「今の30代って、なんかおかしくない？」
職場でそんな言葉を耳にしたことはありませんか。
上司世代から見れば、今の30代は「覇気がない」「責任感が薄い」「落ち着きがない」と感じられることがあるかもしれません。
けれど実際には、彼らは“時代の構造そのものが変わった中で働いている”のです。
この記事では、「今の30代はおかしい」と言われる背景を、社会的・心理的・職場環境的な視点から丁寧に紐解きます。
読むことで、今の30代がどんな時代を生きてきたのか、そして組織がどう向き合うべきかが見えてくるはずです。
世代間のギャップを理解することは、単なる感情論ではなく、業務効率とチームマネジメントの質を上げる戦略にもつながります。
昔の30代と今の30代では「生きる前提」が違う
「昔の30代」と「今の30代」は、同じ年齢でもまったく違う世界を生きています。
昭和・平成初期の30代が“安定と出世”を目指す時代だったのに対し、令和の30代は“変化と選択”を求める時代を生きています。
昔の30代は「人生設計の完成期」
かつての日本では、30代は“社会人として完成された大人”でした。
・20代でがむしゃらに働き、
・30代で管理職を目指し、
・結婚して家を建て、
・40代で部下を育てる――。
この流れが「普通」であり、社会がそれを後押ししてくれた時代でした。
例えば、1990年代初頭に30代だった人たちは、会社が昇進を約束し、終身雇用が前提。ローンも組みやすく、年功序列で給料は上がり続ける。
「頑張れば報われる」が当たり前に通じたのです。
今の30代は「完成」ではなく「模索」
一方で2020年代の30代は、まったく違う現実を生きています。
リーマンショック、東日本大震災、コロナ禍、円安、物価上昇。社会の根底が揺らぐ出来事を次々に経験してきた世代です。
“頑張っても報われない”を現実として知っているため、リスクを避け、冷静に未来を選ぶ傾向が強い。
たとえば、ある企業で働く32歳の男性はこう話します。
「上司の時代みたいに『全力で会社に尽くせ』って言われても、心から共感できないんです。だって、10年後に会社があるかどうかもわからないから。」
この冷静さを「夢がない」「情熱が足りない」と切り捨ててしまうのは簡単です。
しかし実際は、彼らなりに“持続可能な働き方”を追求しているのです。
つまり、“おかしい”のではなく、“生きる前提が違う”だけなのです。
「今の30代は若い・幼い」と言われるのはなぜか
30代といえば「もう大人」と思われる年齢です。
それなのに、「今の30代は幼い」「若いまま」と言われるのはなぜでしょうか。
ここにも、社会構造の変化が大きく影響しています。
結婚・出産・経済の後ろ倒し
総務省の統計によれば、初婚年齢の平均は男女ともに上がり続けています。
特に都市部では、30代前半で独身の人も珍しくありません。
昔なら「家庭を持つ＝責任を持つ」時期でしたが、今の30代はその“人生設計のステージ”がそもそも後ろにずれています。
また、物価上昇や住宅価格の高騰も拍車をかけます。
30代でも「まだ貯金を貯めたい」「投資で備えたい」と考える人が増え、昔のような“生活の安定”を前提にできない。
だからこそ、「落ち着きがない」「いつまでも若い」と見られてしまうのです。
SNS社会が「年齢感覚」を変えた
もうひとつの大きな要因が、SNSの普及です。
昔は、年齢を重ねることで自然と世代ごとの境界線が生まれていました。
しかし、今の30代は10代・20代の流行や価値観をリアルタイムで共有しています。
TikTokの流行を把握し、Z世代と同じアプリを使い、若手と同じように情報発信をしている。
結果、「30代なのに若すぎる」と見られたり、「精神的に幼い」と誤解されたりすることがあります。
でも実際は、時代のスピードに合わせて“アップデートし続けている”だけなのです。
“古くならない努力”を自然と続けているのが、今の30代なのです。
「30代ポンコツ」と言われるけれど、実は一番柔軟な世代
インターネット上では、「30代ポンコツ」という刺激的な言葉を見かけることがあります。
でも、それは事実ではありません。むしろ30代こそ、社会の変化に最も柔軟に対応してきた世代です。
上からも下からも板挟み
職場では、40〜50代の上司と20代の部下の“文化の中間”にいるのが30代。
上からは「もっと気合を入れろ」と言われ、下からは「そのやり方古い」と突き上げられる。
この二重の圧力を受けながらも、両者の間をつなぐ“通訳”のような存在として機能しているのが今の30代です。
たとえば、あるメーカーの営業職・35歳の女性はこう語ります。
「上司が紙で指示を出して、部下がチャットで返事してくる。間にいる私が翻訳してるようなものです（笑）。でも、どちらの気持ちもわかる。」
この“二言語能力”とも言える柔軟さが、組織の中で重要な潤滑油になっています。
「ポンコツどころか、バランサーとしての価値が高い世代」といえるのです。
“無理をしない”が悪いことではなくなった
昔の30代は「どれだけ働いたか」で評価されました。
今の30代は、「どれだけ効率的に働いたか」で評価されたい。
この意識の違いを理解せずに、「最近の若いのは根性がない」と批判しても意味がありません。
実際、30代の多くは健康やメンタルを崩さないために、“戦略的に手を抜く”術を持っています。
残業を減らし、仕事を自動化し、タスクを可視化してチームで共有する。
これはサボりではなく、**「無理をせずに成果を出す合理性」**なのです。
「今の30代は指示待ち」と言われるのはなぜか
多くの上司が「今の30代は言われたことしかしない」と感じています。
しかし、それは単なる怠惰ではありません。背景には、**“納得できる理由がないと動けない社会構造”**があります。
「なぜそれをやるのか」を知りたい世代
昔の上司は「言われたことはやるのが当然」でした。
でも今の30代は、「その仕事に意味があるのか」をまず考えます。
たとえば、会議資料を作るにしても、「誰が見るのか」「目的は何か」「何を決めるのか」を知りたい。
それを確認せずに動くと、成果が無駄になる可能性があると感じているのです。
つまり、今の30代の行動原理は「効率」ではなく「納得感」。
だからこそ、上司が理由を伝えるだけで仕事のスピードが驚くほど変わることも多いのです。
“自分の責任範囲”を明確にしたい
リスク管理意識が高いのも今の30代の特徴です。
SNSが発達し、どんな小さなミスでもネットで拡散される時代。
「自分が悪くなくても炎上する」ことを知っている世代は、慎重に動くようになります。
そのため、指示が曖昧だと「自分が責任を取らされるかもしれない」と感じ、行動が止まるのです。
上司から見ると「動かない30代」ですが、実際は“防衛的な冷静さ”を持っているとも言えます。
「今の30代はメンタルが弱い」の誤解
昔のように厳しく叱られると、今の30代は落ち込みやすい。
それを「根性がない」と表現する人もいます。
しかし、これもまた“育ってきた文化の違い”です。
対話文化の中で育った世代
今の30代は、「怒鳴られて伸びる」教育を受けていません。
学校でも会社でも、「理由を説明し、理解してもらう」ことが基本でした。
つまり、“対話による成長”が当たり前だったのです。
そのため、「なぜ怒られたのか」がわからない叱責には適応できません。
ですが、理由が理解できれば、修正も早く、改善力も高い。
つまり、「叱る」よりも「説明する」ほうが成果につながる世代なのです。
「やる気がない」ではなく「共感できない仕事が多い」
「最近の30代は覇気がない」と言われることもありますが、それは仕事への冷めた態度ではありません。
彼らは、「納得できる意義がある仕事なら全力を出す」タイプなのです。
たとえば、社会貢献やサステナビリティに関わる業務、社内DXなど、未来に意義のあるプロジェクトには驚くほど熱心です。
逆に、「誰のためになるのか分からない」仕事には感情が動かない。
この“やる気の波”を理解しないと、評価制度もマネジメントもうまく機能しません。
今の30代が抱える「職場の生きづらさ」
柔軟で優秀な今の30代ですが、現場では“時代の板挟み”に苦しんでいます。
上の世代の常識、下の世代のスピード
40代・50代の上司からは「もっと責任感を持て」、
20代からは「そのやり方遅くないですか？」。
そんな板挟みの中で、最も多くストレスを抱えているのが今の30代です。
彼らは、どちらの立場の気持ちも理解できるがゆえに、意見を言いづらくなる。
結果、心身の疲労を抱えて突然辞めてしまうケースもあります。
「優しい人ほど突然辞める」と言われるのは、まさにこの層に当てはまるのです。
「我慢する」ことをやめた世代
かつての社会では「嫌でも続ける」が美徳でした。
しかし、今の30代は「嫌なら辞める」を選びます。
これは決して根性がないわけではなく、“自分を壊さないための選択”です。
たとえば、職場で理不尽な扱いを受けた時、昔なら「3年我慢しろ」と言われました。
でも今は、「3年我慢しても何も変わらない」ことを多くの人が経験しています。
だからこそ、自分の心と身体を守るために辞める勇気を持っているのです。
チームで30代を活かすための実践的マネジメント
今の30代を“おかしい”と切り捨てるのではなく、“新しい時代の主役”として活かすことが、これからの組織の成長を決めます。
上司世代ができる3つの工夫
- 目的を伝える
仕事の背景や理由を共有すれば、自発的に動ける。 - 評価を見える化する
プロセスも認められると、安心して挑戦できる。 - 過剰な干渉を控える
信頼して任せた方が成果が上がる。
30代自身が持つべき3つの視点
- 上司の価値観も「時代の産物」と理解する
衝突を避けるよりも、“違う前提で生きてきた”と受け止める。 - 意見を数字と論理で伝える
感情よりもデータで語ることで説得力が増す。 - 自分の“心地よい働き方”を言語化する
何を重視して働きたいかを伝えることが、職場改善の第一歩になる。
今の30代が作る新しい“成熟”の形
かつて「大人＝安定・忍耐・責任」だった時代から、今は「大人＝柔軟・選択・自己理解」へとシフトしています。
この変化の中心にいるのが、まさに今の30代です。
彼らは、昭和のように「滅私奉公」せず、平成のように「他人と比べず」、令和らしく「自分らしく生きる」を体現しています。
この生き方こそが、次の世代に受け継がれていく“新しい成熟”なのです。
まとめ：「今の30代はおかしい」ではなく「時代が違う」
「今の30代はおかしい」と感じるとき、実は“あなたの知る30代像”が古いだけかもしれません。
彼らは、不確実な社会の中で、試行錯誤しながらも柔軟に働き、周囲との関係を丁寧に築こうとしています。
今の30代は「おかしい」のではなく、「新しい生き方を模索している最前線の世代」。
その姿を理解できたとき、あなたのチームの生産性も、人間関係の空気も、きっと大きく変わるはずです。
