移動平均法とは?総平均法・先入先出法との違いと実務での使い分けを解説

在庫の評価方法を調べていると、「移動平均法」「総平均法」「先入先出法」という似た言葉が並んでいて、どれを使えばいいのか一気にわかりにくくなりますよね。特に、月末の棚卸表を作る前や、会計ソフトに商品単価を入れるタイミングで「この計算で本当に合っているのか」と手が止まる場面はかなり現実的です。

移動平均法は、商品を仕入れるたびに平均単価を計算し直す在庫評価方法です。仕入価格が毎回変わる商品を扱っている会社では、売上原価や在庫金額を実態に近づけやすい一方、手作業で管理するとミスが出やすい方法でもあります。

会計処理で大事なのは、難しい用語を覚えることではありません。「自社の商品管理に合う方法を選び、毎期同じルールで処理すること」です。ここを間違えると、利益がズレる、在庫金額が合わない、決算前に集計をやり直す、という地味に痛い作業が発生します。

目次

移動平均法とは仕入れのたびに平均単価を更新する在庫評価方法

移動平均法とは仕入れのたびに平均単価を更新する在庫評価方法

移動平均法とは、同じ種類の商品を追加で仕入れるたびに、手元にある在庫の総額と新しく仕入れた金額を合計し、在庫数量で割って新しい平均単価を出す方法です。簡単に言うと、「今ある在庫全体の平均単価を、仕入れのたびに作り直すやり方」になります。

たとえば、最初に商品を100個、1個100円で仕入れたとします。その後、同じ商品を100個、1個120円で仕入れた場合、在庫は合計200個、金額は22,000円です。この時点の平均単価は110円になります。

ここで20個売れた場合、売上原価は「20個×110円」で計算します。昔仕入れた100円の商品が売れたのか、あとから仕入れた120円の商品が売れたのかを細かく追いかけず、全体をならして処理するのが移動平均法の特徴です。

移動平均法の計算式は在庫総額を在庫数量で割るだけ

計算式だけ見ると、移動平均法はそこまで難しくありません。つまずくのは計算式そのものではなく、「どのタイミングで平均単価を更新するか」です。

仕入れが発生したら、その都度、前回までの在庫金額に今回の仕入金額を足します。そして、前回までの在庫数量に今回の仕入数量を足し、合計数量で割ります。

項目計算内容
前回在庫100個 × 100円 = 10,000円
追加仕入100個 × 120円 = 12,000円
合計在庫200個、22,000円
新しい平均単価22,000円 ÷ 200個 = 110円

実務では、この110円を次の出庫や売上原価の計算に使います。その後また130円で仕入れたら、残っている在庫金額と新しい仕入金額を足して、さらに平均単価を更新します。

移動平均法は単価変動がある商品ほど実態に近づきやすい

仕入価格が毎回同じなら、どの評価方法を使っても大きな差は出ません。問題になるのは、為替、原材料価格、仕入先の値上げ、キャンペーン仕入れなどで単価が動く商品です。

たとえば美容商材、アパレル、食品、雑貨、輸入品のように仕入れ単価が変わりやすい商材では、「最後に仕入れた単価だけ」で在庫を評価すると、実際の原価感覚とズレることがあります。移動平均法なら、そのズレをなだらかにできます。

月末に「売れたはずなのに利益率がおかしい」と焦って商品別の仕入履歴を見返すケースがあります。こういうとき、平均単価を都度更新していないと、どの売上にどの原価を当てたのか説明しにくくなります。

移動平均法・総平均法・先入先出法の違いは平均単価を決めるタイミングにある

移動平均法・総平均法・先入先出法の違いは平均単価を決めるタイミングにある

移動平均法、総平均法、先入先出法の違いは、在庫をどう見るかにあります。名前だけ見ると難しく感じますが、実務上は「いつ仕入れた商品が売れたと考えるか」「平均単価をいつ決めるか」の違いです。

経理担当者が月末に困るのは、理論ではなく処理の順番です。売上が先に集計され、仕入伝票が後から届き、在庫数だけ先に確定する。そういう現場では、評価方法の違いを理解していないと、売上原価の計算が後戻りになります。

まずは次の表で、3つの違いを押さえてください。

評価方法単価の決め方向いている会社実務上の注意点
移動平均法仕入れのたびに平均単価を更新仕入単価が変動する会社商品管理システムがないと手間が大きい
総平均法一定期間の総仕入額と総数量で平均単価を計算月次でまとめて処理したい会社期中の利益管理が粗くなりやすい
先入先出法先に仕入れたものから売れたと仮定賞味期限やロット管理が重要な会社価格上昇時は利益が大きく見えやすい

この違いを押さえると、「うちはどれを使うべきか」がかなり見えやすくなります。会計処理だけでなく、在庫管理の実態とセットで考えるのがポイントです。

総平均法は月末や期末にまとめて平均単価を出す方法

総平均法は、一定期間の仕入総額と数量をまとめて平均単価を出す方法です。移動平均法が「仕入れのたびに計算する」のに対して、総平均法は「月末や期末にまとめて計算する」イメージになります。

たとえば1か月間に複数回仕入れた商品がある場合、その月の仕入金額と期首在庫をまとめて、平均単価を出します。日々の仕入れごとに平均単価を更新しないため、手作業でも比較的管理しやすいのが特徴です。

ただし、期中の利益を細かく把握したい会社には少し不向きです。月末にならないと正確な平均単価が確定しにくいため、日次や週次で粗利を見たい小売業、EC、在庫回転の速い事業ではズレが出やすくなります。

先入先出法は古い仕入分から売れたと考える方法

先入先出法は、先に仕入れた商品から順番に売れたと仮定して売上原価を計算する方法です。英語ではFIFOと呼ばれます。FIFOは「First In, First Out」の略で、先に入ったものを先に出すという意味です。

食品や医薬品、期限管理が必要な商品では、現場の動きと相性がいい方法です。実際の倉庫でも、古いロットから出庫する運用をしているなら、会計上の考え方ともズレにくくなります。

ただし、仕入価格が上がっている時期は、古い安い単価が先に売上原価へ入るため、利益が大きく見えやすくなります。逆に仕入価格が下がっている時期は、古い高い単価が原価になるため、利益が低く見えることがあります。

移動平均法は価格変動をならして売上原価を安定させやすい

移動平均法は、仕入れのたびに平均単価を更新するため、急な価格変動の影響を一気に受けにくくなります。先入先出法のように「古い単価がそのまま原価に出る」のではなく、在庫全体の平均として処理するからです。

ロロメディア編集部で在庫管理の相談を受けると、「売上は伸びているのに粗利率が毎月ブレる」という悩みが出ることがあります。原因を追うと、仕入単価の変動が粗利にそのまま反映され、現場が判断しづらくなっているケースがあります。

移動平均法を使うと、単価変動をある程度ならせます。毎月の利益管理を安定させたい会社にとっては、かなり実務向きの方法です。

移動平均法の計算例を商品有高帳の流れで理解する

移動平均法の計算例を商品有高帳の流れで理解する

移動平均法は、文章だけで理解しようとするとややこしくなります。商品有高帳のように、入庫、出庫、残高を順番に見た方が一気にわかりやすくなります。

月末に在庫表を作っていると、「売れた数量はわかるけど、単価をいくらにすればいいのか」で止まることがありますよね。ここで移動平均法の流れを知っておくと、どのタイミングで単価を変えるべきか迷いにくくなります。

次の例で見てみましょう。

日付取引数量単価金額残数量残高平均単価
4月1日仕入100個100円10,000円100個10,000円100円
4月10日仕入50個130円6,500円150個16,500円110円
4月15日売上60個110円6,600円90個9,900円110円
4月20日仕入100個140円14,000円190個23,900円125.79円
4月25日売上80個125.79円10,063円110個13,837円125.79円

4月10日に仕入れた時点で、在庫全体の平均単価は110円になります。4月15日に売れた60個は、この110円を使って売上原価を計算します。

4月20日にまた仕入れが発生したため、平均単価を再計算します。ここで新しい平均単価は約125.79円になり、4月25日の売上原価に使われます。

売上が発生しても平均単価は変えない

移動平均法で初心者がつまずきやすいのが、売上や出庫のたびに平均単価を変えようとしてしまう点です。平均単価を更新するのは、基本的に仕入れや入庫があったタイミングです。

売上が発生したときは、その時点で決まっている平均単価を使って売上原価を計算します。売れたことで残数量と残高は減りますが、平均単価そのものは変わりません。

ここを間違えると、後続の在庫単価が少しずつズレます。月末に在庫金額が合わず、1円単位の差を追いかける作業になりがちなので、最初にルールを固定しておくのが大切です。

端数処理は社内ルールを決めて毎回同じにする

移動平均法では、小数点以下の単価が出ることがあります。先ほどの例でも、平均単価は125.789…円のように割り切れません。

このとき、毎回なんとなく四捨五入したり、担当者によって切り捨てにしたりすると、決算時に差額が出ます。金額が小さいうちは気にならなくても、商品数が増えるとズレは積み上がります。

実務では、会計ソフトや販売管理システムの端数処理に合わせるのが現実的です。社内で「単価は小数第2位まで」「金額は円未満四捨五入」などのルールを決め、棚卸表にも同じ処理を使ってください。

移動平均法のメリットは利益と在庫金額を安定させやすいこと

移動平均法のメリットは利益と在庫金額を安定させやすいこと

移動平均法の一番のメリットは、仕入価格の変動を平均化できることです。単価が急に上がったり下がったりしても、売上原価に一気に反映されにくくなります。

たとえば輸入品を扱っている会社では、為替の影響で仕入単価が変わります。前月は100円で仕入れた商品が、今月は120円、来月は115円になることもあるでしょう。このとき移動平均法を使うと、原価の動きがなだらかになります。

経営者目線では、粗利率の変動が読みやすくなります。現場目線では、商品ごとの利益が極端にブレにくくなるため、値付けや仕入判断がしやすくなります。

仕入価格が変わる商品の粗利管理に向いている

小売業やECでは、同じ商品でも仕入時期によって単価が変わることがあります。セール仕入れ、まとめ買い割引、送料込み単価の変動など、実務ではかなり細かい要因が絡みます。

移動平均法なら、複数の仕入単価を在庫全体でならして管理できます。結果として、「たまたま安く仕入れた商品だけ利益が高く見える」「高く仕入れたロットだけ赤字に見える」といったブレを抑えられます。

特に、SKU(商品管理単位)が多い事業では有効です。SKUとは、色やサイズまで分けた商品単位のことです。Tシャツなら、白のMサイズと黒のLサイズは別SKUとして管理されることがあります。

月次決算で在庫評価を説明しやすい

月次決算で経営数字を見る会社にとって、在庫評価の説明しやすさは重要です。売上が増えているのに利益が減ったとき、「仕入単価が上がったからです」と説明できるかどうかで、経営判断の質が変わります。

移動平均法では、仕入れのたびに単価が更新されるため、在庫金額と売上原価の関係が追いやすくなります。会計ソフトや販売管理システムに履歴が残っていれば、単価変動の理由も確認しやすいでしょう。

逆に、Excelだけで属人的に管理している場合は注意が必要です。担当者が変わった瞬間に計算ルールが崩れることがあるため、テンプレート化しておく必要があります。

移動平均法のデメリットは手作業だとミスが増えやすいこと

移動平均法のデメリットは手作業だとミスが増えやすいこと

移動平均法は便利ですが、手作業との相性はあまり良くありません。仕入れのたびに平均単価を更新する必要があるため、取引件数が増えるほど入力ミスや計算漏れが起きやすくなります。

月末にまとめて伝票を入力している会社だと、「本当は4月10日に仕入れた商品なのに、4月20日の売上より後に入力してしまった」ということが起きます。こうなると、売上原価に使うべき平均単価が変わってしまいます。

経理担当者としてはかなり焦る場面です。提出前の試算表で粗利率が急に変わり、在庫表を見直したら入力順が原因だった、というケースは実務では十分ありえます。

取引順序を間違えると平均単価がズレる

移動平均法では、仕入れと売上の順序が重要です。4月10日の仕入れを4月20日扱いで入力してしまうと、4月15日の売上原価に反映されるべき単価が変わります。

総平均法なら期間全体で平均するため、入力順の影響は比較的小さくなります。しかし移動平均法は都度更新する方法なので、日付順の管理が命です。

販売管理ソフトを使う場合も、伝票日付と入力日付を混同しないようにしてください。会計処理では「いつ入力したか」ではなく「いつ取引が発生したか」が基準になります。

商品数が多い会社はシステム管理がほぼ必須になる

商品数が少なければExcelでも対応できます。ただ、商品数が100点、500点、1,000点と増えると、移動平均法を手作業で回すのはかなり厳しくなります。

在庫数、入庫数、出庫数、返品、値引き、廃棄、サンプル出庫まで含めると、平均単価の更新タイミングが一気に増えます。現場で商品が動くたびに正確な記録が残らないと、月末に数字が合いません。

移動平均法を採用するなら、販売管理システム、在庫管理システム、会計ソフトの連携を前提にした方が安全です。最初から完璧なシステムを入れる必要はありませんが、少なくとも商品別の入出庫履歴が追える状態にはしておきたいところです。

移動平均法が向いている会社と向いていない会社

移動平均法が向いている会社と向いていない会社

移動平均法は万能ではありません。向いている会社もあれば、総平均法や先入先出法の方が扱いやすい会社もあります。

選び方を間違えると、会計処理そのものは正しくても、現場の運用が追いつかなくなります。制度上使える方法かどうかだけでなく、「自社で継続できるか」を見てください。

会社の状況おすすめの評価方法理由
仕入単価が頻繁に変わる移動平均法価格変動をならしやすい
月末にまとめて処理したい総平均法計算作業を簡略化しやすい
賞味期限やロット管理が重要先入先出法現場の出庫ルールと合いやすい
高額商品を個別管理している個別法商品ごとの原価を追いやすい
小規模で在庫点数が少ない総平均法または最終仕入原価法運用負担が軽い

この表だけで決めるのではなく、現場の管理レベルも見て判断してください。どれだけ理論的に良い方法でも、入力が続かない方法は実務では崩れます。

移動平均法が向いているのは仕入価格がよく変わる会社

移動平均法が向いているのは、仕入価格が動きやすく、なおかつ商品別の在庫管理をある程度きちんと行っている会社です。輸入商材、原材料価格に左右される商品、仕入先によって単価が変わる商品を扱う会社では相性が良いでしょう。

たとえばECで同じ商品を複数の仕入先から買っている場合、A社からは1,000円、B社からは1,080円、急ぎの仕入れでは1,150円になることがあります。このとき、移動平均法なら在庫全体の平均単価で管理できます。

商品ごとの利益を見たい会社にも向いています。販売価格を決めるときに「今の平均原価はいくらか」を見られるため、値下げ判断やキャンペーン設計もしやすくなります。

移動平均法が向いていないのは手入力中心の会社

一方で、仕入伝票を月末にまとめて入力している会社や、在庫数を紙で管理している会社には不向きです。移動平均法は処理順序が重要なので、リアルタイムに近い記録がないと精度が落ちます。

「今月分の納品書をまとめて経理に渡す」という運用だと、どの売上の前にどの仕入れがあったのか判断しづらくなります。結果として、移動平均法を採用しているつもりでも、実際は月末にまとめて平均しているだけ、という状態になりがちです。

その場合は、総平均法の方が現実的かもしれません。会計は正確性も大切ですが、継続できる運用であることも同じくらい重要です。

総平均法が向いているケースは月末処理をシンプルにしたい場合

総平均法が向いているケースは月末処理をシンプルにしたい場合

総平均法は、毎回の仕入れごとに単価を更新しないため、実務負担を抑えやすい方法です。月次で在庫をまとめて評価したい会社や、商品点数はあるけれど日々の粗利管理までは求めていない会社に向いています。

月末に経理担当者が一気に仕入データと在庫数量を集計する会社では、総平均法の方が処理しやすいでしょう。移動平均法に比べて、取引順序による計算ミスが出にくいのもメリットです。

ただし、仕入単価が大きく変動する商品では、期中の利益感覚と月末の数字がズレることがあります。日々の粗利を見て販売戦略を変える会社では、少し遅れて数字が見える点に注意してください。

総平均法は小規模事業者や月次処理中心の会社に合いやすい

総平均法は、管理をシンプルにしたい会社に向いています。毎日の売上原価を厳密に出さなくてもよく、月末にまとめて在庫評価をすれば十分という場合には扱いやすい方法です。

たとえば小規模な小売店で、月末に棚卸を行い、会計事務所にデータを渡す運用なら、総平均法の方が現場に合うことがあります。無理に移動平均法を使って毎回単価を更新しようとすると、かえってミスが増えるかもしれません。

実務では「精密な方法=良い方法」とは限りません。自社の経理体制、商品数、入力頻度に合っているかを見て選ぶことが大切です。

先入先出法が向いているケースは古い在庫から売る管理をしている場合

先入先出法が向いているケースは古い在庫から売る管理をしている場合

先入先出法は、古い在庫から順番に売れたと考える方法です。実際の物流や倉庫管理でも、古い商品から出すルールを採用している会社は多いでしょう。

食品、化粧品、医薬品、賞味期限や使用期限がある商品では、先入先出法が現場感覚に合いやすくなります。古いロットを先に販売する運用なら、会計上もその流れに近い処理ができます。

ただ、価格変動が大きい時期には、売上原価と利益の見え方に注意が必要です。仕入価格が上がっているときは、古い安い在庫が先に原価化されるため、利益が実態より良く見える場面があります。

先入先出法は在庫の鮮度管理と相性が良い

先入先出法の強みは、現場の出庫ルールと合わせやすいことです。倉庫で「古いロットから出す」と決めているなら、会計処理もその前提にした方が説明しやすくなります。

たとえば食品を扱う店舗で、新しい商品を手前に並べてしまうと古い在庫が残ります。販売期限が近づいて値引きや廃棄になると、利益にも影響します。先入先出の考え方は、会計だけでなく現場改善にもつながります。

会計処理と現場管理がバラバラだと、数字を見ても原因がわかりません。先入先出法を使うなら、倉庫や店頭の陳列ルールまでセットで整えるのが実務的です。

移動平均法を選ぶ前に確認すべき実務チェックポイント

移動平均法を選ぶ前に確認すべき実務チェックポイント

移動平均法を採用する前に、まず確認してほしいのは「計算できるか」ではなく「運用し続けられるか」です。最初の1か月だけ頑張っても、3か月後に入力が崩れるなら意味がありません。

決算前に在庫評価を見直すタイミングで、担当者が焦って評価方法を調べるケースがあります。ここで勢いで移動平均法を選ぶと、翌期から現場が追いつかず、結局やり直しになることもあります。

最低限、次の項目は確認してください。

  • 商品別に入庫日と出庫日を管理できるか
  • 仕入単価を商品ごとに記録できるか
  • 返品や値引きの処理ルールがあるか
  • 会計ソフトや在庫管理ソフトが移動平均法に対応しているか
  • 担当者が変わっても同じ方法で処理できるか

このチェックで2つ以上「できていない」がある場合、移動平均法を採用する前に管理体制を整えた方が安全です。評価方法だけ先に決めても、入力ルールがなければ数字は安定しません。

会計ソフトの設定と税務上の届出を確認する

棚卸資産の評価方法は、会社が自由に毎年変えてよいものではありません。税務上、評価方法を選定する場合には届出が関係します。国税庁の資料でも、棚卸資産の評価方法の届出書が用意されています。

実務では、まず顧問税理士や会計事務所に「現在の評価方法は何になっているか」を確認してください。過去の申告書や届出書を見ないまま、会計ソフト上だけで評価方法を変えるのは危険です。

会計ソフトの設定も見落としやすい部分です。商品管理側は移動平均、会計側は別の方法になっていると、在庫金額が合わなくなります。販売管理ソフト、在庫管理ソフト、会計ソフトの評価方法をそろえることが大切です。

返品・値引き・廃棄の処理ルールを決めておく

通常の仕入れと売上だけなら、移動平均法はそこまで複雑ではありません。難しくなるのは、返品、仕入値引き、販売値引き、廃棄、サンプル出庫が出てきたときです。

たとえば仕入先から後日値引きが入った場合、すでに売れた分の原価を修正するのか、残っている在庫単価に反映するのか、処理ルールが必要になります。会計ソフトによって処理方法が異なるため、自己判断で動かすと後で修正が大変です。

廃棄やサンプル出庫も同じです。売上がない出庫をどう扱うか決めていないと、在庫数だけ減って金額が合わなくなります。実務では、通常販売以外の動きを一覧にして、処理方法を先に決めておくと安心です。

移動平均法をExcelで管理する場合の作り方

移動平均法をExcelで管理する場合の作り方

小規模な会社では、最初から高額な在庫管理システムを入れられないこともあります。その場合、Excelで移動平均法を管理することも可能です。

ただし、Excel管理で怖いのは、式が壊れることです。月末に提出する直前、誰かが行を追加して数式範囲がズレ、売上原価が変わってしまう。こういう失敗は、本当に現場の空気が重くなります。

Excelで管理するなら、最低限、次の列を作ってください。

列名入力内容
日付取引発生日
区分仕入、売上、返品、廃棄など
入庫数仕入や返品入庫の数量
入庫単価仕入単価
入庫金額入庫数×入庫単価
出庫数売上や廃棄の数量
出庫単価その時点の平均単価
出庫金額出庫数×出庫単価
残数量前回残数量+入庫数−出庫数
残高前回残高+入庫金額−出庫金額
平均単価残高÷残数量

この形にしておくと、移動平均法の流れが見えやすくなります。大切なのは、商品ごとにシートを分けるか、商品コードで絞り込めるようにすることです。

Excelでは日付順と商品コードの管理を徹底する

Excelで移動平均法を使うなら、日付順の並び替えが必須です。入力した順番ではなく、取引が発生した順番で計算しなければなりません。

商品コードも必ず使ってください。商品名だけで管理すると、表記ゆれが起きます。「化粧水A」「化粧水 A」「化粧水A 150ml」のように名前が分かれると、同じ商品なのに別商品として集計されることがあります。

商品コードは地味ですが、在庫管理の土台です。後から修正するほど大変になるので、最初にルール化しておきましょう。

移動平均法と総平均法のどちらを選ぶべきか

移動平均法と総平均法のどちらを選ぶべきか

迷ったときは、日々の粗利を見たいなら移動平均法、月末処理を簡単にしたいなら総平均法、と考えると判断しやすくなります。

たとえばECで毎日広告を回している会社なら、商品別の粗利を早く見たいはずです。広告費をかけて売っている商品が、本当に利益を出しているのかを確認する必要があります。この場合、移動平均法の方が管理しやすいでしょう。

一方、商品数が少なく、月末にまとめて売上原価を把握できれば十分な会社なら、総平均法でも問題ないケースがあります。無理に細かい方法を選ぶより、ミスなく続く方法を選んだ方が結果的に正確です。

迷ったら業務フローから逆算して決める

評価方法は会計の話に見えますが、実際は業務フローの話です。仕入れた日に記録できるのか、売れた日に出庫処理できるのか、返品を誰が入力するのか。ここが決まっていないと、どの方法も崩れます。

ロロメディア編集部で業務改善の相談を受けると、在庫評価の問題に見えて、実は「入力担当が決まっていない」「商品コードがない」「月末だけ経理が頑張っている」という原因が隠れていることがあります。

まずは、現場の流れを書き出してください。仕入れ、検品、入庫、販売、出庫、返品、棚卸。この流れの中で、どのタイミングで誰がデータを入れるのか決めると、自社に合う評価方法が見えてきます。

移動平均法を実務で使うときのよくあるミス

移動平均法を実務で使うときのよくあるミス

移動平均法で多いミスは、計算式のミスよりも運用ミスです。特に、仕入れの入力漏れ、返品処理の漏れ、出庫日付のズレが原因になりやすいです。

月末に在庫数は合っているのに金額が合わない場合、数量だけ見ても原因は見つかりません。平均単価がどの時点で変わったのかを追う必要があります。

よくあるミスは次の通りです。

  • 仕入日ではなく入力日で処理している
  • 売上返品を入庫として反映していない
  • 仕入値引きを在庫単価に反映していない
  • 廃棄を売上出庫と同じ処理にしている
  • 商品名の表記ゆれで別商品扱いになっている

この中で特に危険なのは、仕入日と入力日のズレです。移動平均法は時系列の計算なので、日付がズレるとその後の単価が変わります。

棚卸差異が出たら数量差と単価差を分けて見る

棚卸差異が出たとき、いきなり全データを見直すと時間が溶けます。まずは数量差なのか、単価差なのかを分けてください。

数量差なら、入出庫漏れ、返品漏れ、廃棄漏れ、盗難、カウントミスが原因になりやすいです。単価差なら、仕入単価、端数処理、入力日付、値引き処理を確認します。

この切り分けをしないと、提出前に全員で在庫表を見直すことになります。焦って修正すると別のミスも生まれるので、差異チェックの順番を決めておくのが実務ではかなり大事です。

移動平均法は一度決めたら継続して使うことが重要

移動平均法は一度決めたら継続して使うことが重要

棚卸資産の評価方法は、利益に影響します。そのため、会社の都合で毎年コロコロ変えるものではありません。税務上も、評価方法の選定や変更には手続きが関係します。

たとえば、今年は利益を抑えたいからこの方法、来年は利益を大きく見せたいから別の方法、という使い方はできません。評価方法は継続適用が前提です。

国税庁の法人税基本通達でも、棚卸資産の評価方法として原価法に関する考え方が示されています。実務では、税務上認められる方法か、届出状況はどうかを確認しながら進める必要があります。

変更したい場合は税理士に相談してから動く

すでに総平均法や最終仕入原価法で処理している会社が、途中から移動平均法に変えたい場合は、自己判断で変更しないでください。過去の届出状況や申告内容との整合性を確認する必要があります。

会計ソフトの設定だけ変えると、社内の数字は変わります。しかし税務上の評価方法とズレていれば、決算時に修正が必要になります。

変更を検討するなら、「なぜ変更するのか」「いつから変更するのか」「システムは対応できるのか」「過年度との比較にどう影響するのか」を整理してから、顧問税理士に相談するのが安全です。

移動平均法の使い分けで迷ったときの実務判断

移動平均法の使い分けで迷ったときの実務判断

最後に、実務で迷ったときの判断軸をまとめます。移動平均法が良さそうに見えても、会社によっては総平均法の方が合うことがあります。

判断のポイントは、正確さ、運用負担、説明しやすさの3つです。数字を細かく出せても現場が入力できなければ意味がありません。逆に、簡単すぎて実態とズレるなら、経営判断には使いにくくなります。

判断軸移動平均法が合う場合総平均法が合う場合先入先出法が合う場合
仕入単価頻繁に変わるそこまで変わらないロットごとに管理したい
管理体制システム管理できる月末集計中心期限管理が必要
粗利管理日次・週次で見たい月次で十分在庫の古さを重視
現場負担入力ルールを守れる簡単に処理したい倉庫運用と合わせたい

移動平均法は、単価変動のある商品を扱い、在庫管理の仕組みがある会社に向いています。総平均法は、処理をシンプルにしたい会社に向いています。先入先出法は、古い在庫から出す実務がある会社に合います。

ここを整理すると、「なんとなく移動平均法が正確そうだから選ぶ」という危ない判断を避けられます。

移動平均法とは在庫管理と利益管理をつなぐための評価方法

移動平均法とは在庫管理と利益管理をつなぐための評価方法

移動平均法は、仕入れのたびに平均単価を更新し、売上原価と在庫金額を計算する方法です。仕入価格が変わりやすい商品を扱う会社では、利益を安定して把握しやすい評価方法になります。

ただし、手作業で管理するには負担が大きく、取引日付や仕入単価の入力ミスがあると平均単価がズレます。商品数が多い会社では、在庫管理システムや販売管理ソフトとの連携を前提に考えた方が安全です。

総平均法は月末にまとめて処理したい会社向き、先入先出法は古い在庫から出す運用と相性が良い方法です。どれが一番優れているかではなく、自社の業務フローに合う方法を選ぶことが重要になります。

決算前に慌てて評価方法を調べるより、普段の仕入れ、売上、返品、廃棄の流れを見直す方が近道です。在庫評価は経理だけの作業ではなく、現場の管理精度そのものが数字に出る部分ですよ。

参考記事

今週のベストバイ

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