社長が同じで別会社を運営すること自体は、ただちに違法ではありません。実際、事業ごとに会社を分けたり、親会社と子会社を持ったり、別ブランドで法人を運営したりするケースは普通にあります。
ただし、問題は「社長が同じこと」ではなく、「会社のお金・取引先・人材・利益をどのように扱っているか」です。片方の会社のお金をもう片方へ理由なく移す、片方の会社の顧客を別会社へ流す、契約書なしで業務委託費を払う。こうなると、税務・会社法・株主対応・金融機関対応で一気に危なくなります。
社長が同じで別会社を運営すること自体は違法ではない

まず結論から言うと、同じ人が複数の会社の社長になること自体は違法ではありません。会社を複数持つことも、代表取締役を兼任することも、それだけで法律違反になるわけではないです。
ただし、会社はそれぞれ別人格です。社長が同じでも、A社のお金はA社のお金で、B社のお金はB社のお金です。ここを混同すると、実務上のトラブルが起きます。
ロロメディア編集部でも、中小企業や個人事業主の相談文を見ていると、「同じ社長だから会社間で自由に動かしてよい」と考えてしまうケースがあります。気持ちはわかります。自分が作った会社同士なので、財布も同じように見えるんですよね。でも、法人を分けた瞬間から、会計も契約も責任も分けて考える必要があります。
社長兼任が問題になるのは会社間で取引が発生したとき
社長がA社とB社の代表を兼任しているだけなら、大きな問題にならないことも多いです。危ないのは、A社とB社の間でお金や仕事が動いた瞬間です。
たとえば、A社がB社に業務委託費を払う、B社がA社に資金を貸す、A社の社員がB社の仕事を手伝う、A社の取引先をB社で受ける。こうなると、社長はA社側の責任者でもあり、B社側の責任者でもある状態になります。
会社法では、取締役が会社と取引をする場合や、会社の事業と競合する取引をする場合には、重要な事実を開示して承認を受ける必要があるとされています。特に株式会社では、競業取引や利益相反取引が問題になります。
「同じ社長だから大丈夫」が一番危ない考え方
同じ社長だからこそ、外部から見るとチェックが厳しくなります。なぜなら、価格や条件を自由に決められる関係だからです。
たとえば、A社がB社に相場より高い業務委託費を払ったとします。A社には利益が残らず、B社にだけ利益が移ります。このとき、A社の株主、債権者、金融機関、税務署から見れば、「なぜその金額なのか」を確認したくなるのは自然です。
別会社への資金移動で問題になるパターン

社長が同じ別会社運営で一番トラブルになりやすいのが資金移動です。急ぎの支払いがあり、A社の口座に残高が足りない。そこでB社から送金して、とりあえず乗り切る。実務では起きがちな場面です。
ただ、銀行振込は証拠として残ります。あとから会計処理をするときに、「これは何のお金ですか」と聞かれて答えられないと、かなり苦しくなります。
会社間送金は貸付金・業務委託費・配当・寄附で意味が変わる
同じ100万円の送金でも、意味によって処理がまったく変わります。貸しただけなら貸付金です。仕事の対価なら業務委託費です。出資者への利益分配なら配当です。理由なく渡したなら寄附金に近い扱いになる可能性があります。
ここを曖昧にしたまま振り込むと、後で税理士に資料を渡したときに止まります。「この100万円、契約書ありますか」「請求書ありますか」「返済予定はありますか」と確認されるからです。月末の決算前にこれが出ると、かなり焦ります。
| 資金移動の形 | 実務上必要になるもの |
|---|---|
| 貸付 | 金銭消費貸借契約書、利息条件、返済予定 |
| 業務委託費 | 業務委託契約書、請求書、成果物 |
| 立替精算 | 領収書、立替明細、精算書 |
| 配当 | 株主構成、決議、配当処理 |
| 寄附に近い移動 | 税務上の検討、損金算入可否の確認 |
この表の中で、実務上よくあるのは貸付と業務委託費です。どちらにするかは、実態で決めます。仕事をしていないのに業務委託費にする、返す予定がないのに貸付にする。こういう処理は後で説明が崩れます。
無利息の会社間貸付は税務上の説明が必要になる
A社からB社へお金を貸すこと自体は可能です。ただし、会社間で貸付をするなら、利息や返済条件を決めるのが基本です。
「社長が同じだから無利息でいいだろう」と考えたくなりますが、税務では経済合理性が見られます。なぜ無利息なのか、返済見込みはあるのか、貸した会社に不利益はないのか。この説明が必要です。
特に片方の会社に少数株主がいる場合は注意してください。A社の資金をB社に無利息で貸し続けると、A社側の株主から「A社に不利益ではないか」と見られる可能性があります。社長本人はグループ全体で考えていても、法人単位では利益が分かれます。
契約書なしの業務委託費は否認リスクが高くなる
A社がB社に毎月30万円を払っている。でも契約書がない。請求書はあるけれど、何をしたかの成果物がない。こういう状態は危険です。
業務委託費として処理するなら、最低限「何を、いつまでに、いくらで、誰が担当するか」を残す必要があります。Web制作なら納品ページ、コンサルならレポート、営業支援なら商談記録など、対価に見合う実態を残してください。
利益相反が起きるケースと承認手続きの考え方

社長が同じ別会社運営で避けて通れないのが利益相反です。利益相反とは、一方の会社の利益と、社長本人または別会社の利益がぶつかる状態のことです。
たとえば、A社の社長がB社の社長でもある状態で、A社がB社に仕事を発注する。A社としては安く発注したい。B社としては高く受けたい。どちらの立場で判断しているのか、外から見るとわかりにくくなります。
A社とB社が取引するときは社長の立場がぶつかる
実務で一番多いのは、同じ社長の会社同士で業務委託契約を結ぶケースです。A社が営業を取り、B社が制作を担当する。A社が管理業務をして、B社から管理費を受け取る。こういう形は珍しくありません。
ただし、社長が両方の代表で契約書に署名する場合、「双方代理」のような形に見えます。つまり、売る側と買う側を同じ人が代表している状態です。だからこそ、承認や記録が重要になります。
会社法356条では、取締役が会社と取引をする場合や、会社と取締役の利益が相反する取引をする場合、重要な事実を開示して承認を受ける必要があります。取締役会設置会社では取締役会、非設置会社では株主総会の承認が実務上の論点になります。
一人会社でも議事録を残したほうがよい
「うちは自分一人の会社だから承認も何もない」と思うかもしれません。たしかに、株主も取締役も自分だけなら、外部株主との対立は起きにくいです。
それでも、会社間取引の記録は残したほうがいいです。理由は、税務調査、金融機関審査、M&A、補助金申請、将来の株主加入などで後から見られるからです。
利益相反取引では価格の妥当性が見られる
利益相反取引で一番見られるのは価格です。相場より高すぎないか、安すぎないか。会社に不利益がないか。ここが説明できないと厳しくなります。
たとえば、B社に月額50万円の管理費を払うなら、何を管理しているのかを書き出してください。経理、採用、広告運用、顧客対応、システム保守など、業務内容を分解します。そのうえで、外部に頼んだ場合の相場と比較します。
競業取引に注意が必要なケース

別会社を作る理由の中には、「新しい事業を始めたい」「既存会社とは別ブランドでやりたい」というものがあります。これは自然な経営判断です。
ただし、既存会社と同じ事業を別会社で行う場合は、競業取引に注意が必要です。競業取引とは、会社の事業と競合する取引を、取締役が自分または第三者のために行うことです。
既存会社の顧客を別会社で受けると危ない
たとえば、A社でWeb制作をしている社長が、新しくB社を作って同じWeb制作を始めたとします。A社の問い合わせをB社で受ける。A社の社員にB社案件を手伝わせる。A社の過去顧客にB社名義で営業する。
これはかなり危ないです。A社の機会をB社へ移しているように見えるからです。
特にA社に他の株主がいる場合、説明が難しくなります。「本来A社が得るべき売上を、なぜB社で受けたのか」と聞かれたら、明確な理由が必要です。ブランド分け、許認可、契約条件、事業領域の違いなどが説明できないと、利益移転に見られる可能性があります。
事業領域を分けるならルールを文章化する
別会社運営で競業リスクを下げるには、事業領域を分けて文章化することです。頭の中で「なんとなくA社は法人向け、B社は個人向け」と思っていても、記録がなければ後から揉めます。
たとえば、A社は法人向けSEOコンサル、B社は自社メディア運営。A社は受託事業、B社はSaaS事業。A社は国内向け、B社は海外向け。このように、顧客層・商品・契約形態・販売チャネルのどれかで線引きします。
そのうえで、問い合わせが来たときの振り分け基準も作ります。どちらの会社で受けるのかを毎回社長の気分で決めると、利益操作に見えます。基準があれば、外部にも説明しやすいです。
社長兼任で役員報酬を受け取るときの注意点

別会社を運営していると、役員報酬の設計も問題になります。A社から月30万円、B社から月20万円を受け取る。これ自体はあり得ますが、それぞれの会社で役員としての実態が必要です。
実務で危ないのは、利益の出ている会社からだけ多く取る、赤字会社では無報酬にする、期中で都合よく金額を変えるといった処理です。役員報酬は税務上のルールが強いので、軽く扱うと損金算入で問題になります。
役員報酬は働いた実態と金額の説明が必要
社長が複数会社から役員報酬を受けるなら、それぞれで何をしているかを説明できるようにします。A社では営業と経営管理、B社では商品企画と資金調達。こういう役割の違いがあると自然です。
逆に、B社ではほとんど稼働していないのに高額報酬だけ受け取っていると、説明が弱くなります。もちろん、代表者としての責任や意思決定も業務です。ただし、金額に見合う合理性は見られます。
国税庁は、役員に対する経済的利益や役員給与に関する扱いを公表しています。会社から役員へ経済的利益が移る場面では、給与として扱われる可能性がある点も押さえておく必要があります。
会社間で社長の人件費を負担させるなら契約が必要
A社の社長がB社の業務も行っている場合、A社がB社に管理業務を提供している形にすることがあります。この場合、A社からB社へ管理料を請求する設計も考えられます。
ただし、これも契約なしでは危険です。管理業務委託契約を作り、対象業務、月額、支払い条件、業務範囲を決めます。社長の稼働をそのまま請求するというより、会社として提供する管理サービスとして整理したほうが説明しやすいです。
「社長が忙しいから、なんとなくB社にも負担してもらう」は避けてください。気持ちはわかりますが、会計上は理由のある支出にする必要があります。
別会社間で社員や備品を使い回すときの注意点

社長が同じ会社同士では、人や備品の使い回しも起きます。A社の社員がB社の請求書を作る。A社で契約したソフトをB社でも使う。A社のオフィスにB社のメンバーもいる。現場ではかなり自然に起きます。
ただ、これも放置すると問題になります。誰の人件費なのか、どちらの経費なのか、どの会社の業務なのかが曖昧になるからです。
社員が別会社の仕事をするなら業務委託か出向で整理する
A社の社員がB社の仕事をする場合、まず労務と会計の両方で整理が必要です。単発の手伝いなら業務委託費や社内管理料で処理することもありますが、継続的にB社業務をしているなら、出向や兼務の設計も検討します。
ここで危ないのは、A社が人件費を払っているのに、成果だけB社が受け取っている状態です。A社に不利益が出ますし、B社側では本来負担すべきコストを負担していないように見えます。
オフィス・PC・ソフトの共用は負担割合を決める
オフィスやPC、会計ソフト、チャットツール、撮影機材なども注意が必要です。A社名義で契約しているものをB社が使うなら、B社が費用を負担する根拠を作ります。
たとえば、家賃は使用面積や人数比で按分します。ソフトは利用アカウント数で分けます。PCや機材は貸与契約や利用ルールを作るとよいでしょう。
別会社同士の取引で税務調査に備えるポイント

税務調査で見られやすいのは、「利益をどちらかの会社へ不自然に寄せていないか」です。特に、片方が黒字で片方が赤字の場合、会社間取引の価格や必要性が確認されやすくなります。
社長としてはグループ全体を見ているつもりでも、税務は法人ごとに見ます。A社の利益をB社へ移せば、A社の税額が変わります。だからこそ、会社間取引は第三者同士でも成立する条件に近づける必要があります。
相場とかけ離れた価格は説明できる資料を残す
同じ社長の会社同士だと、価格を自由に決められます。だからこそ、相場から大きく外れた金額は注意が必要です。
たとえば、通常10万円程度の業務を100万円で発注する。逆に、本来100万円の価値がある業務を10万円で受ける。どちらも利益移転に見える可能性があります。
国税庁は、法人が役員へ資産を著しく低い価額で譲渡した場合などについて、時価を基準に課税関係を整理しています。会社間取引でも、時価や通常価格の考え方を無視すると説明が難しくなります。
請求書だけでなく成果物を残す
税務調査で「請求書があります」と言っても、それだけでは弱い場合があります。請求書は作れるからです。大事なのは、実際に何をしたかを示す資料です。
コンサルなら議事録、改善提案書、チャット履歴、レポート。制作ならデザインデータ、記事、サイトURL、納品メール。営業支援なら商談リスト、架電記録、提案資料。こうした成果物があると、取引の実態を説明しやすくなります。
ロロメディア編集部でも、外注費や業務委託費を整理するときは「請求書だけ残せばいい」ではなく、「何に対する請求かが後から見てわかるか」を意識します。半年後の自分が見てもわからない取引は、外部にはもっと伝わりません。
金融機関や取引先から見たときのリスク

別会社運営は、法律や税務だけの問題ではありません。銀行や取引先からの見え方も重要です。
融資審査では、会社間貸付や関連会社取引が見られることがあります。取引先も、契約相手がどちらの会社なのか、責任を負うのは誰なのかを気にします。
会社間貸付が多いと資金繰りが悪く見える
A社の決算書に「関係会社貸付金」が大きく載っていると、金融機関は気にします。なぜなら、本業で使うべき資金が別会社に流れているように見えるからです。
特に返済予定が曖昧な貸付金は危険です。銀行からすれば、「このお金は戻ってくるのか」「実質的に回収不能ではないか」と見えます。融資を受けたいタイミングでこれがあると、説明に時間がかかります。
会社間貸付をするなら、返済予定表を作ってください。月いくら返すのか、利息はいくらか、返済原資は何か。ここまで出せると、金融機関への説明がかなり現実的になります。
契約主体を間違えると取引先とのトラブルになる
A社名義で営業して、契約書はB社名義。請求書はA社から出る。入金口座は社長個人。こういう状態は絶対に避けてください。
取引先から見れば、誰と契約しているのかわかりません。トラブルが起きたときに、責任の所在が曖昧になります。
契約書、請求書、発注書、納品物、メール署名、振込口座は同じ会社名で揃える。これが基本です。別会社を運営している人ほど、ここを丁寧にしないと信用を落とします。
社長が同じ別会社運営でやるべき実務チェックリスト

ここまで読んで、「結局、何を整えればいいのか」と感じたかもしれません。大丈夫です。まずは全部を完璧にするより、危ないところから順番に直せば十分です。
別会社運営で見るべきポイントは、資金、契約、承認、価格、証拠の5つです。この5つが揃っていれば、後から説明できる状態に近づきます。
会社間取引を始める前に確認すること
会社間取引を始める前に、まず取引の目的を書き出してください。なぜA社ではなくB社が行うのか。なぜこの金額なのか。なぜこのタイミングなのか。
そのうえで、以下を確認します。
- 契約書を作っているか
- 請求書と成果物が一致しているか
- 金額の根拠を説明できるか
- 承認議事録を残しているか
- 振込口座と契約主体が一致しているか
この確認は、取引後ではなく取引前にやるのが理想です。取引後に帳尻を合わせようとすると、不自然な資料になりがちです。
すでに曖昧な資金移動がある場合の整理方法
すでに会社間でお金を動かしてしまった場合も、放置しないでください。まず通帳を見て、会社間の入出金を一覧にします。
次に、それぞれの送金について「貸付」「返済」「業務委託費」「立替精算」「誤送金」など、実態に近い分類をします。分類できないものは、税理士に相談したほうが早いです。
ここで大事なのは、無理に経費へ寄せないことです。仕事の実態がないのに業務委託費にするより、貸付金として整理したほうが説明しやすい場合もあります。税務上の判断は個別事情で変わるので、金額が大きい場合は専門家確認を入れてください。
社長が同じ別会社運営で違法になりやすい危険な行為

最後に、特に避けるべき行為を整理します。これらは「社長が同じだから」で済まされにくいものです。
同じ人物が複数会社を運営すること自体は問題なくても、会社を利用して利益を不自然に動かすとリスクが高くなります。
片方の会社の利益を別会社へ理由なく移す
黒字のA社から赤字のB社へ、根拠の薄い業務委託費を払う。B社に実態のない請求書を出させる。これは危険です。
税務上は経費性が問われますし、会社法上もA社に不利益がある取引として見られる可能性があります。特にA社に他の株主がいる場合、社長の判断責任が問題になります。
やるべきことはシンプルです。仕事の実態を作る。金額根拠を残す。承認を取る。成果物を保存する。この4つがない支払いは、後から守りにくいです。
債務や保証を軽く引き受ける
A社がB社の借入を保証する。A社の資産をB社の借入担保に入れる。これはかなり重い取引です。
会社法上、会社が取締役の債務を保証するような取引は利益相反取引として問題になります。保証は実際にお金が出ていなくても、将来会社に大きな負担が発生する可能性があるからです。
「グループ会社だから大丈夫」と軽く考えないでください。保証や担保提供は、金融機関・株主・税理士・弁護士に確認してから進めるべき取引です。
まとめ

社長が同じで別会社を運営すること自体は違法ではありません。複数会社を持つことも、代表を兼任することも、事業戦略としては普通にあります。
ただし、会社間でお金・仕事・人材・顧客が動くときは注意が必要です。社長が同じだからこそ、価格や条件を自由に決められてしまいます。そのため、利益相反、競業取引、資金移動、税務上の経費性が問題になりやすいです。
実務でやるべきことは、難しい理論ではありません。契約書を作る。請求書と成果物を残す。承認議事録を残す。価格の根拠を説明できるようにする。貸付なら返済条件を決める。この基本を丁寧にやるだけで、別会社運営のリスクはかなり下げられます。
会社を分けることは、うまく使えば事業を伸ばす武器になります。でも、財布まで一緒にすると一気に危なくなる。別会社を持つなら、「社長は同じでも会社は別」という感覚を、会計・契約・意思決定のすべてに入れておくことが大切です。
参考記事:















