市場分析において、どこまでが自社のターゲットとなり得るのか、どの市場を狙えば事業が拡大できるのかを正しく把握することは、事業成功の鍵です。そんなときに役立つのが「TAM・SAM・SOM」というフレームワークです。市場の全体像から、自社が実際にリーチできる範囲までを段階的に整理し、戦略を組み立てるための強力な分析ツールとして知られています。本記事では、このTAM・SAM・SOMの意味や違い、読み方や活用方法、具体的な計算例、そしてフェルミ推定を使った応用まで、マーケティング初心者でも理解できるように丁寧に解説していきます。
TAM・SAM・SOMの基本概念を理解する
TAM(Total Addressable Market)、SAM(Serviceable Available Market)、SOM(Serviceable Obtainable Market)は、いずれもマーケティング戦略や事業計画において市場規模を把握するために用いられる代表的なフレームワークです。
TAMとは何か?
TAMは「Total Addressable Market」の略で、直訳すれば「総アドレス可能市場」です。つまり、自社の製品やサービスが理論上カバー可能な市場全体の大きさを示します。例えば、音楽配信アプリを提供している企業であれば、TAMは「世界中の音楽を聴くすべてのユーザー」が対象になるかもしれません。
IT業界では「tamとは it」のように検索されることもあり、業界別にTAMを定義する必要があります。クラウドストレージサービスであれば、「クラウド利用者全体」や「法人向けクラウド市場全体」がTAMになります。
SAMとは何か?
SAMは「Serviceable Available Market」の略で、TAMのうち、自社が製品やサービスを提供できる市場に絞ったものです。言い換えれば、「ターゲット市場」のことです。
例えば、前述の音楽配信アプリの例では、SAMは日本国内のスマートフォンユーザーに限られるかもしれません。また、ライセンス契約や流通、法規制などの条件によってもSAMの大きさは変動します。
SAMとは何かを正確に理解しておくと、競合との比較や事業計画立案の際に、自社の立ち位置をより明確に描けます。
SOMとは何か?
SOMは「Serviceable Obtainable Market」の略で、SAMのうち、実際に自社がシェアを獲得できると見込まれる市場規模です。
つまり、現実的な売上・顧客獲得の見込み値として扱われる部分であり、投資家とのコミュニケーションやマーケティングKPIの設定にも密接に関わってきます。例えば、自社が獲得できる見込みシェアを10%と見積もれば、SAMが100億円の市場であれば、SOMは10億円となります。
TAM・SAM・SOMの関係性と図解イメージ
TAM・SAM・SOMは、それぞれ市場の大きさを階層的に捉える構造になっており、よく「同心円」のような図で表現されます。もっとも外側がTAM、そこから自社の提供範囲に絞ったものがSAM、さらに実現可能性で絞り込んだものがSOMです。
この図解により、ステークホルダーに対して事業の成長戦略やスケーラビリティ(拡張性)を視覚的に伝えることができます。
ExcelやGoogleスライドなどでも円グラフで簡単に作成可能で、SaaSビジネスやスタートアップのピッチ資料には定番の要素です。
TAM・SAM・SOMの計算方法と活用ステップ
市場規模を定量的に把握するためには、以下のようなステップで段階的にTAM・SAM・SOMを算出していきます。
ステップ1:TAMの算出
TAMは通常、国や業界の統計データ、調査会社のレポートなどをもとに、対象市場全体の年間売上や利用者数などから算出します。たとえば、「日本のコーヒー市場は2024年で1兆円」といったようなデータがあれば、それがTAMの基礎になります。
ステップ2:SAMの算出
次に、TAMの中から自社が提供可能な製品領域に合致する部分を抽出します。たとえば、自社が「インスタントコーヒー」だけを販売している場合、インスタントコーヒー市場が5000億円なら、それがSAMになります。
ステップ3:SOMの算出
SAMから、実際に自社が獲得可能と予測する市場シェアをかけてSOMを算出します。シェア率は過去実績、競合分析、市場成長率などを踏まえて見積もります。たとえば、SAMが5000億円で、市場の1%を狙えるなら、SOMは50億円になります。
TAM・SAM・SOMの具体例とフェルミ推定の活用
例:サブスクリプション型の動画配信サービスの場合
- TAM:動画コンテンツを視聴するすべての人(世界中のインターネット利用者40億人と仮定)
- SAM:日本国内で動画配信サービスに加入する可能性がある層(5000万人)
- SOM:その中で自社が狙えるシェア(5%と見積もれば250万人)
売上に換算する場合、250万人 × 月額1000円 × 12ヶ月 = 年間300億円がSOMの売上見込みになります。
フェルミ推定を用いた市場規模の計算
「tam sam som フェルミ推定」というキーワードからもわかる通り、データが不完全な場合でも、おおまかな市場規模を推計するために「フェルミ推定」が有効です。
たとえば、「東京のビジネスマンのうち、何人が毎日缶コーヒーを飲んでいるか」という問いに対して、
- 東京の人口:約1400万人
- うちビジネスマンは約30% → 420万人
- うち缶コーヒーを飲む人は約40% → 168万人
- 1日あたり1本(150円)を消費すると仮定
この場合、1日あたりの市場規模は168万人 × 150円 = 2.52億円 年間では約920億円が想定され、これをTAMとして活用できます。
TAM・SAM・SOMはビジネスプランの信頼性を高める
TAM・SAM・SOMを理解し、活用することで、投資家や社内の経営陣に対して、事業の成長可能性を具体的に示すことが可能になります。
たとえば、スタートアップの資金調達ピッチにおいて、「TAMが5兆円、SAMが5000億円、SOMが50億円」と明示できれば、事業のポテンシャルと現実性のバランスが伝わりやすくなります。また、事業拡大のステージごとにSOM→SAM→TAMと逆算して戦略を組むことも可能です。
ExcelやBIツールで市場データを可視化したり、社内資料にグラフとして落とし込むことで、会議や戦略会議でも説得力が増します。
TAM・SAM・SOMを使った実務の進め方
マーケティング部門や経営企画、事業開発部門では、TAM・SAM・SOMの分析を業務の中で継続的に行うことが求められます。その際には、次のようなツールや情報源の活用が効果的です。
- 総務省統計局・経済産業省の調査レポート
- Google Trends や Keyword Planner による検索需要調査
- 顧客アンケート結果や販売履歴のデータベース
- BIツール(Tableau、Looker、PowerBI など)
こうした情報をもとに、仮説と検証を繰り返しながら、より精度の高いSOMを導き出すことが、利益直結のマーケ戦略に繋がります。
まとめ:TAM・SAM・SOMを理解すれば市場戦略はブレなくなる
TAM・SAM・SOMは単なる理論ではなく、市場を客観的に捉え、ビジネスの成長余地を示すための強力な分析手法です。初心者でも、用語の意味や関係性を正しく理解し、実務に応用できれば、マーケティングの精度と説得力は飛躍的に高まります。
市場規模の見積もりは、単なる数値の羅列ではなく、戦略と実行の橋渡し役。計算方法やフェルミ推定、Excelなどのツールを駆使しながら、具体的な売上見込みや成長シナリオを描けるようになることが、今後のビジネス成功に直結するでしょう。