmの地点に位置します。

このようなシンプルな計算式で、出店場所の競争力や市場への影響範囲が可視化できるのは、ビジネスにとって大きな価値があります。

ライリーの法則とハフモデルの違いとは

よく混同されがちな理論に「ハフモデル」がありますが、両者には明確な違いがあります。

ライリーの法則は距離と人口という2つの要素だけで商圏の境界を計算するモデルで、計算が非常にシンプルです。一方、ハフモデルは消費者の行動確率を算出するために、店舗の魅力度(売場面積、品揃え、価格帯など)を加えた複雑なモデルとなります。

たとえば、同じ距離に2つの店舗があっても、片方が大型ショッピングモールで、もう一方が小さな商店なら、消費者は前者を選ぶ確率が高くなります。ハフモデルはこのような「店舗の魅力」も数式に取り込むため、より実際の消費行動に近づけた予測が可能になります。

とはいえ、ハフモデルは前提条件の設定やデータ整備に手間がかかるため、まずはライリーの法則で大枠の判断を行い、その後、必要に応じてハフモデルに発展させるという段階的な活用がビジネス現場では有効です。

中小企業診断士の試験でも頻出する理由

ライリーの法則は中小企業診断士試験、特に「企業経営理論」や「マーケティング・流通」の分野で頻繁に取り上げられます。

その理由は、実務上の立地判断において非常に再現性の高い理論であり、しかも初学者でも使いやすい数式を使うため、理論と実践の橋渡しとして非常に有効だからです。診断士の勉強を通じてこの法則を学ぶことで、より現実的な視点で企業の支援ができるようになります。

実際、診断士試験では商圏計算の例題として、店舗間距離と人口が与えられ、「境界線はどちらの都市から何kmか?」と問われる問題が出題されます。このような問題は、基本的な計算力と消費者行動の理解を兼ね備えた出題となっており、診断士に求められる「理論を現場に落とし込む力」を試す良問といえます。

現場での活用事例:店舗戦略への落とし込み

たとえば、コンビニチェーンがある地方都市で新店舗を計画する場合、既存の競合店との距離や周辺人口をもとにライリーの法則を使ってシミュレーションを行います。その結果、計算された商圏の境界が自社店舗の内側にある場合、「競合の影響は限定的」と判断できます。

また、家電量販店のように商圏が広い業態では、より大きな都市への流出リスクがあるため、ライリーの法則を使って「どこまでが自店の優勢エリアか」を定量的に把握する必要があります。

さらに、地方自治体が地域活性化のために商店街再生事業を進める際にも、ライリーの法則は役立ちます。どのエリアに集客施策を集中させるか、住民の購買行動が流出していないかなどを見極める基準になります。

ライリーの法則の覚え方と定着のコツ

この法則を覚えるうえで重要なのは、「人口が大きい都市ほど引力が強く、商圏の境界線はそちらに近づく」という基本イメージです。距離と人口という2軸で考えるだけなので、他のマーケティング理論と比べて非常に単純です。

記憶に残りやすいように、次のような言い換えをして覚えるとよいでしょう。

  • 「都市の声量が大きいほど遠くまで届く」=人口が多いと遠くからでも客を引き寄せる
  • 「どちらの磁石に引き寄せられるか」=人口は磁力、距離は抵抗

また、計算に平方根(√)を使う点が独特なので、日常的な人口数をもとに、簡単な計算を何度か繰り返すことで、肌感覚として境界線の動きをつかむことができます。

ライリーの法則を使った例題と解説

例題:都市A(人口8万人)と都市B(人口32万人)の距離が40kmのとき、商圏の境界は都市Aから何kmの地点か?

まず、 √8万 ≒ 282.8、√32万 ≒ 565.7

次に、40 × 565.7 ÷(282.8 + 565.7)= 40 × 565.7 ÷ 848.5 ≒ 26.7km

答え:都市Aから約26.7kmの地点に境界線がある

このように、計算結果から商圏のバランスを直感的に理解できるようになります。実務で活用する際も、この考え方をベースにすれば、競合対策や売上予測の精度が格段に上がります。

ライリーコンバースの法則導出にある「人間の行動原理」

この法則の導出において根底にあるのは、ニュートンの万有引力の発想と類似した「引力モデル」です。都市の人口を「引力」と見立て、消費者はこの引力に引き寄せられるという考え方です。

つまり、ライリーの法則の数式は、次のような人間行動の特性を数理的に表現しているとも言えます。

  • 距離が近いと訪れる確率は高くなる
  • 都市が大きいと、多少遠くても訪れる
  • そのバランス点に商圏の境界線ができる

導出には人口の平方根を使うという工夫がされており、これは人口の増加に対して購買力が必ずしも比例しないという実態を踏まえた調整です。感覚と数式のギャップを埋めるためのアイデアといえるでしょう。

経営判断でライリーの法則をどう使うか

ライリーの法則は単なる分析ツールではなく、経営判断に直結する強力な武器になります。特に、立地に依存するビジネスでは「どこに出すか」がそのまま損益を左右します。

たとえば、多店舗展開を狙う企業にとって、既存店舗とのカニバリゼーション(共食い)の回避や、競合店からどれだけの距離を取れば商圏が確保できるかを数式で可視化できるのは大きなメリットです。

また、経営会議での意思決定や投資判断においても、ライリーの法則によって導き出された数値を根拠として示すことで、主観や勘に頼らない説得力のある提案が可能になります。

まとめ:感覚ではなく「データで語る」ことが商圏戦略の第一歩

ライリーの法則は、店舗間競争において“見えない境界線”を数式で明確に可視化する手法です。単に便利な理論というだけでなく、人口と距離という限られた情報から導ける汎用性の高さ、実務への再現性の高さから、多くの企業が導入しています。

中小企業診断士試験にも頻出するこの法則を理解することは、理論を現場に応用できるマーケティング思考を育てる土台にもなります。ビジネスの成功は、感覚や経験だけでなく、数字という根拠に支えられてこそ説得力を持ちます。

これから商圏戦略を考えるビジネスパーソンは、まずこのライリーの法則を自社の戦略判断に活かしてみるところから始めてみてください。地に足のついた意思決定が、競争に勝ち抜く鍵となるはずです。

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