「信用はするけど、信頼はしていない」。そんな言葉を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
ビジネスの現場では、取引先や同僚、上司や部下との関係を築くうえで「信用」と「信頼」を混同して使う人が少なくありません。
しかし、この2つは似ているようで全く違う概念です。
その違いを理解せずに人間関係を築こうとすると、相手との距離が縮まらず、仕事の成果にも影響してしまいます。
この記事では、「信用と信頼の違い」をわかりやすく整理したうえで、職場で“信頼される人”になるための考え方と行動を徹底解説します。
読後には、「信頼される人」と「信用されるだけの人」の違いがはっきりとわかるはずです。
信用と信頼の違いをわかりやすく整理する
「信用」と「信頼」はどちらも、人と人の関係性を支える重要な要素です。
しかし、意味の方向性が異なります。
一言で言うと、信用は「過去に基づくもの」、信頼は「未来に向かうもの」です。
信用とは「実績による評価」
信用とは、相手の行動や実績に基づいた安心感のことです。
「この会社は納期を守る」「この人は約束を破らない」——こうした具体的な根拠があるからこそ、“信用できる”と感じます。
つまり信用は「条件つきの信頼」と言えます。
ビジネスでの信用は、契約や数字、成果など見える形での保証が前提になります。
「銀行が融資するのは、返済の信用があるから」「クライアントが継続発注するのは、納品の質に信用があるから」というように、信用は実績の積み重ねでしか得られません。
信頼とは「感情による委ね」
一方で信頼とは、相手に自分の期待を委ねる気持ちです。
「この人ならきっと大丈夫」「裏切らないと思う」という未来への期待値が信頼の本質です。
たとえば、まだ実績のない新入社員に「任せてみよう」と思えるのは、その人の誠実さや姿勢に心を動かされたからです。
つまり信頼は、論理ではなく感情で築かれる関係です。
「信用がデータ的な裏づけ」だとすれば、「信頼は心の橋渡し」と言えるでしょう。
信用と信頼の違いを比較表で整理
観点 | 信用 | 信頼 |
---|---|---|
ベース | 実績・データ | 感情・期待 |
成立条件 | 事実の積み重ね | 相手への共感・人間性 |
向き | 過去 | 未来 |
性質 | 条件つき | 無条件に近い |
例 | 「この会社は期日を守る」 | 「この担当者なら何とかしてくれる」 |
つまり、「信用」は“取引できる相手”を選ぶ尺度であり、「信頼」は“共に未来を作る仲間”を選ぶ尺度です。
信用される人は安心を与え、信頼される人は希望を与えるのです。
信用と信頼どっちが上?ビジネスでの位置づけを考える
「信用と信頼、どちらが上なの?」という疑問を持つ人も多いでしょう。
結論から言えば、信用の先に信頼があるという段階的な関係です。
信用は「土台」、信頼は「架け橋」
信用は取引を成り立たせるための最低条件。
一方の信頼は、取引以上の価値を生み出す関係の始まりです。
たとえば営業の場面で考えると、新規取引を始める際にはまず「この企業は実績がある」「倒産のリスクが低い」という信用が必要です。
しかし、長期的な取引や新規事業への協働を引き出すのは、「担当者への信頼」なのです。
信用がなければ契約は始まらない。
信頼がなければ関係は続かない。
この両輪が回ってこそ、ビジネスは成長していきます。
「信用はするが信頼はしない」の意味
職場でよく聞く「信用はするけど信頼はしない」という言葉。
これは、「能力や成果は認めるが、心までは預けられない」という心理を表しています。
たとえば、
・仕事は早いけど報告が遅い同僚
・納品は完璧だが、チームワークが欠ける上司
こうした相手には、“信用”はあっても“信頼”はありません。
この状態を放置すると、チームの中に“見えない壁”ができます。
成果は出ているのに、協力が得られない。そんな人は、信用止まりの人です。
信頼される人は、数字以上に「人として安心できる存在」であることが多いのです。
信用と信頼の違いを人間関係で考える
信用と信頼の違いは、職場だけでなくあらゆる人間関係に共通します。
家庭、友人関係、恋愛、チームの中など、信頼がない関係は長続きしません。
友人関係における信用と信頼
たとえば「お金を貸したら必ず返してくれる」というのは信用。
一方で、「自分が落ち込んでいるときに寄り添ってくれる」というのは信頼です。
信用は“取引の安全”、信頼は“心の安全”とも言えます。
信頼関係がある友人とは、損得を超えた関わり方ができます。
逆に信用だけの関係は、問題が起きた瞬間に崩れる脆さがあります。
職場での信頼関係がチームを変える
チームで成果を出すには、信頼が欠かせません。
たとえば上司が「君なら任せられる」と言って仕事を委ねると、部下はプレッシャーよりも“期待”を感じます。
その期待がモチベーションとなり、チーム全体の推進力に変わるのです。
信頼関係が生まれた職場では、ミスが起きても責任の押しつけ合いが起こりにくい。
報告・相談・提案が活発になり、問題が早期に解決される傾向があります。
心理的安全性(安心して意見が言える職場)が高い組織は、この「信頼の文化」が根づいているのです。
アドラー心理学に見る信用と信頼の違い
心理学者アルフレッド・アドラーは、人間関係の悩みの根本は“対人関係にある”と説きました。
アドラー心理学では、“信用”よりも“信頼”の方をより高次の関係として位置づけています。
アドラーの考える「信頼」
アドラーは信頼を「相手を信じる勇気」と定義しました。
それは「裏切られても構わない」という覚悟の上に立つ信頼です。
つまり、信頼とは相手をコントロールしようとしないことでもあります。
「信用」は条件つきですが、「信頼」は無条件に近い。
この違いこそ、信頼関係を築く上での分岐点です。
部下に対して「失敗してもいいから挑戦してみなさい」と言える上司は、まさに信頼型のリーダーです。
信頼を築く3つの条件
信頼を築くために欠かせないのは、次の3つです。
- 誠実さ:言葉と行動が一致していること。
- 共感力:相手の立場を理解しようとする姿勢。
- 自己開示:自分の弱さも見せる勇気。
信頼は一方的に生まれるものではありません。
自分が心を開いて初めて、相手も心を開いてくれます。
アドラーが説いた「勇気づけ」の考え方にも通じる部分です。
信用を得る方法と信頼に変えるステップ
信頼を築くには、まず信用を積み上げる必要があります。
信用は行動で、信頼は人間性で得る。
この順番を間違えると、信頼は崩れやすくなります。
信用を得るための行動
信用を得る最もシンプルな方法は、「小さな約束を守ること」です。
・メールは24時間以内に返信する
・納期を1日でも守る
・言ったことをやり遂げる
こうした積み重ねが、「この人は裏切らない」という信用につながります。
逆に、どれだけ人柄がよくても、約束を破る人は信用されません。
信頼に変える行動
信用を信頼に変えるには、“誠意を見せる瞬間”が必要です。
たとえば、ミスを隠さずに正直に報告する、困っている人を自分から助ける、感謝を言葉にする——。
これらの行動は、データでは測れない「人間的価値」を相手に伝えます。
信頼は一夜では築けませんが、たった一言で深まることもあります。
「あなたがいたからこの仕事ができた」——そう感じさせる関係が、本当の信頼です。
信頼を失う言動と回復の方法
信頼を得るのに時間はかかりますが、失うのは一瞬です。
ここでは信頼を壊してしまう代表的な行動と、その回復方法を紹介します。
信頼を失う行動
- 約束を破る、報告を怠る
- 愚痴や陰口を言う
- ミスを人のせいにする
- 誰に対しても態度が違う
こうした行動は、どんなに能力が高くても一気に信頼を損ねます。
信頼は“人柄の評価”だからこそ、誠実さが何よりも重要なのです。
信頼を回復する方法
信頼を回復するには、謝罪だけでなく“継続的な修正行動”が必要です。
1回の「ごめんなさい」ではなく、「あの人、変わったな」と思わせること。
ミスをしたあとの行動次第で、人は再び信頼を取り戻せます。
時間をかけて、もう一度“期待に応える行動”を積み重ねること。
それが信頼を再構築する唯一の道です。
ビジネスの現場で信頼を活かすリーダーシップ
信頼関係を築けるリーダーほど、組織を成長させます。
信頼でつながったチームでは、命令よりも“共感”で人が動くのです。
信頼型リーダーの特徴
- 部下の話を遮らず、最後まで聞く
- 成果だけでなくプロセスを認める
- 自分の失敗を隠さない
- 約束したことは必ず守る
信頼型リーダーは「怖い上司」ではなく、「支えてくれる上司」。
心理的安全性のある環境をつくり、社員の主体性を引き出します。
これは現代のマネジメントにおいて最も重要なスキルの一つです。
信用と信頼の違いを理解した人間関係が生む成果
信用と信頼の違いを理解し、使い分けることで、仕事の結果にも変化が現れます。
- クライアントとの関係が長期的になる
- チームのモチベーションが安定する
- ミスを恐れず挑戦できる文化が生まれる
信用だけでは“管理”の関係、信頼があって初めて“共創”の関係になります。
ビジネスの本質は「人」です。
数字を動かすのは、結局“信頼”なのです。
まとめ:信用は築き、信頼は育てるもの
信用と信頼は、どちらもビジネスを支える柱です。
信用は行動で築き、信頼は心で育てる。
その違いを理解し、意識して使い分けることで、職場の人間関係は驚くほどスムーズになります。
「信用される人」では終わらず、「信頼される人」になる。
それが、人を動かし、組織を変える力です。
信頼はお金では買えません。
だからこそ、一度築いた信頼関係こそ、あなたの最大の資産になるのです。