メンターという言葉を聞くと、「新人の相談役」「面倒見のいい先輩」くらいのイメージで止まっている人も多いかもしれません。けれど、実務の現場でメンター制度を動かそうとすると、そこまで簡単な話ではありません。
たとえば、新入社員が配属3週間目で「上司に聞くほどではないけど、誰に相談すればいいかわからない」と止まってしまう場面があります。本人は焦っているのに、周囲は「何かあれば聞いてね」と言うだけ。結果として質問できないまま作業をやり直し、提出前に大きなズレが見つかる。こういう小さな詰まりを放置すると、早期離職や成長停滞につながります。
メンターは、単なる優しい先輩ではありません。評価者ではない立場から、メンティーの不安、判断、キャリア、職場へのなじみ方を支える存在です。上司でも先生でも友達でもないからこそ、現場ではかなり重要な役割を持ちます。
メンターとは仕事の悩みと成長を支える「斜めの相談相手」

メンターとは、経験や知識を持つ先輩社員が、後輩や若手社員の成長を支援する役割のことです。メンターから支援を受ける側はメンティーと呼ばれます。
ここで大切なのは、メンターは「業務を命令する人」ではないという点です。上司のように評価を下す立場ではなく、同僚のように横並びでもありません。職場ではこれを「斜めの関係」と呼ぶことがあります。
たとえば、直属の上司には「この仕事が向いていない気がします」と言いにくいですよね。評価に影響するかもしれない、やる気がないと思われるかもしれない。そんな不安があるから、本音を飲み込んでしまう人が出ます。
メンターは、その本音を拾うための存在です。仕事の進め方だけでなく、「この会社でどう成長すればいいのか」「今の悩みは自分だけなのか」といった言語化しにくい迷いを、一緒に整理します。
メンターは指示役ではなく伴走役
メンターの役割を誤解すると、すぐに「教える側と教わる側」の上下関係になってしまいます。でも本来のメンターは、答えを渡す人ではなく、考え方を一緒に整える人です。
たとえばメンティーが「先輩に怒られて落ち込んでいます」と相談してきたとします。このとき、「気にしなくていいよ」で終わらせると支援になりません。何を指摘されたのか、どこに改善余地があるのか、本人は何に傷ついたのかを分けて考える必要があります。
実務では、感情と課題を分けるだけでかなり前に進みます。「怒られたから自分はダメだ」ではなく、「資料の前提確認が足りなかったから、次は提出前に確認項目を作ろう」と置き換えられるからです。
メンターが必要になる場面は新人育成だけではない
メンターは新人向けの制度と思われがちですが、実際には中堅社員や管理職候補にも必要です。特にキャリアの転換点では、直属上司だけでは拾えない悩みが出ます。
たとえば、入社3年目で後輩を持ち始めた社員が、「自分の仕事だけならできるのに、人に教えるとなると急に難しい」と悩むことがあります。この段階でメンターがいると、管理職になる前のつまずきを早めに整理できます。
つまりメンターは、会社に慣れるためだけの仕組みではありません。本人が次の役割へ進むときに、見えない不安を言葉にしていくための支援でもあります。
メンターとメンティーの違いは支援する側と受ける側の役割にある

メンターとメンティーの違いは、簡単に言えば「支援する側」と「支援を受けながら成長する側」です。ただし、メンターが一方的に教え、メンティーが黙って吸収する関係ではありません。
この違いを曖昧にしたまま制度を始めると、かなり高い確率で失敗します。メンター側は「何を話せばいいかわからない」となり、メンティー側は「忙しい先輩に相談していいのかな」と遠慮します。面談日だけ決まっているのに、中身が空っぽになるパターンです。
実務では、最初に役割を明文化しておくことが重要です。言葉にすると堅く見えますが、これをやらないと関係性が個人の性格に依存します。
| 立場 | 主な役割 | やってはいけないこと |
|---|---|---|
| メンター | 相談を受け、経験を共有し、成長を支える | 評価する、命令する、答えを押しつける |
| メンティー | 悩みや課題を共有し、自分で行動に移す | 丸投げする、受け身で待つ、依存する |
| 上司 | 目標管理・業務指示・評価を行う | メンター面談を監視しすぎる |
| 人事 | 制度設計・運用・改善を担う | 面談を現場任せにする |
この表で見てもわかる通り、メンター制度は「優しい先輩をつければ終わり」ではありません。上司、人事、メンター、メンティーの役割がずれると、相談の場が機能しなくなります。
メンティーは受け身でいるだけでは成長しない
メンティーは、相談される側ではなく相談する側です。だからこそ、ただ面談に出るだけでは意味がありません。
たとえば、面談で毎回「特に困っていません」と言ってしまう新人がいます。でも本当は、チャットの返信タイミング、会議での発言、先輩への質問の仕方で迷っている。本人が悩みを出せないままだと、メンターは支援できません。
メンティーには、面談前に小さな困りごとをメモしておく習慣が必要です。「質問するほどではない」と思ったことほど、実は職場適応のヒントになります。
メンターは正解を言うより問いを立てる
メンター側がやりがちな失敗は、自分の成功体験をそのまま押しつけることです。「自分のときはこうした」「それくらい普通だよ」と言うと、メンティーは相談する気をなくします。
大事なのは、まず状況を聞くことです。「どの場面で止まったのか」「誰に何を確認できれば進めたのか」「次に同じことが起きたらどう動けそうか」と問いを立てます。
すると、メンティー自身が自分の課題を言語化できます。メンターが答えを全部持つ必要はありません。むしろ、本人が自分で考える余白を残す方が成長につながります。
メンターの役割は業務指導ではなく不安と判断の整理にある

メンターの役割を「仕事を教える人」とだけ捉えると、OJT担当と混ざります。もちろん業務の相談に乗ることはありますが、メンターの中心はそこではありません。
メンターが支えるべきなのは、メンティーが職場で感じる不安、迷い、孤立感、キャリアの見通しです。特に入社直後や異動直後は、仕事そのものより「この動き方で合っているのか」が不安になります。
ロロメディア編集部でも、若手が「記事の構成案を出す前にどこまで調べればいいのか」で止まる場面があります。本人はサボっているわけではありません。失敗したくないから、確認の基準がわからず手が止まるのです。
メンターが見るべきポイントは成果物より思考の詰まり
メンター面談では、完成した成果物だけを見ても本質は見えません。むしろ見るべきなのは、メンティーがどこで迷い、どの判断に時間を使っているかです。
たとえば、資料作成が遅いメンティーがいたとします。表面的には「作業スピードが遅い」と見えますが、実際には「最初に目的を確認できていない」「完璧に作ってから見せようとしている」「上司の期待値を聞けない」といった原因が隠れていることがあります。
この原因を一緒に分解できるのがメンターです。単に「早く作ろう」と言うのではなく、「最初の10分で完成イメージを確認しよう」「3割段階で一度見せよう」と、行動レベルに落とし込みます。
メンターは職場の翻訳者になる
新しい職場には、言葉にされていないルールがあります。会議でどこまで発言していいのか、チャットはどの粒度で送ればいいのか、報告は事前に必要なのか。こうした暗黙知は、マニュアルだけでは伝わりません。
メンターは、その暗黙知を翻訳する役割を持ちます。「この会社では、完成後に見せるより途中で相談した方が評価されやすいよ」「その上司は結論から聞きたいタイプだよ」といった現場感のある助言です。
これがあるだけで、メンティーの動きはかなり変わります。能力不足ではなく、職場の読み方を知らなかっただけというケースは本当に多いですよ。
メンター制度とOJT・上司・コーチングの違い

メンター制度が失敗する会社では、だいたいOJTや上司面談との違いが曖昧です。名前だけ変えて同じことをやっていると、現場は「また面談が増えた」と感じます。
違いを理解するには、目的を見るのが一番です。OJTは業務遂行のため、上司面談は目標管理や評価のため、コーチングは本人の内省を促すために行われます。メンターは、その中間に立つ存在です。
一番近いのは「相談しやすい先輩」ですが、それだけでは制度として弱い。会社として運用するなら、相談テーマ、頻度、守秘範囲、上司との情報共有ルールを決める必要があります。
OJTとの違いは評価と業務責任の有無
OJTは、実際の仕事を通じて業務スキルを教える育成方法です。たとえば、営業同行、資料レビュー、システム操作の指導などが該当します。
一方、メンターは業務を直接管理しません。メンティーの成果物に責任を持つ立場ではなく、本人が職場で自走できるように支えます。
ここを混同すると、メンターが実質的な上司になってしまいます。「それは違う」「こうやりなさい」と指示ばかりになると、メンティーは本音を話せません。
上司との違いは評価から離れていること
上司は目標設定、業務指示、評価を行う存在です。だからこそ、相談できる範囲に限界があります。
たとえば、「今の部署に向いていないかもしれません」と上司に言うのは勇気がいります。評価や配置に影響するかもしれないからです。
メンターは評価者ではないため、メンティーが本音を出しやすい立場にあります。ただし、ハラスメントや重大なコンプライアンス問題など、守秘だけで抱えてはいけない内容もあります。制度設計時に、どこまで秘密にできるかを必ず決めておく必要があります。
コーチングとの違いは経験共有ができること
コーチングは、問いによって本人の内側から答えを引き出す支援です。メンターにも問いかけは必要ですが、経験共有も重要になります。
メンティーが「上司への報告が怖い」と悩んでいるなら、メンターは自分の失敗談を話しても構いません。「自分も最初は完成してから報告して怒られた。途中共有に変えたらかなり楽になった」という話には、現場ならではの説得力があります。
ただし、経験談は押しつけないことです。「自分はこうだった。あなたの場合はどこが近そう?」と返せるメンターは強いです。
良いメンターに共通する特徴は聞く力と境界線の引き方

良いメンターは、面倒見がいい人とは少し違います。もちろん親身さは必要ですが、それだけだとメンティーを抱え込みすぎます。
実務で信頼されるメンターは、話を聞けるだけでなく、必要な距離を保てます。優しすぎて全部代わりにやってしまう人も、厳しすぎて相談しにくい人も、メンターには向きません。
たとえば、メンティーが毎回「上司に聞くのが怖いので代わりに確認してください」と頼んでくる場合があります。ここで代行し続けると、本人は成長しません。メンターは「一緒に聞き方を考える」まで支援し、実際に聞くのは本人に任せる必要があります。
メンターに必要なスキルは特別な資格より対話力
メンターになるために、必ずしも特別な資格は必要ありません。ただし、最低限の対話スキルは必要です。
具体的には、相手の話を途中で奪わない、感情を否定しない、すぐに自分の話にすり替えない。この3つができるだけで、面談の質は大きく変わります。
メンター研修を行うなら、難しい理論よりもロールプレイが有効です。メンティー役が「仕事がつらいです」と言ったとき、どう返すかを練習する。ここで「みんな最初はそうだよ」と返してしまう人は、現場でも同じことをします。
メンターが抱え込まない仕組みも必要
メンター制度では、メンター自身が疲弊することがあります。相談に乗るほど責任感が強くなり、「自分が何とかしないと」と抱え込んでしまうからです。
これは制度設計の問題でもあります。人事や管理職が、メンターを孤立させない仕組みを作る必要があります。
たとえば、月1回だけメンター同士で振り返りの場を設ける。個人情報は出さずに、「面談で困った対応」「境界線の引き方」「人事にエスカレーションすべきケース」を共有するだけでも、かなり違います。
メンター制度を導入する目的は早期離職防止と自走人材の育成

メンター制度の目的は、仲良しの先輩後輩を作ることではありません。企業側の目的で言えば、早期離職の防止、職場適応の支援、キャリア形成、部署を超えた関係づくりです。
入社直後の社員は、業務内容だけで辞めるわけではありません。「聞ける人がいない」「自分だけ浮いている気がする」「この会社で成長できる未来が見えない」と感じたときに、退職の選択肢が現実味を帯びます。
メンター制度は、その手前でサインを拾う仕組みです。本人が限界になってから面談するのでは遅い。まだ言葉にできる段階で、定期的に話せる関係を作っておくことが重要です。
早期離職を防ぐには相談頻度を最初に高める
メンター面談は、最初の3カ月が特に重要です。入社直後は毎週、慣れてきたら隔週、その後は月1回という形が現実的でしょう。
最初から月1回だけだと、メンティーが悩みを抱えたまま次の面談まで時間が空きます。仕事で詰まった翌週に話せるから、問題が小さいうちに修正できます。
面談時間は長くなくて構いません。最初は30分で十分です。大切なのは、長時間話すことではなく、定期的に接点を持つことです。
自走人材を育てるには答えではなく判断基準を渡す
メンター制度のゴールは、メンティーがメンターなしでも動けるようになることです。つまり、依存させる制度にしてはいけません。
そのためには、答えより判断基準を渡します。「この場合はこうしなさい」ではなく、「迷ったら目的、期限、関係者への影響で考えるといい」と伝える。次に似た状況が来たとき、自分で考えられるようになります。
実務では、この判断基準の共有がかなり効きます。新人が毎回質問しなくても、優先順位をつけられるようになるからです。
メンターとメンティーの関係性を壊す失敗パターン

メンター制度は、設計が甘いと逆効果になります。良かれと思って導入したのに、メンターもメンティーも疲れてしまう会社があります。
よくあるのは、「相談相手をつけたから大丈夫」と会社が安心してしまうパターンです。制度を置くだけで、面談テーマも頻度もフォローも決まっていない。これでは現場任せになります。
関係性が壊れる原因は、だいたい次のどこかにあります。
- メンターが上司の代わりになっている
- メンティーが相談を丸投げしている
- 面談内容が上司に筒抜けになっている
- 相性が悪いのに変更できない
- 人事が制度開始後に放置している
この中でも特に危険なのは、面談内容が上司にそのまま共有されることです。メンティーは一度でも「言ったことが筒抜けになった」と感じると、二度と本音を話さなくなります。
守秘範囲を決めないと安心して相談できない
メンター面談では、何を秘密にして、何を共有するのかを最初に伝える必要があります。これを曖昧にすると、相談の深さが出ません。
たとえば、「仕事がつらい」「人間関係に悩んでいる」「異動したいかもしれない」といった話は、本人の許可なく上司に伝えるべきではありません。一方で、ハラスメント、自傷の恐れ、重大な不正などは、メンターだけで抱えてはいけない内容です。
つまり、守秘とエスカレーションの線引きを制度として決めておく必要があります。「基本は守秘。ただし安全や法令に関わる内容は人事へ相談する」といったルールがあると、メンターもメンティーも安心できます。
相性が悪いときに変更できる逃げ道を用意する
メンターとメンティーにも相性があります。良い悪いではなく、話しやすさや価値観の違いです。
たとえば、じっくり話したいメンティーに対して、結論重視のメンターが「で、何が問題なの?」と返すと、相談しづらくなります。逆に、具体策が欲しいメンティーに対して、共感だけで終わるメンターだと物足りません。
だからこそ、制度には変更ルートが必要です。人事に相談すれば組み合わせを見直せる。これだけで、関係性の詰まりを放置せずに済みます。
メンター制度を成功させる設計手順

メンター制度は、思いつきで始めると続きません。特に中小企業やベンチャーでは、制度より人の熱量で回そうとして、半年後に自然消滅することがあります。
成功させるには、最初に目的を決めることです。新人の定着なのか、女性管理職候補の育成なのか、若手のキャリア支援なのか。目的が違えば、メンターの選び方も面談内容も変わります。
制度設計では、次の順番で進めると現場に落とし込みやすくなります。
- 目的を決める
- 対象者を決める
- メンターを選ぶ
- 面談頻度を決める
- 守秘範囲を決める
- 事前研修を行う
- 振り返りと改善を行う
この順番を飛ばすと、だいたい後で詰まります。特に、目的と守秘範囲は最初に決めてください。
メンター選定は「優秀な社員」だけで決めない
メンターを選ぶとき、つい仕事ができる人を選びたくなります。もちろん業務理解は必要ですが、成果が高い人が必ずしも良いメンターとは限りません。
メンターに向いているのは、自分の経験を相手の状況に合わせて話せる人です。自分の成功体験を絶対視せず、「自分とは違うタイプの成長もある」と受け止められる人が適しています。
逆に、成果は高くても「なぜできないの?」が口癖の人は危険です。メンティーの心理的安全性が下がり、面談が説教の時間になります。
面談テーマは自由すぎても固定しすぎても失敗する
面談テーマを完全に自由にすると、何を話せばいいかわからなくなります。一方で、質問項目を細かく決めすぎると、面談がアンケートの読み上げになります。
おすすめは、最初だけ軽い型を用意することです。たとえば、「最近止まった仕事」「聞きにくかったこと」「次の2週間で試すこと」の3つを毎回確認します。
この3つなら、業務、心理、行動が自然につながります。メンターも話を進めやすく、メンティーも準備しやすいですよ。
メンター面談で使える質問例と進め方

面談は、雑談だけでも堅すぎても機能しません。最初は少し雑談で緊張を下げ、そこから仕事の詰まりや感情を整理していくのが現実的です。
たとえば、面談開始直後に「最近どう?」と聞くだけだと、相手は「大丈夫です」と返しがちです。これでは何も出ません。少し具体的に聞く必要があります。
現場で使いやすい質問は、次のようなものです。
- 今週、手が止まった仕事はありましたか
- 誰に聞けばいいかわからなかった場面はありましたか
- 最近、提出前に不安になった作業はありましたか
- 上司や先輩の反応で気になったことはありますか
- 次に同じ場面が来たら、どう動けそうですか
面談後は小さな行動を1つだけ決める
面談でたくさん話すと、満足感はあります。でも翌日から何も変わらなければ、制度としては弱いです。
だから面談の最後には、必ず小さな行動を1つ決めます。「次回の資料は3割段階で見せる」「わからないことは15分考えたら質問する」「会議前に発言したいことを1つメモする」くらいで十分です。
行動は小さい方が続きます。立派な目標より、明日できることの方がメンティーを助けます。
メンターは面談記録を詳細に残しすぎない
面談記録は必要ですが、詳細に書きすぎると守秘の問題が出ます。特に感情や人間関係の話をそのまま記録すると、メンティーは安心して話せません。
残すなら、「相談テーマ」「次回までの行動」「人事共有が必要な事項」の3つ程度で十分です。本人の言葉を細かく保存するより、支援に必要な情報だけ残しましょう。
記録は制度改善にも使えます。たとえば、複数のメンティーが「質問しづらい」と話しているなら、個人の問題ではなく職場文化の問題かもしれません。
メンター制度が企業にもたらすメリットと注意点

メンター制度のメリットは、メンティーだけにありません。メンター側も、後輩支援を通じて自分の経験を言語化できます。
実はここが大きいです。人に説明するためには、自分がどう判断してきたのかを整理する必要があります。メンター経験は、将来の管理職育成にもつながります。
一方で、制度を雑に始めると負担だけが増えます。通常業務に加えて面談が入り、メンターが評価されないまま支援だけ求められると、不満が出ます。
企業側のメリットは現場の小さな異変を拾えること
上司や人事だけでは、若手の小さな違和感を拾いきれません。メンターがいると、現場で起きているつまずきが早めに見えます。
たとえば、「質問しづらい」「会議についていけない」「上司の指示の意図がわからない」といった声は、退職直前になって初めて表面化することがあります。メンター制度が機能していれば、その前に対処できます。
ただし、メンターを監視役にしてはいけません。メンターはメンティーの味方であり、会社への密告者ではない。この信頼が崩れると制度は終わります。
注意点はメンターの負担を評価に反映すること
メンターの仕事は見えにくいです。成果物があるわけではなく、相談に乗る時間も細切れになりがちです。
だからこそ、会社はメンターの貢献を評価する必要があります。人事評価に直接入れなくても、育成貢献として上司が把握する、表彰する、業務量を調整するなどの対応が必要です。
「善意でお願いします」だけでは続きません。制度としてやるなら、メンターを支える設計まで含めるべきです。
メンターに向いている人と向いていない人

メンターに向いている人は、話がうまい人ではありません。相手の状況を急いで判断せず、まず受け止められる人です。
また、自分の失敗を話せる人も向いています。完璧な先輩より、「自分も最初はできなかった」と言える先輩の方が、メンティーは安心します。
逆に、メンターに向いていないのは、相手の悩みをすぐ軽く見る人です。「それくらい普通」「自分で考えて」と返してしまうと、メンティーは閉じます。
良いメンターは弱さを見せられる
若手にとって、完璧な先輩は少し遠い存在です。もちろん尊敬はされますが、相談相手としては距離ができます。
メンターが「自分も1年目は報告のタイミングが下手で、何度もやり直した」と話すと、メンティーは一気に安心します。失敗しても成長できると思えるからです。
ただし、失敗談を武勇伝にしてはいけません。「昔は徹夜してでもやった」ではなく、「今ならこう改善する」と現在の行動につなげることが大切です。
向いていない人を無理に任命しない
人手不足の会社では、年次が上だからという理由だけでメンターを任せることがあります。これは危険です。
向いていない人に任せると、メンティーが傷つくだけでなく、メンター本人も苦しくなります。制度を成功させたいなら、任命前に本人の意思と適性を確認してください。
メンターは名誉職ではありません。対話と支援の実務です。
メンティーがメンター制度を活用するコツ

メンティー側にも、制度をうまく使うコツがあります。受け身で待っているだけでは、面談は雑談で終わります。
まず、面談前に「今困っていること」を1つだけメモしておきましょう。大きな悩みでなくて構いません。「チャットの返信が遅いと言われそうで不安」「資料をどこまで作ってから見せるべきかわからない」くらいで十分です。
そして面談では、結論を出すより状況を具体的に話すことです。メンターは占い師ではありません。いつ、どこで、誰とのやり取りで、何に困ったのかを話すほど、支援の精度が上がります。
相談は完成してからではなく迷った時点でする
メンティーがやりがちな失敗は、悩みをきれいに整理してから相談しようとすることです。でも実務では、整理できないから困っているわけですよね。
「まだうまく言えないのですが」と前置きして構いません。その段階で相談した方が、手戻りは減ります。
特に提出前に焦ってやり直すタイプの人は、早めの相談が効果的です。メンターには完成品を見せるより、迷っている途中を見せた方が役に立ちます。
メンターに依存しすぎない姿勢も大切
メンターは心強い存在ですが、すべてを決めてもらう相手ではありません。毎回「どうすればいいですか」と聞くだけでは、自分で判断する力が育ちません。
おすすめは、「自分はA案で進めようと思っていますが、見落としがありますか」と相談する形です。これなら、メンターは判断の補助ができます。
相談の目的は、正解をもらうことではありません。自分の考え方を磨くことです。
メンター制度を形だけで終わらせないための運用ポイント

制度は作るより続ける方が難しいです。最初は人事が熱心に説明しても、3カ月後には面談が飛び始める。忙しい現場では、本当に起きます。
形だけで終わらせないためには、運用のリズムを作る必要があります。面談日をカレンダーに入れる、簡単な振り返りを残す、定期的に人事が状況を確認する。この程度でも継続率は変わります。
ただし、管理しすぎると本音が消えます。制度運用は、見守るけれど監視しない。このバランスが大事です。
人事は面談実施率だけで満足しない
面談が実施されているから成功、とは言えません。30分座っていただけで、中身がないこともあります。
見るべきは、メンティーの不安が減っているか、相談先が増えているか、行動が変わっているかです。簡単なアンケートでも構いませんが、「面談は役に立ちましたか」だけでは浅いです。
たとえば、「困ったときに相談できる相手がいると感じるか」「次に取る行動が明確になったか」と聞くと、制度の実効性が見えます。
うまくいった事例を社内で共有する
メンター制度は、効果が見えにくい取り組みです。だからこそ、小さな成功事例を共有すると社内に広がります。
「3割段階で資料を見せるようになり、手戻りが減った」「会議前に発言メモを作るようになった」「上司への相談が早くなった」など、具体的な変化を拾うと説得力があります。
もちろん個人が特定されないように配慮は必要です。制度の価値を伝えるために、匿名化した事例として共有するとよいでしょう。
メンターとは何かを理解すると職場の育成は変わる

メンターとは、単なる先輩社員ではありません。メンティーが職場で迷ったとき、評価から少し離れた場所で、悩みと行動を整理してくれる存在です。
メンターとメンティーの違いは、支援する側と支援を受ける側にあります。ただし、どちらか一方が頑張る関係ではありません。メンターは問いと経験を差し出し、メンティーは自分の課題を持ち込み、行動に変える。その往復で関係性が育ちます。
メンター制度を導入するなら、目的、役割、守秘範囲、面談頻度、メンター支援まで設計してください。優しい先輩をつけるだけでは、制度は続きません。
職場で人が育つ瞬間は、派手ではありません。提出前に相談できた、失敗を言葉にできた、次は自分で聞きに行けた。そういう小さな変化が積み重なって、社員は自走できるようになります。
だからこそメンターは、会社にとっても本人にとっても重要です。人材育成を仕組みとして強くしたいなら、メンター制度はかなり現実的な打ち手になりますよ。















