企業のSNS担当者として動画編集を任されたとき、一番頭を悩ませるのが「音楽(BGM)」の扱いではないでしょうか。 「スマホアプリで簡単に作れる」と言われても、業務で使うならパソコンで細かく編集したいですし、著作権の問題もクリアにしておきたいですよね。
特にYouTubeショートは、流行りの曲を使うことで再生数が伸びやすくなる一方で、ビジネス利用となると権利関係が複雑になりがちです。 「パソコンで編集した動画に、後から音楽だけつけたい」 「会社のアカウントだから、著作権侵害のリスクはゼロにしたい」
そんな悩みを抱えるあなたのために、この記事ではパソコンを使った業務レベルの音楽設定手順から、スマホやiPadでの手軽な後付け方法、そして絶対に知っておくべき著作権のルールまでを網羅的に解説します。 正しい手順を知れば、炎上リスクを回避しながら、視聴者の心を掴む魅力的なショート動画が作れるようになりますよ。
YouTubeショートに音楽をつける3つのタイミングと「後から」の意味
YouTubeショートに音楽をつけると言っても、実はそのタイミングには大きく分けて3つのパターンがあります。 ここを整理しておかないと、「やりたかったことができない」「思っていたのと違う」というミスマッチが起きてしまいます。まずは自分の目的に合ったタイミングを選びましょう。
1. 撮影時に音楽に合わせて撮る(スマホアプリ)
これはTikTokなどでよく見られる手法です。YouTubeアプリのショートカメラ機能を使い、最初に曲を選んで、そのリズムに合わせてダンスをしたり演技をしたりする方法です。 手軽で楽しいですが、企業のPR動画や解説動画など、きっちりとした構成が必要な「業務向け」の動画にはあまり向きません。
2. 動画編集ソフトで音楽を合成して書き出す(パソコン編集)
Adobe Premiere ProやDavinci Resolve、CapCut(PC版)などの編集ソフトを使い、映像とBGMを完全にミックスさせて一本の動画ファイル(MP4など)として完成させる方法です。 音量の微調整や、効果音とのバランス、フェードイン・アウトなどの細かい演出が可能です。ビジネス利用では、この方法が最も一般的で推奨されます。今回の記事のメインテーマである「パソコンでの設定」はこれに該当します。
3. 動画をアップロードする直前にBGM機能でつける(後から設定)
動画自体は無音、あるいは話し声だけの状態で用意しておき、YouTubeアプリのアップロード画面にある「サウンドを追加」機能を使って、YouTubeが提供している楽曲を重ねる方法です。 流行りのJ-POPや洋楽を合法的に使いたい場合は、この方法が必須になります。ただし、パソコンのブラウザからアップロードする場合、この「サウンド追加機能」は基本的に使えません(ここが最大の落とし穴です)。 そのため、パソコンで編集した動画に「流行りの曲」をつけたい場合は、一度スマホに動画を送ってからアップロードするという手順が必要になります。
【パソコン編】編集ソフトを使って音楽を設定・調整する業務向け手順
それでは、ビジネス動画としてクオリティを高めるための、パソコンを使った音楽の付け方を解説します。 「後から設定する」というのは、撮影後の編集段階で、映像に合わせて最適なBGMを選定・配置するという意味で捉えてください。この工程を丁寧に行うことで、動画のプロっぽさが格段に上がりますよ。
編集ソフトでBGMを入れるメリットと基本的な流れ
パソコンで音楽を入れる最大のメリットは、「自由度の高さ」です。 スマホアプリの自動機能では、「サビの盛り上がりと映像の切り替わりを0.1秒単位で合わせる」といった細かい調整は難しいですが、PCソフトなら思いのままです。
手順は以下のようになります。
- 素材の準備: 撮影した動画データと、使用したい音楽ファイル(MP3やWAV)をパソコンに取り込みます。
- タイムラインへの配置: 編集ソフトを立ち上げ、映像トラックの下にある「オーディオトラック」に音楽ファイルをドラッグ&ドロップします。
- 波形の確認: 音楽の波形(ギザギザしたグラフ)を見ながら、ドラムの音やキメのタイミングに合わせて映像をカットします。
- 音量バランスの調整: 自分の話し声(ナレーション)が入っている場合は、BGMの音量を下げて声が聞き取りやすいように調整します。一般的に、BGMはマイナス20dB〜25dB程度まで下げると声と馴染みやすくなります。
パソコンからのアップロード時にYouTubeオーディオライブラリを活用する
もし、手元に使える音楽ファイルがない場合や、著作権フリーの安全な曲を探している場合は、YouTube公式の「オーディオライブラリ」を活用しましょう。 これは、YouTube Studio内で提供されている無料の楽曲集です。
- パソコンでYouTube Studioを開きます。
- 左側のメニューから「オーディオ ライブラリ」をクリックします。
- 「ジャンル」や「気分」でフィルタリングして、イメージに合う曲を探します。
- 気に入った曲があれば「ダウンロード」をクリックして保存します。
- 保存したファイルを編集ソフトに読み込んで使用します。
この方法の素晴らしい点は、YouTube公式が「使っていいよ」と提供している曲なので、著作権侵害の申し立て(Content ID)を受けるリスクが限りなくゼロに近いことです。企業の公式アカウントであれば、まずはこのオーディオライブラリから選ぶのが最も安全な選択肢と言えるでしょう。
外部の有料音源サービスを利用して差別化を図る
「オーディオライブラリだと、他のチャンネルと曲が被ってしまう」 そんな悩みを持つ担当者の方も多いかもしれませんね。 クオリティとオリジナリティを追求するなら、有料の著作権フリー音源サービス(ストックミュージック)の契約を検討してみてください。
代表的なサービスには「Epidemic Sound」や「Artlist」、「Audiostock」などがあります。 これらは月額制や買い切り制で、プロ品質の楽曲を商用利用可能な状態で提供しています。PCで編集するフローであれば、これらのサイトから高品質なWAVデータをダウンロードし、編集ソフトに組み込むだけで、テレビCMのようなリッチな雰囲気を作り出すことができます。 「後から」曲を変えたくなった場合でも、編集プロジェクトを開いて音楽ファイルを差し替えるだけで済むので、修正対応もスムーズですよ。
【スマホ・iPad編】アプリ機能でアップロード時に音楽を後付けする方法
パソコンで動画の構成を作ったけれど、どうしても「今TikTokで流行っているあの曲」を使いたい。 あるいは、出先でiPadを使ってサクッと編集してアップしたい。 そんなケースもありますよね。ここでは、モバイル端末のアプリ機能を活用して、アップロードの直前に音楽を「後付け」する方法を解説します。
「サウンドを追加」機能の基本的な使い方
YouTubeのスマホアプリ(およびiPadアプリ)には、強力な「サウンド」機能が搭載されています。これを使えば、メジャーアーティストの楽曲を最大60秒までショート動画に使用することができます。
手順は以下の通りです。
- YouTubeアプリを開き、画面下部の「+」ボタンをタップして「ショート動画を作成」を選びます。
- 左下の四角いアイコンをタップして、カメラロールから編集済みの動画(PCで作った動画など)を選択します。
- 画面上部にある「サウンドを追加」をタップします。
- おすすめの曲や検索機能を使って、使いたい曲を選びます。
- 青い矢印ボタンを押して決定します。
この方法を使う場合、PCで編集した動画には「BGMを入れずに(無音または声のみで)」書き出しておくのがコツです。BGMが入った動画の上にさらにアプリで曲を重ねると、音が喧嘩して聞き苦しくなってしまいますからね。
音楽を「途中から」再生させる調整テクニック
選んだ曲の「冒頭」ではなく、「サビ」の部分だけを使いたいことも多いはずです。 「YouTubeショート 音楽 途中から」と検索する方が非常に多いこの悩みですが、実はアプリ内で簡単に調整できます。
- 曲を選んだ後、画面右側のメニューにある「調整(波形のアイコン)」をタップします(表示されない場合は、上部の曲名をタップしてみてください)。
- 画面下部に曲の波形が表示されます。
- この波形部分を指で左右にスライドさせることで、曲の「使い始めの位置」を変更できます。
- 歌詞やメロディを聞きながら、一番盛り上がるサビの頭に合わせましょう。
この機能を使えば、動画のオチに合わせて曲のジャーン!という終了音を持ってくるなど、演出の幅が広がりますよ。
タブレット(iPad)での操作感と注意点
iPadでYouTubeショートを作成する場合も、基本的にはスマホ版(iPhone/Android)と同じYouTubeアプリを使用します。 大画面で操作できるため、動画のトリミングやテロップの位置調整などはスマホよりもやりやすいでしょう。
ただし、iPad版の動画編集アプリ(CapCutやLumaFusionなど)を使って編集し、そこからYouTubeアプリに共有する場合、画角の設定に注意が必要です。YouTubeショートは「9:16(縦長)」が基本ですが、iPadの画面は「4:3」に近い比率です。 編集アプリの設定で必ずキャンバスサイズを「9:16」に指定してから書き出さないと、YouTubeにアップした際に左右に黒い帯が出てしまったり、意図しないトリミングがされたりすることがあります。
著作権侵害を防ぐ!ビジネス利用で絶対知っておくべき音楽ルール
企業のSNS担当者が最も恐れるのが「著作権トラブル」です。 「個人の趣味ならグレーゾーンでも…」という甘い考えは、ビジネスでは通用しません。会社の信用問題に関わりますし、最悪の場合アカウントが停止(BAN)されるリスクもあります。 ここでは、YouTubeショートにおける音楽の著作権ルールを、専門用語を使わずに分かりやすく解説します。
「使える音楽」と「使えない音楽」の境界線
YouTubeショートにおいて、音楽の権利関係は少し特殊です。
- YouTubeアプリの「サウンド」機能にある曲: 基本的に使用OKです。YouTubeがJASRACなどの権利管理団体やレコード会社と包括契約を結んでいるため、個人・法人問わず、ショート動画の機能内であれば使用が許可されています。
- YouTubeオーディオライブラリの曲: 使用OKです。商用利用も可能です。
- 自分で購入したCDやiTunesの曲: 使用NGです。私的利用の範囲を超えています。PC編集ソフトで勝手にBGMとして貼り付けてアップロードすると、著作権侵害の警告が来ます。
- フリー素材サイトの曲: サイトの規約によります。「商用利用OK」「クレジット表記不要」などの条件を必ず確認してください。「DOVA-SYNDROME」などの有名サイトでも、作曲者によってはYouTubeでの使用に制限をかけている場合があります。
商用利用(収益化)における著作権フリー音源の選び方
ビジネスアカウントで、特に商品を宣伝したり、自社サイトへ誘導したりする目的(広義の商用利用)がある場合、YouTubeアプリ内の「サウンド」機能でメジャーな曲(J-POPなど)を使うことには注意が必要です。
YouTubeの規約上、ショート動画での音楽利用は「個人の非営利利用」や「クリエイターとしての活動」を主眼に置いています。あからさまな企業CMのような動画に流行りの曲を使うと、レコード会社やアーティスト側から「楽曲のイメージを損なう」「広告利用である」として異議申し立てを受けるリスクがゼロではありません。
そのため、企業のプロモーション動画として安全策を取るなら、やはり以下の2択をおすすめします。
- YouTubeオーディオライブラリの曲を使う。
- 有料契約した**著作権フリー音源サービス(Epidemic Soundなど)**の曲を使う。
これらは最初から「商用利用」を前提として提供されているため、後からトラブルになる心配がありません。安心をお金で買う、という考え方もビジネスでは重要ですよね。
音楽が「つけられない」「使えない」時の原因とトラブルシューティング
最後に、いざ音楽をつけようとした時に発生しがちなトラブルと、その解決策をまとめました。 「あれ?ボタンが押せない」「エラーが出る」と焦る前に、ここをチェックしてみてください。
「この楽曲は現在ご利用いただけません」と表示される
YouTubeアプリで曲を選ぼうとした時、あるいは投稿済みの動画で、曲名部分がグレーアウトして再生できなくなることがあります。 これは、その楽曲のライセンス契約が終了したか、アーティスト側の意向でショート動画での使用が禁止された可能性があります。
対処法: 残念ながら、ユーザー側で復活させることはできません。動画を一度削除し、別の曲(ライセンスが有効な曲)に差し替えてから再アップロードするしかありません。PC編集で埋め込んだ曲が著作権侵害でミュートされた場合も同様に、編集ソフトでBGMを差し替えて書き出し直す必要があります。
15秒しか音楽がつかない(60秒にならない)
「60秒の動画を作ったのに、音楽が最初の15秒で切れてしまう」 これも非常によくあるトラブルです。 YouTubeショートの音楽機能は、楽曲によって「最大15秒まで」の制限がかかっているものと、「60秒まで」使えるものがあります。また、アプリの設定でデフォルトが15秒になっていることもあります。
対処法:
- ショート動画作成画面の右上にある「15」という数字をタップして「60」に切り替えます。
- 曲を選ぶ際、曲名の横に時間の制限などが書かれていないか確認します。
- それでもダメな場合は、その曲自体が権利者の意向で15秒利用に制限されている可能性が高いです。別の曲を探しましょう。
パソコンからアップロードすると「サウンド」機能が使えない
記事の前半でも触れましたが、これは仕様です。 パソコンのWebブラウザ版YouTube Studioからアップロードする場合、スマホアプリのような「市販曲を選んでつける機能」は表示されません。PCからアップロードした動画は、あらかじめ編集ソフトでBGMを埋め込んでおく必要があります。
対処法: どうしてもPCにある動画ファイルに流行りの曲をつけたい場合は、以下の手順を踏んでください。
- PCにある動画ファイルを、AirDropやGoogleドライブ経由でスマホに送る。
- スマホのYouTubeアプリを開く。
- 「ショート動画を作成」からカメラロールの動画を読み込む。
- スマホアプリ上で「サウンドを追加」してアップロードする。
このひと手間を加えるだけで、PC編集のクオリティと、アプリ限定の音楽機能をいいとこ取りできますよ。
まとめ:自分に合った「音楽の付け方」でショート動画を攻略しよう
今回は、YouTubeショートに音楽をつける方法について、パソコンでの業務フローを中心に解説しました。
記事のポイントを振り返ってみましょう。
- PC編集が基本: 業務利用なら、編集ソフトで著作権フリー音源を合成して書き出すのが最も安全で高品質。
- スマホ連携も活用: 流行りの曲を使いたいなら、PCで作った動画をスマホに送り、アプリの「サウンド」機能で後付けする。
- 著作権は厳守: YouTubeオーディオライブラリや有料サービスを使い、権利トラブルを未然に防ぐ。
- 「途中から」も自在: 編集ソフトなら波形でカット、アプリなら調整機能でサビ出しが可能。
音楽は、動画の印象を決定づけるとても重要な要素です。 BGMひとつで、コミカルにも、感動的にも、スタイリッシュにも変わります。
最初は慣れない作業で「面倒だな」と感じるかもしれませんが、一度このワークフローを確立してしまえば、あなたの作る動画は間違いなくレベルアップします。 まずは、YouTube Studioのオーディオライブラリを覗いて、自社のイメージに合う曲を一曲ダウンロードするところから始めてみませんか。きっと、動画作りの楽しさが広がるはずですよ。




























