自社の売上が伸び悩んでいるとき、あるいは新規出店を検討しているとき、見逃してはいけないのが「競合店の存在」です。どのような業態であれ、競合がどこにいて、どんな施策を展開しているかを把握することは、ビジネス戦略の基盤になります。この記事では、「競合店調査とは何か」という基本から、調査の目的、実務でのやり方、具体的なレポートの作り方、さらにテンプレートや言い換え、英語での表現まで、現場でそのまま活かせる知識を網羅的に解説します。
競合店調査とは
競合店調査とは、自社と類似する商品やサービスを提供する店舗や企業について、立地、価格、サービス内容、販促手法、集客状況などの情報を体系的に収集・分析することを指します。これは新規出店時の立地選定や、自社の営業戦略の見直し、商品構成の最適化、価格設定の妥当性検証など、あらゆるビジネス活動の基盤となるリサーチです。
業界によって競合の定義は変わりますが、例えばスーパーであれば同一商圏にある同業態の食品スーパー、ディスカウント店、ドラッグストアなどが調査対象となります。
競合店調査はマーケティングの基本でありながら、実は多くの企業が正しく実践できていません。主観的な印象だけで競合を語っていたり、現地視察だけで終わらせてしまったりすることが多いのが現状です。客観的なデータとして記録し、再利用可能な情報資産として整備することこそが、調査を行う最大の意義だといえるでしょう。
競合店調査の目的とは
競合店調査の最も大きな目的は、競争環境の中で自社の立ち位置を明確にし、的確な戦略判断を行うことです。そのためには、単に「ライバルがどこにあるか」を見るのではなく、「自社とどう違い、なぜ顧客を取れているのか」「何が強みで、どこに改善余地があるのか」を読み解く必要があります。
たとえば、売上が落ちている店舗があった場合、その原因が周辺の競合店の出店によるものか、価格競争の激化か、それとも自社のサービス低下なのかを見極めるためにも、競合店調査は欠かせません。現地視察だけでなく、商圏データ、人口動態、立地条件などの客観情報と掛け合わせて分析することで、より精度の高い判断が可能になります。
さらに、新店舗の出店判断にも有効です。周囲に強力な競合がいる場合は、出店リスクが高くなる可能性があります。逆に競合がいない、もしくはニーズを満たしていないエリアであれば、自社の存在が歓迎される余地も大いにあります。
競合を知ることは、単なる「防御」ではなく、「攻め」のための起点でもあるのです。
競合店調査のやり方と流れ
競合店調査には大きく分けて以下のようなステップがあります。
調査対象の明確化
まずは「誰を競合と定義するか」を明確にします。これは業態・エリア・価格帯・ターゲット層など、さまざまな要素で判断されます。たとえばスーパー業界であれば、同一商圏にある食品スーパーのほか、総合ディスカウントストアやドラッグストアも競合と見なす場合があります。
調査項目の設計
調査対象が決まったら、次は「何を調べるのか」を設計します。具体的には以下のような観点があります:
- 商品構成(品ぞろえ)
- 売場の陳列・レイアウト
- 価格帯・値引き率
- 接客の質やサービス水準
- 集客方法(チラシ・ポイントカード・SNSなど)
- 混雑状況(曜日・時間帯)
- 駐車場の有無
調査内容は目的によって柔軟に調整する必要がありますが、数値化できる項目はできる限り定量的に記録することがポイントです。
実地調査・資料収集
実際に現地を訪問し、観察や写真撮影を行いながら調査を進めます。また、チラシ、WEBサイト、SNSアカウントなど、オンラインの情報も合わせて収集することで、時系列的な変化やプロモーションの傾向も読み取れます。
レポート化と分析
調査結果を報告書やレポートとしてまとめます。この際、単なる情報の羅列ではなく、自社との比較、強み・弱みの対比、改善点の提案など、戦略に活かせる内容に仕上げることが重要です。
テンプレートを活用した調査の効率化
競合店調査を継続的に行うためには、フォーマットの統一が重要です。毎回手探りで調査するのではなく、あらかじめ定められたテンプレートに沿って情報を収集することで、比較・分析が格段にしやすくなります。
テンプレートには、店舗名・住所・立地タイプ・取扱商品・価格・混雑時間帯・販促施策など、基本的な項目を網羅しておくとよいでしょう。また、写真を添付できるスペースや、自由記述欄を設けておくことで、現場の肌感覚も残すことができます。
エクセルやスプレッドシートで作成すれば、部門間で共有しやすく、月次・四半期単位での傾向把握にも役立ちます。テンプレートを標準化することは、業務の属人化を防ぎ、調査の精度を長期的に保つための有効な手段です。
競合店調査レポートの構成と書き方
実務で提出する競合店調査レポートには、「見やすさ」と「再現性」が求められます。基本的な構成は以下の通りです:
- 調査目的の明示
- 調査実施日・調査者情報
- 対象店舗の概要
- 調査項目ごとの情報整理(写真や図も交えて)
- 自社との比較分析
- 考察・示唆・改善提案
報告書の中には「次の打ち手」が含まれていることが理想です。たとえば、「競合店では月曜の朝にポイント2倍セールを実施していた」という情報があれば、「当社も同時間帯の販促を強化すべきか」といった具体的な提案に落とし込みます。
現場視点だけでなく、経営層に届く視座で整理されたレポートは、ただの現地報告を超えて、企業戦略の意思決定資料にもなりえます。
スーパー業界における競合店調査の実例
スーパー業界は特に競合が密集している業態であり、調査の重要性はきわめて高い分野です。価格だけでなく、売場面積、PB商品の強さ、鮮度管理、チラシの配布頻度、惣菜のバリエーションといった多岐にわたる要素を比較しなければなりません。
たとえば、ある地域で調査したところ、競合店では火曜の夕方に惣菜売場を大幅に拡張し、単身世帯向けのパック弁当を重点販売していたことがわかりました。それを踏まえ、自社では「木曜の生鮮強化デー」に合わせて、惣菜との買い合わせを促すPOP展開を導入。結果として客単価が向上したという例があります。
このように、競合の動きを細かく読み取ることで、自社の販売施策も現場に即した改善が可能となります。
ビジネスシーンでの言い換え・英語表現
「競合店調査」という言葉は、社内外の資料や会議で言い換えて使われることがあります。たとえば「店舗競合分析」「競争環境調査」「マーケットスキャン」などが代表例です。特に営業資料や役員報告書など、フォーマルな文脈ではこのような表現が好まれることがあります。
また、グローバル展開している企業であれば、英語表現としては「Competitive Store Survey」「Retail Competitor Analysis」「Market Observation」などが使われます。単なる翻訳ではなく、ビジネス文脈に即した言い換えができることで、社内コミュニケーションの円滑化にもつながります。
調査時の注意点と成功のコツ
競合店調査を実施する際には、いくつかの注意点があります。まず、調査対象の店舗に迷惑をかける行動は厳禁です。長時間の店内撮影や、店員への過剰な質問はトラブルの原因になります。可能であれば、外観やチラシ、公開情報をベースに調査するのが基本です。
また、調査者の主観が入りすぎると分析の客観性が失われます。「混んでいた」と記録するより、「○○時に○○人がレジに並んでいた」など、定量的に記録する意識が重要です。
さらに、1回限りの調査では不十分です。時間帯、曜日、イベント前後など、時系列で複数回調査を行うことで、より本質的なトレンドが見えてきます。
まとめ:競合店調査は戦略の羅針盤
競合店調査は単なる情報収集ではなく、ビジネスの意思決定に直結する「戦略の羅針盤」です。市場環境の変化が激しい時代において、現場の肌感覚だけでは限界があります。だからこそ、競合を「調査」し、「比較」し、「分析」して、「行動」に落とし込むことが必要なのです。
目的を明確にし、テンプレートを活用し、レポートとしての質を高めれば、競合店調査は一過性の業務ではなく、企業の競争力を支える継続的な武器になります。
競合を知ることは、自社を知ること。ぜひ、本記事で紹介したノウハウを業務に取り入れ、実務に活かしていただければ幸いです。