ABM(アカウントベースドマーケティング)とは?戦略設計事例まとめ

B2Bビジネスの現場で、リード(見込み顧客)はたくさん取れているのに、肝心の成約になかなか結びつかないと悩んでいませんか。そんな課題を解決する手法として注目されているのが、ABM(アカウントベースドマーケティング)です。特定の大口顧客にターゲットを絞り、組織全体で戦略的にアプローチするこの手法は、2026年のビジネス環境において不可欠な戦略となっています。この記事では、ABMの基礎知識から具体的な戦略設計、成功事例までを網羅して解説します。最後まで読めば、あなたの会社の営業効率を劇的に高め、売上を最大化するための道筋がはっきりと見えるようになりますよ。


目次

ABM(アカウントベースドマーケティング)とは?従来手法との決定的な違い

ABM(アカウントベースドマーケティング)を一言で説明すると、自社にとって価値の高い特定の企業(アカウント)をあらかじめ選定し、その企業に最適化されたアプローチを行うマーケティング手法のことです。従来のように「広く浅く」リードを集めるのではなく、「狭く深く」アプローチするのが最大の特徴ですね。よく例えられるのは、網を投げてたくさんの魚を捕る「地引き網漁」と、特定の大きな獲物を狙う「銛(もり)での一本釣り」の違いです。

B2Bの取引では、一人の担当者が独断で商品を購入することは稀で、部長や役員、現場担当者など複数の人が関わって意思決定が行われます。ABMは、その企業という「組織(アカウント)」全体をターゲットとして捉えるため、組織内のキーマン一人ひとりに合わせたコミュニケーションが可能になるのです。これが、単なる個人のリード獲得とは決定的に違うポイントですよ。

これまでのマーケティングでは、展示会やWeb広告で大量のメールアドレスを集め、そこから営業がアプローチしていくのが一般的でした。しかし、この方法では自社のターゲットではない企業のリードも混ざってしまい、営業の工数が無駄になることも多かったのです。ABMなら、最初から「この会社を落とす」と決めて動くため、リソースを無駄なく集中させることができます。

リードベースドマーケティングとABMを比較した際の特徴

従来のリードベースドマーケティング(個々の見込み客の反応を追いかける手法)とABMを比較すると、そのアプローチの逆転現象が面白いことに気づくはずです。従来型は、まず多くの人に認知してもらい、徐々にターゲットを絞り込んでいく「漏斗(じょうご)」のような形をしています。対してABMは、最初にターゲット企業を決め、そこから関係性を広げていく「ピラミッド」のような形をしているのですね。

具体的には、以下のような違いが挙げられます。

・ターゲットの選び方:従来型は不特定多数の個人を対象とするが、ABMは特定の企業リストを対象とする。 ・営業とマーケの連携:従来型はマーケがパスしたリードを営業が受ける分業制だが、ABMは両者が最初から共同戦線を張る。 ・コンテンツの性質:従来型は汎用的な情報提供が多いが、ABMはターゲット企業専用のカスタマイズされた提案を行う。

このように、ABMは「個」ではなく「組織」を追うため、営業チームが持っている顧客情報と、マーケティングチームが持つ分析データを融合させることが重要になります。従来型だと「マーケが質の低いリードばかり持ってくる」「営業がリードを放置している」といった不満が出がちですが、ABMでは最初からターゲットを合意しているため、こうした対立が起きにくいというメリットもあります。

もし、あなたの会社が大手企業との取引を望んでいたり、LTV(顧客生涯価値:一人の顧客が取引期間を通じて自社にもたらす利益の総額)を重視していたりするなら、ABMへのシフトは非常に効果的かもしれません。一つひとつのアカウントを大切に育てるという姿勢が、B2Bビジネスの成功には欠かせないのですよ。

なぜ2026年のB2BビジネスでABMが注目されているのか

2026年現在、なぜこれほどまでにABMが重要視されているのでしょうか。その背景には、顧客側の情報収集能力が格段に上がり、売り込み型の営業が通用しにくくなったことが挙げられます。今の時代、顧客は営業担当者に会う前に、自分たちでネットを使い、情報の7割以上を収集し終えていると言われています。

こうした環境では、汎用的なカタログスペックを並べるだけのマーケティングはスルーされてしまいます。顧客が求めているのは、「自社の特定の課題をどう解決してくれるか」という具体的なソリューション(解決策)です。ABMであれば、ターゲット企業の経営課題を深く分析した上でアプローチできるため、顧客にとって「この会社は自分たちのことをよく理解してくれている」という安心感と信頼感を与えることができるのですね。

また、デジタル技術の進化もABMを後押ししています。かつては特定企業にパーソナライズ(個別に最適化すること)したアプローチをするには膨大な手間がかかりました。しかし今は、MA(マーケティングオートメーション:マーケティング活動を自動化するツール)やIPアドレスを活用した広告配信などのツールにより、効率的にABMを実践できる環境が整っています。

さらに、新規顧客獲得のコストが上昇し続けていることも理由の一つです。新しいお客さんを捕まえるのは大変ですが、すでに価値があると分かっているターゲット企業にリソースを集中させれば、受注確度が上がり、結果としてROI(投資利益率:投資した費用に対してどれだけの利益が得られたかを示す指標)を劇的に改善できるのです。

デマンドジェネレーションとの役割分担と相乗効果

ABMを理解する上で、デマンドジェネレーション(需要創出:自社製品への関心を高め、案件を作り出す活動全体のこと)との関係を知っておくことも大切です。ABMは、決してデマンドジェネレーションを否定するものではありません。むしろ、両者をバランスよく組み合わせることで、最強の営業体制を構築することができるのですよ。

デマンドジェネレーションは、幅広い層にアプローチして潜在的なニーズを掘り起こす、いわば「種まき」の役割を担います。一方、ABMは選ばれた重要アカウントに対して深い関係を築く「特化した育成」の役割を担います。例えば、Webサイトに来た一般ユーザーには通常のデマンドジェネレーションで対応し、特定の超大手企業からアクセスがあった場合には、ABM専用の特別コンテンツを表示させる、といった使い分けが理想的です。

・デマンドジェネレーション:市場全体へのアプローチを行い、ブランド認知を広める。 ・ABM:最重要ターゲットに対して、個別の課題解決策を提示し、成約率を高める。 ・相乗効果:デマンドジェネレーションで得たデータをABMのターゲット選定に活かす。

このように、役割を分担することで、効率よく新規リードを獲得しながら、高単価な案件を確実に仕留めることが可能になります。ABMは単独で動くのではなく、これまでのマーケティング活動の延長線上にありつつ、より精度を高めた戦略的な手法だと捉えると分かりやすいでしょう。

マーケティングチームが「数」を追い、営業チームが「質」を追うという構造的なギャップを埋めるための架け橋こそがABMです。この両輪がうまく回るようになれば、あなたの組織のビジネススピードは格段に加速していくはずですよ。


ABM(アカウントベースドマーケティング)を導入するメリットと得られる成果

ABM(アカウントベースドマーケティング)を導入することで得られる最大の成果は、営業活動の圧倒的な効率化と、それによる売上の最大化です。リソース(人手や時間、予算)が限られている中で、どの企業でも「どの案件に注力すべきか」という優先順位付けには頭を悩ませているはずですよね。ABMはその答えを明確にしてくれる羅針盤のような役割を果たします。

これまで、マーケティング部門が獲得したリードが営業部門で活用されずに放置されてしまう、という問題は多くの企業で起きてきました。しかし、ABMを導入すると、両部門が「このターゲット企業を落とそう」という共通の目標を持つようになります。この協力体制こそが、目に見える売上アップだけでなく、組織の体質改善という大きな副産物をもたらしてくれるのです。

また、顧客体験(CX)の向上も大きなメリットです。ターゲット企業ごとに最適化された情報を届けることで、顧客は「自分たちの課題に寄り添ってくれている」と感じ、信頼関係が深まります。これが最終的に、高い成約率やLTVの向上に結びついていくのですね。

営業とマーケティングの連携がスムーズになる仕組み

ABMの導入は、長年「犬猿の仲」と言われがちだった営業とマーケティングの関係を劇的に改善します。なぜなら、ABMでは戦略の初期段階から、どの企業をターゲットにするかを両部門で話し合って決定するからです。これにより、マーケティングチームは営業が必要としている企業の情報を集めることに集中でき、営業チームはマーケティングから提供される情報を信頼してアプローチできるようになります。

具体的な連携の仕組みとしては、以下のようなステップが一般的です。

・ターゲット選定の合意:営業現場の感覚とマーケティングのデータ分析を突き合わせ、攻めるべき企業リストを作成する。 ・コンテンツの共同開発:特定のターゲット企業が抱える課題に対し、どのような提案が刺さるかを両チームでブレインストーミングする。 ・フィードバックの循環:営業が接触した際の感触をマーケに伝え、マーケはそれをもとにコンテンツや広告を調整する。

このように、常に情報が循環する仕組みができると、営業は「使える資料がない」と嘆くことがなくなり、マーケは「リードが放置されている」と憤ることがなくなります。お互いがプロフェッショナルとして尊重し合い、一つのチームとして機能するようになるのですね。

この連携がうまくいくと、社内のコミュニケーションコストも大幅に削減されます。無駄な会議が減り、その分を顧客と向き合う時間に充てられるようになれば、営業の成果が出るのは当然のことと言えるでしょう。ABMは単なるマーケティング手法ではなく、組織のコミュニケーションを最適化するツールでもあるのですよ。

ROI(投資対効果)が向上し売上の最大化に貢献する理由

ビジネスにおいて、投資したお金と時間がどれだけ利益になって返ってきたかを示すROIは、最も重要な指標の一つです。ABMはこのROIにおいて、非常に高いパフォーマンスを発揮します。理由は単純で、最初から「買わない人」や「買えない人」に使うリソースを極限まで削り、その分を「最も買ってくれる可能性が高い人」に注ぎ込むからです。

一般的なマーケティングでは、リード獲得単価(CPA)を重視しますが、ABMでは「ターゲットアカウントからの収益」を重視します。たとえ一件あたりのアプローチコストが高くなったとしても、受注金額が大きく、成約率も高ければ、最終的な投資対効果は良くなりますよね。

・無駄な広告費の削減:ターゲット外の企業には広告を表示させないため、広告予算の最適化ができる。 ・営業工数の最適化:受注確度の低いリードに電話をかける時間が減り、重要顧客への提案準備に時間を割けるようになる。 ・クロスセル・アップセルの増加:既存の大口顧客に対しても組織的にアプローチすることで、関連商品の提案がスムーズになる。

このように、ABMは「売上のトップラインを伸ばす」と同時に「コストを最適化する」という、経営者にとって非常に魅力的な成果をもたらします。特にB2Bでは、一件の受注が数百万、数千万、時には数億円という単位になることも珍しくありません。一回の成功がビジネス全体に与えるインパクトが大きいため、ABMによる確度の高いアプローチは非常に合理的な選択なのです。

売上を追うだけでなく、利益率を意識した健全なビジネスを継続していくために、ABMは最強の武器になってくれるはずですよ。

顧客生涯価値(LTV)を高めて長期的な信頼関係を築くコツ

ABMの成果は、新規の成約だけで終わりではありません。成約後もそのアカウント(企業)に対して継続的に価値を提供し続け、信頼関係を深めることで、LTV(顧客生涯価値)を最大化させることができます。実は、ABMは「既存顧客の深掘り」においてこそ、その真価を発揮するとも言われているのです。

一度入り込んだターゲット企業内でも、部署が変われば課題も変わります。ABMの考え方を用いれば、既存の取引部署だけでなく、他の部署のキーマンに対しても、すでに社内で実績があるという強みを活かしてアプローチできます。これにより、全社的な導入や、より高付加価値なプランへの移行を促すことができるのですね。

・組織図の解読:ターゲット企業内の意思決定フローや人間関係を把握し、どこにアプローチすべきかを常に更新する。 ・継続的な価値提供:売って終わりではなく、導入後の活用状況に合わせた役立つ情報を定期的に届ける。 ・エグゼクティブ・エンゲージメント:自社の役員と相手企業の役員をつなぐなど、組織対組織の深いつながりを作る。

このように、点ではなく面で顧客と接することで、競合他社が入り込む余地をなくすことができます。顧客側からしても、自社の事情を深く理解し、常に最適な提案をしてくれるパートナーは手放せない存在になります。

長期的な信頼関係が築ければ、価格競争に巻き込まれることも少なくなりますし、口コミで新しいお客様を紹介してくれることもあります。ABMを通じて顧客の成功を第一に考えることが、結果として自社の長期的な利益を守ることにつながるのですよ。


ABM(アカウントベースドマーケティング)の戦略設計を成功させる手順

ABM(アカウントベースドマーケティング)を成功させるためには、場当たり的なアプローチではなく、緻密な戦略設計が不可欠です。どれだけ優れたツールを持っていても、設計図が間違っていれば望んだ成果は得られません。「誰に」「何を」「どのように」伝えるかを、論理的に積み上げていく作業が大切になります。

戦略設計の第一歩は、自分たちの勝てる場所を明確にすることです。すべての企業を相手にするのではなく、自社の強みが最も活かされ、かつ利益をもたらしてくれる企業はどこなのかを定義します。ここを曖昧にしてしまうと、結局はこれまでの「広く浅い」マーケティングに逆戻りしてしまいますよ。

ABMのプロセスは、大きく分けて「ターゲットの特定」「インサイトの把握」「エンゲージメント」「測定と改善」の4つのステップで構成されます。一つひとつのステップを丁寧に進めていくことが、成功への近道となります。

ICP(理想的な顧客プロファイル)を定義しターゲット企業を特定する方法

ABMにおいて最も重要で、かつ最初のステップが「ターゲット企業の特定」です。ここで使うのが、ICP(Ideal Customer Profile:理想的な顧客像)という概念です。自社の製品を最も必要とし、高い価値を感じてくれ、かつ自社に利益をもたらしてくれる企業の条件を言語化していきます。

ICPを定義する際は、単なる業種や従業員数だけでなく、より深い要素まで掘り下げることがポイントです。

・企業属性(Firmographics):業種、売上規模、従業員数、拠点数など。 ・技術スタック(Technographics):現在どのようなITツールやシステムを導入しているか。 ・ビジネス状況:新規事業の立ち上げ、合併・買収、上場準備など、特定のイベントが発生しているか。 ・課題の共通点:過去に成約した顧客が、どのような悩みを抱えて自社を選んでくれたか。

これらの要素を分析し、「ターゲット企業リスト」を作成します。リストが完成したら、さらにその中での優先順位をつけます。これをアカウントティアリング(階層化)と呼びます。例えば、ティア1は超重要顧客として個別個別の手厚いアプローチ、ティア2は共通の業界課題に基づいたアプローチ、といった具合に分けるのが一般的ですね。

このようにターゲットを絞り込む作業は、最初は勇気がいるかもしれません。しかし、「誰でもいい」は「誰にも刺さらない」と同義です。ターゲットを明確にすることで、初めてメッセージの力強さが生まれるのですよ。

ターゲットアカウント内のキーマンと意志決定プロセスを把握するコツ

ターゲットとなる企業が決まったら、次は「その企業の中で誰が意思決定に関わっているか」を解明していきます。B2Bの購入決定には平均して6〜10人のステークホルダー(利害関係者)が関わると言われています。ABMでは、この一人ひとりの役割と悩みを理解することが不可欠です。

具体的には、以下のような役割の人たちを特定し、組織図を描いていきます。

・チャンピオン(推進者):自社製品の導入を社内で積極的に進めてくれる人。現場のリーダーなど。 ・経済的決裁者:最終的な予算の承認を行う人。役員や部門長など。 ・ユーザー:実際に製品を使う人。操作性や効率化を重視する。 ・インフルエンサー(影響者):直接の決裁権はないが、専門的な見地から意見を言うコンプライアンスやIT部門など。

それぞれの立場によって、刺さるメッセージは全く異なります。例えば、ユーザーには「作業時間が50%減ります」という実務的なメリットが響きますが、決裁者には「年間でこれだけのコストが削減され、リスクが回避できます」という経営的なメリットが響きます。

こうした情報を収集するには、営業が現場で得た情報はもちろん、SNS(LinkedInなど)や企業の採用情報、インタビュー記事なども活用します。相手の組織構造を深く理解することで、適切なタイミングで適切な人に、適切な情報を届けることができるようになるのですよ。

顧客の課題に合わせたパーソナライズされたコンテンツ制作のコツ

ターゲットとキーマンが特定できたら、いよいよアプローチです。ABMの真骨頂は「パーソナライズ(個別最適化)」にあります。ターゲット企業が今まさに直面している課題に対して、「私たちはあなたの会社の課題をこうやって解決できます」という具体的なメッセージを届ける必要があります。

コンテンツ制作のコツは、相手の企業の言葉(専門用語やビジョン)をメッセージに盛り込むことです。

・専用のホワイトペーパー:その業界や特定の企業向けに、市場データと解決策をまとめた資料。 ・個別最適化されたWebページ:IPアドレスを判定して、ターゲット企業名を表示したり、その企業に関連する事例を見せたりする。 ・パーソナライズドビデオ:担当者の名前を呼びかけ、その企業専用のデモンストレーションを行う動画。 ・ダイレクトメール(物理):デジタルの時代だからこそ、経営層に届く上質な手紙やノベルティを郵送する。

「自分のために作られたものだ」と相手に感じさせることができれば、開封率や反応率は飛躍的に高まります。手間はかかりますが、その分だけ成約に近い質の高い対話が生まれるのですね。

ただし、最初からすべてを個別に作るのは大変です。基本となるテンプレートを用意しておき、特定の箇所(企業名、ロゴ、その会社特有の課題など)だけを差し替えるといった工夫をすれば、効率的にパーソナライズを進めることができますよ。


ABM(アカウントベースドマーケティング)の成功事例から学ぶ運用のヒント

理屈はわかっても、実際に自分の会社でどう運用すればいいのか、具体的なイメージが湧きにくいこともありますよね。そんな時は、先人たちの成功事例を分析するのが一番です。ABMは、業種や企業の規模によってやり方は千差万別ですが、成功しているケースには共通する「型」があります。

ここでは、製造業、SaaS(サービスとしてのソフトウェア)、IT系企業という3つの異なる分野での事例をご紹介します。それぞれの企業がどのような課題を抱え、ABMによってどう変わったのかを見ていくことで、自社に応用できるヒントが見つかるはずですよ。

事例を読む際のポイントは、単に「どんなツールを使ったか」ではなく、「ターゲットをどう選び、どんなメッセージを届けたか」という戦略の部分に注目することです。

大手企業を狙い撃ちして受注率を大幅に改善した製造業の事例

ある精密機器メーカーでは、これまでの展示会主体の営業スタイルに限界を感じていました。名刺はたくさん集まるものの、本当に取引をしたい超大手自動車メーカーの設計部門にはなかなか食い込めなかったのです。そこで彼らは、ターゲットを特定の3社に絞り込むABMを開始しました。

まず、その自動車メーカーが次世代の電気自動車(EV)開発でどのような課題を抱えているかを、有価証券報告書やニュースリリースから徹底的に分析しました。そして、「EV開発の航続距離を伸ばすための軽量化ソリューション」という、その企業専用の技術資料を作成したのです。

・アプローチ:設計部門のキーマンに、その企業名が入った特製技術読本を郵送。 ・デジタル連携:郵送物が届いたタイミングで、その企業のIPアドレス向けに、関連する技術動画のバナー広告を表示。 ・成果:これまで門前払いだった設計部長からの問い合わせを獲得。半年後には数億円規模の共同開発プロジェクトが始動。

この事例の勝因は、「相手が今一番欲しがっている情報」をピンポイントで届けたことです。不特定多数向けのカタログではなく、その企業の将来を左右する課題への回答を用意したことが、重い扉を開く鍵になったのですね。

休眠顧客を掘り起こしてアップセルを成功させたSaaS企業の事例

クラウド型の営業支援ツールを提供しているあるSaaS企業は、新規契約は取れているものの、一度契約した後に「使いこなせていない」という理由で解約される、あるいは限定的な機能しか使われないという課題を抱えていました。いわゆる休眠顧客の存在です。

彼らは、過去に契約したことがあるターゲット企業リストに対し、ABMの手法を用いて再アプローチを行いました。まず、顧客の利用データを分析し、「なぜ活用が止まっているのか」を仮説立てしました。その上で、その企業の業界に特化した「DX成功ロードマップ」を個別に作成して届けたのです。

・戦略:単なる機能紹介ではなく、その企業の競合他社がどのようにツールを使って成果を出しているかの比較データを提供。 ・施策:担当者向けのオンライン勉強会を開催し、その場で特定の困りごとを解決。 ・成果:解約率が30%低下し、上位プランへの移行(アップセル)による収益が前年比で150%増加。

新規開拓ばかりに目を向けるのではなく、すでに接点がある企業の「中の人」との関係を再構築することで、大きな利益を生んだ事例です。既存顧客の情報はすでに社内にあるため、ICPの精度も高く、非常に効率の良いABMと言えますね。

コンテンツと広告を連動させて認知を拡大したIT企業の事例

セキュリティソフトを販売するIT企業では、ターゲット企業のIT部門には認知されているものの、最終的な予算を決める経営層に認知されていないことが、案件の長期化の原因になっていました。そこで、経営層に向けた「ブランド認知+教育」を目的としたABMを展開しました。

彼らは、ターゲット企業の役員がよく読むビジネスメディアのバナー枠を、特定の企業のIPアドレスに対してのみ買い取りました。表示される広告には「〇〇社(ターゲット企業名)のサイバーリスクを診断」といった、ついクリックしたくなるような文言を入れました。

・コンテンツ:クリック先のページでは、その企業の業界で起きた最新の被害事例と、経営者が取るべき対策を簡潔にまとめた記事を用意。 ・フォロー:記事を読んだ痕跡がある企業に対して、営業が「経営リスクに関する情報交換」として連絡。 ・成果:経営層への直接のプレゼン機会が倍増し、意思決定のスピードが従来の3分の2に短縮。

デジタルの力を借りて、「組織としての認知」を戦略的に作り上げた事例です。営業が直接会えないキーマンに対しても、ネットを通じてじわじわと影響を与えることができるのが、現代型ABMの面白いところですよ。


ABM(アカウントベースドマーケティング)のツール選びで失敗しないポイント

ABMを効率的、かつ継続的に運用するためには、テクノロジーの力を借りるのが賢い選択です。人手だけで数百社のターゲット企業を細かく追いかけるのは限界がありますからね。しかし、市場には「ABMツール」を名乗るものが溢れており、何を選べばいいか迷ってしまうこともあるでしょう。

ツール選びで最も大切なのは、多機能さよりも「自社の現在の営業・マーケティング体制と馴染むか」という視点です。どんなに高価なツールでも、現場の営業担当者が入力してくれなかったり、データがバラバラだったりすれば、宝の持ち腐れになってしまいます。

まずは、今あるデータを整理し、どの工程(ターゲット選定、広告配信、効果測定など)を自動化したいのかを明確にすることから始めましょう。

CRMやSFAと連携してデータを一元管理するメリット

ABMツールの心臓部となるのは、顧客情報を管理するCRM(顧客関係管理)や、営業活動を記録するSFA(営業支援システム)です。ABMを始めるなら、これらの既存ツールと密接に連携できるものを選ぶことが大前提となります。データがCRMとABMツールで分断されていると、最新の状況が把握できず、的外れなアプローチをしてしまう恐れがあるからです。

データが一元化されることで得られるメリットは計り知れません。

・スコアリングの自動化:Webサイトへの訪問、メールの開封、営業との接触履歴などを合算し、その企業が今どれくらい「熱い」のかを自動で点数化できる。 ・二重アプローチの防止:マーケティングチームが広告を出している最中に、営業が突然不自然な電話をかけるといった、顧客を混乱させる動きを防げる。 ・レポートの可視化:どのアプローチが最終的な受注にどれだけ貢献したのかを、企業単位で簡単に集計できる。

このように、データが一本の線でつながることで、初めて組織としてのABMが機能し始めます。ツールを導入する前に、まずは自社のCRMのデータが綺麗に整理されているか(名寄せができているかなど)を確認することも、実は重要なステップだったりしますよ。

ターゲティング広告やWebパーソナライズツールの活用方法

ターゲット企業のキーマンに「自社の存在」を効率よく知ってもらうために、広告ツールの活用は非常に有効です。一般的な広告は「〇〇に関心がある人」に出しますが、ABMにおける広告は「〇〇社の人」に出します。

これを実現するのがIPアドレスターゲティング広告です。特定の企業のオフィスからアクセスしている人に対してのみ、その企業向けのメッセージを表示させることができます。

・バナー広告:ターゲット企業のロゴや、その企業名を含めたキャッチコピーを表示して興味を引く。 ・Webパーソナライズ:自社のWebサイトにターゲット企業の人が来た際、トップページの内容をその企業専用のものに書き換える。 ・ソーシャルメディア広告:LinkedInなどの媒体を使い、ターゲット企業の特定の役職者にのみ広告を届ける。

これらのツールを組み合わせることで、顧客の身の回りに自然と自社の情報があふれる「包囲網」を作ることができます。ただし、あまりに執拗に出しすぎると「監視されているようで怖い」というネガティブな印象を与えてしまうこともあるので、表示回数やメッセージの柔らかさには配慮が必要ですね。

スコアリング機能を活用して優先順位を明確にする方法

営業のリソースは有限です。ABMツールの「スコアリング機能」を使えば、どのターゲット企業に今すぐアプローチすべきかを、客観的なデータに基づいて判断できるようになります。これは、個人の行動だけでなく「アカウント(企業)」全体の行動を合算して評価するのがポイントです。

例えば、ある企業の担当者Aさんが資料をダウンロードし、翌日に同じ企業の課長Bさんが事例ページを5分間読み、さらに別の社員Cさんが価格表を見たとしたら、その企業の中で検討が本格化している可能性が高いですよね。

・行動スコア:Web訪問、メールクリック、イベント参加、資料請求などのアクションごとに点数をつける。 ・属性スコア:ICP(理想的な顧客プロファイル)への合致度合いでベースの点数をつける。 ・アラート機能:合計スコアが一定値を超えた瞬間に、担当営業のスマホに通知を飛ばす。

こうした仕組みがあれば、営業は「勘」ではなく「根拠」を持って動けるようになります。最も受注に近いアカウントに、最も熱いタイミングでアプローチする。このシンプルながら難しいことを自動化してくれるのが、スコアリングツールの最大の価値と言えるでしょう。

ツールの導入は目的ではなく、あくまで手段です。自分たちの戦略をより楽に、より確実に実行するためのパートナーとして、最適なツールを選んでくださいね。


ABM(アカウントベースドマーケティング)の導入で失敗しないための注意点と解決策

ABMは非常に強力な手法ですが、導入すればすぐにバラ色の未来が待っているわけではありません。実は、導入企業の約半数が、開始から1年以内に何らかの壁に突き当たるとも言われています。その多くは、手法そのものの欠陥ではなく、組織の意識のズレや運用の甘さが原因です。

失敗を未然に防ぐためには、あらかじめ起きやすいトラブルを想定し、その対策を練っておくことが大切です。特に、これまでの「数」を追うマーケティングに慣れきった組織では、ABMの「質」を重視する考え方に馴染むまで時間がかかることもあります。

ここでは、ABM導入時に陥りやすい3つの罠と、それを乗り越えるための解決策をご紹介します。これを頭の片隅に置いておくだけで、あなたのABMプロジェクトの生存率はぐっと高まりますよ。

ターゲットを絞り込みすぎて商談数が一時的に減少する不安への対処

ABMを始めると、多くの企業が最初に直面するのが「商談数が減った」という恐怖です。広くリードを集めるのをやめ、特定の企業に絞るわけですから、分母が減るのは当然のことですよね。しかし、これまで商談の「数」をKPI(重要業績評価指標)にしてきた組織では、この減少が大きな不安材料になります。

この不安に負けて、ターゲット外の企業へのアプローチを再開してしまうと、ABMの良さが消えてしまいます。

・解決策1:評価指標の変更。商談数ではなく、「ターゲット企業内のキーマンとの接触率」や「ターゲット企業からの受注単価」を指標にする。 ・解決策2:段階的な移行。すべてのマーケティングをABMに変えるのではなく、最初は予算の2〜3割から始め、成果を確認しながら徐々に広げていく。 ・解決策3:パイプラインの質を確認。商談数は減っても、一件あたりの受注確度が上がり、案件サイズが大きくなっていることをデータで示す。

大切なのは、「無駄な商談を減らし、価値ある対話を増やしている」という認識を組織全体で共有することです。経営層に対しても、短期的な数の減少に惑わされず、長期的なROI(投資対効果)の向上を見てくれるよう、あらかじめ握っておくことが重要ですね。

営業とマーケティングの責任範囲が曖昧になり連携が崩れる問題

「ABMは営業とマーケが協力するものだ」というスローガンだけでは、実際の現場は動きません。むしろ、お互いの領域に踏み込むことになるため、責任範囲が曖昧になり、責任のなすりつけ合いが始まることすらあります。

・解決策:サービスレベル合意(SLA)の締結。マーケティングがどのレベルまで情報を揃えて営業に渡すのか、営業は受け取った情報に対していつまでにアプローチするのかを、明確に文書化(またはツール上のルール化)します。

・マーケの役割:ターゲット企業のインサイト分析、パーソナライズされたコンテンツの提供、キーマンへのデジタルな接触。 ・営業の役割:現場で得た情報のフィードバック、適切なタイミングでの対面提案、クロージング。

このように役割をパズルのピースのように組み合わせることが大切です。また、定例の連携会議を設け、お互いの苦労や成功体験を共有する場を作ることも、心理的な壁を取り払うのに有効です。ABMは技術的なプロジェクトではなく、人間関係のプロジェクトだと言えるかもしれませんね。

パーソナライズにこだわりすぎてコストと手間が膨大になる罠

ターゲット一社一社に対して、完璧にカスタマイズされた動画や冊子を作ろうとすると、制作コストと時間がいくらあっても足りません。その結果、施策が遅れたり、担当者が疲弊してしまったりするのはよくある失敗パターンです。

・解決策:モジュール化とスケール(拡大)の意識。

・80:20の法則:コンテンツの8割は業界共通の課題や自社の強みなどのテンプレートにし、残りの2割をその企業特有の要素(ロゴ、社名、直面している課題への言及)に差し替える。 ・ツールの活用:MAやセールスイネーブルメントツールを使い、名前や企業名を自動で差し込める仕組みを作る。 ・優先順位の徹底:すべてのターゲットに同じ手間をかけるのではなく、ティア1(最重要顧客)にのみ100%のカスタマイズを行い、他はセミカスタマイズに留める。

完璧主義はABMの敵です。まずは「相手に自分のことだと気づいてもらえる最低限の工夫」から始め、反応を見ながら作り込んでいく柔軟な姿勢が、継続のコツですよ。


ABM(アカウントベースドマーケティング)をさらに深化させるための応用戦略

ABMの基本が身につき、運用のサイクルが回り始めたら、次はさらに一歩進んだ応用戦略に挑戦してみましょう。2026年のビジネス環境では、ただターゲットを絞るだけでなく、心理学的なアプローチや最新のAI技術を組み合わせることで、競合他社に圧倒的な差をつけることができます。

ABMは一度完成して終わりではなく、常にアップデートしていくものです。顧客の変化に合わせて、こちらのアプローチも進化させていく必要があります。ここでは、さらに成約率を高め、顧客との絆を強くするための3つの高度なテクニックをご紹介します。

これを実践できるようになれば、あなたはABMの真の使い手と言えるでしょう。

役員同士をつなぐエグゼクティブ・エンゲージメントのやり方

B2Bの大きな案件において、最終的な決定権を持つのは相手企業の役員クラスです。しかし、現場の営業担当者が役員に直接アプローチするのは非常に難易度が高いですよね。そこで有効なのが、自社の役員を巻き込んだ「役員対役員(Top to Top)」のアプローチ、すなわちエグゼクティブ・エンゲージメントです。

・施策:自社の役員から相手企業の役員へ、業界の未来を議論するための「プライベート・ラウンドテーブル」や「エグゼクティブ・ディナー」に招待する。 ・ポイント:ここで製品の売り込みをしてはいけません。あくまで「パートナーとして共に業界を良くしていきたい」というビジョンを共有し、信頼関係の土台を作ることが目的です。 ・効果:一度役員同士のつながりができれば、現場の商談でトラブルが起きてもスムーズに解決できますし、全社的な導入の決断も早くなります。

組織全体の「格」を見せることで、顧客にとって代えがたいパートナーになることができます。経営層をABMのチームメンバーの一員として、戦略的に動いてもらう仕組みを作ることが大切ですね。

ソーシャルセリングを組み合わせて個人的な信頼を勝ち取る方法

ABMは組織対組織のアプローチですが、最終的に対話をするのは「人」です。ターゲット企業のキーマンと個人的な信頼関係を築くために、SNSを活用したソーシャルセリングを組み合わせるのが非常に効果的です。

・手順:まず、LinkedInなどのビジネスSNSでターゲット企業のキーマンをフォローし、その人が発信している投稿に有益なコメントを残したり、シェアしたりします。 ・目的:いきなりメッセージを送るのではなく、相手の視界に何度も入り、緩やかな認知を得る(ザイオンス効果:単純接触効果のことです)ことを目指します。 ・コツ:自分のプロフィールも、特定の課題に対する専門家として整えておくことが重要です。

デジタル広告で会社の認知を高め、ソーシャルセリングで個人の信頼を高める。この二段構えのアプローチにより、いざ営業が連絡した際に「ああ、あのよくコメントをくれる専門家の人ね」と、好意的に受け止めてもらえるようになります。

AIを活用した需要予測とインテントデータの活用テクニック

2026年のABMにおいて、欠かせないのがインテントデータ(意向データ)の活用です。これは、特定の企業がネット上のどこかで自社に関連するトピックを調べている、という「興味の兆し」を示すデータのことです。

・仕組み:自社のサイトに来る前であっても、ターゲット企業の社員がメディアで「DX 失敗事例」や「CRM 比較」といったキーワードを頻繁に調べていれば、AIが「この企業は今、課題を抱えている可能性が高い」と判定します。 ・活用法:この予測データをもとに、ベストなタイミングで関連するコンテンツを届けます。 ・メリット:顧客が自分たちで解決策を探し始める「一歩前」にアプローチできるため、競合他社を出し抜いて検討の土台に乗ることができます。

最新のテクノロジーを駆使して、顧客が言葉にする前の「心の声」を察知する。これができると、ABMの精度は魔法のように向上します。ツールに踊らされるのではなく、こうしたデータをどう戦略に組み込むかという「解釈の力」を磨いていきましょうね。


まとめ

ABM(アカウントベースドマーケティング)は、情報の溢れる現代において、B2Bビジネスを成功に導く最も合理的で強力な戦略です。不特定多数へのアプローチをやめ、自社にとって真に価値のある顧客と深く向き合う。このシンプルながらも深い思想こそが、営業効率を改善し、組織に高い利益をもたらしてくれます。

導入には営業とマーケティングの強固な連携や、緻密なICPの策定、そしてテクノロジーの適切な活用など、超えるべきハードルもいくつかあります。しかし、一つひとつのプロセスを誠実に積み上げていけば、必ず数字となって成果が現れます。

まずは、社内のメンバーと一緒に「自分たちが本当に取引したい、愛すべき顧客は誰か?」という問いを立てることから始めてみませんか。その一歩が、あなたの会社の未来を大きく変えるきっかけになるはずですよ。

今週のベストバイ

おすすめ一覧

資料ダウンロード

弊社のサービスについて詳しく知りたい方はこちらより
サービスご紹介資料をダウンロードしてください